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勇者と魔王の息子は一般人です  作者: イマノキ・スギロウ
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4.父のいない日

2017年クリスマスプレゼント第4弾


「正人、ちょっと今日は帰りが遅くなるから晩御飯はママと二人でよろしくな」


「え!?」


 俺の父、勇介は時々仕事の都合で帰りが遅くなる事がある。だが、それは2~3か月に一回か多くても二回程度だった。しかし、


「今月もう三回目だよ? 多くない?」


「この間、先輩の方達が一斉に定年で退職されてしまってな、新入社員も入ってきてはいるが、まだまだ経験不足なんだ。彼らが使い物になるまではもうしばらくこっちで処理する仕事は減らないな」


「そんな~」


「どうしたまー、正人よ我と二人っきりは嫌か?」


「嫌じゃないけど、」


 母と二人で過ごす夜は別に嫌ではない。それは事実だ。嘘はない。ただ……、


「あぁ、無駄かもしないけど一応言っておくよ。ママ、夜はほどほどにね」


「ふん、貴様に指図されて従う我ではないわ!」


「というわけで正人、後は頼んだ」


「で、できれば早めに帰ってきて」


「善処するよ」


 そう言い残すと父は自身の職場へと赴いて行った。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 学校が終わり、俺は何事もなくここまで(・・・・)は無事に(・・・・)自宅へと帰ってきた。


 正直、玄関の扉を開けるのを躊躇するところではあるが、開けないと始まらない。というか冬の寒空の下なので寒い。


「ただいま~」


「おお、帰ったか正人よ。着替えて少ししたら晩御飯にするからな、菓子など食って腹を膨らませるなよ?」


「わかってるよ」


 よかった。まだ(・・)、いつも通りだ。


「今日は、ひっく、同じブタ鼻でもオークの万倍はうまい穀物育ちのブタで作ったトンカツだ。キャベツの千切りとレモンもあるからな」


「!? ……うん、わかった」


 やばい、いつもより早い。どうしてだ? ……あ、そうか、前にトンカツ作るときビールに浸して肉を柔らかくする工夫を母さん試してたっけ。あれをまたやったんだとしたら、余ったビールを飲んでても不思議じゃない。とにかく急いで着替えないと、


 正人は大慌てで着替えを済ませると、台所に行き調理やテーブルに運ぶのを手伝った。


「ひっく、どうじゃ正人? おいしいか?」


「う、うん、肉厚で衣もサクッとしてておいしいよ」


「本当か? ならばよし」ゴクゴクッ


 母子の晩御飯の風景、ただそれだけなのに正人の顔は緊張感に張りつめた表情になっていた。


「ぷはーっやはり揚げ物にはビールが合う合う♪ ひっく、おや? もうビールが無くなったか、お中元でもらったビールはこれで最後だったからのう…、んー仕方ない、確か戸棚に日本酒が、」


「母さんお酒も良いけどご飯も食べようよ」


「おや、可愛い息子にそう言われてしまっては酒ばかり飲むわけにもいかんのう、」


 可愛いが自然に出てる、危険信号だ!


「うんそうだよ、お酒だけじゃなくてご飯もバランスよく、」


「これを飲んでから晩御飯を完食するとしようかの♪」


 いつの間にやら戸棚にあったはずの一升瓶が母の両手に納まっているのを見た瞬間、正人は自分の血の気が引いていくのを感じた。


「ちょっ! 母さんストッ!」


 ごくっごくっごくっ、


 正人の制止も空しく、逆さになった一升瓶の中身はみるみるなくなっていった。


「あぁぁ~~~」


「ぷっはぁーー!! いい気分じゃ~、うぃ~、……まーくん!」


「は、はい!」


 手遅れだ、呼び名が『正人』から『まーくん』に変わった、完全に酔っぱらってる。


「なにかほしい物はないか? 不自由している事はないか? なに、我は魔王じゃ、愛しき我が子が望むのであれば富だろうと国だろうと世界だろうと何でも叶えてしんぜよう」


「いや、特に今ほしい物は、ないです」


「おぉ、そのように母である我の手を煩わせまいとけなげにも我慢することはないぞ? ひっく、愛い奴じゃ、どれ、望みの物が思いつかんのであれば、とりあえずまーくんの為にこの国を丸ごと手に入れて、ひっく、プレゼントするとしようかの、モンスター生成魔法で新生魔王軍を率いてさっそく武力制圧を!」


ヤバい! 冗談じゃなくガチ戦争始めようとしてる!! くそ、使いたくなかったが、最後の呪文を使うしかないか……、えぇい、もうどうにでもなれ!


「母さん! お、俺、母さんと家で二人っきりの夜を過ごしたい、な?」


「ひっく、・・・・・・我と二人っきりの夜とな?」


「うん、ダ、ダメかな?」


「まーくんが…、まーくんが我と二人っきりの夜を所望とな! おぉおぉ、むしろ望むところじゃ!! 今夜は一晩中我が腕の中で甘えさせてやろうぞ!!」


 心の中だけでもはっきりと言っておきたい。

 決して母の事は嫌いじゃない、ただ、俺は断じてマザコンじゃねーーーーーーー!!!!



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 翌朝、


「ただいま~、ママ~、正人~、起きてる~?」


「お、おかえり、」


 仕事を終え、明け方に帰って来た父は疲労を一切感じさせない顔で帰宅した。そして父を迎えた正人は疲労しかないという顔だった。


「お~、またずいぶん大変だったみたいだね」


「父さんがいないと必ずと言っていいほど深酒するんだから当然でしょ」


「まぁまぁ、ママもいつもはああだけど、やっぱりパパがいないと張り合いがなくて寂しいんだよ」


「いつ我が寂しいなどと言った! う、いたたた…」


「二日酔いでつらいなら寝てなよ母さん」


 ビールと日本酒で完全に酔っぱらった母は朝になり、二日酔いで頭痛に苦しんでいた。

 そしてこれは父が仕事て遅くなると毎回恒例の光景としてもはや珍しくもなんでもないモノになっていた。酔っぱらった母はいつも抑圧している感情を解放して父や俺はそれに振り回されるのだが、ただ一つだけ父と俺の場合で違う点がある。父なら勇者としての実力で母を抑え込めるが、一般人の俺は母の魔王としての力を抑えることなど出来るはずもなく、本人の意識をこちらに向けさせて時間を稼ぐしかないというところだ。


「で、今回はどうだった?」


「一晩中頭撫でくり回されたり、春物試着会でお人形にされてた。途中、近所の犬が吠えてイラついた母さんが黙らせようと魔法ぶっ放したけど、ギリギリで上に向けさせて民家への被害はゼロ、ただ電柱に焦げ跡が、」


「そっちはあとでパパがどうにかするよ。よく頑張ったな正人」


「できれば今月はもう勘弁して」


「うん、なんとなるように努力するよ」


 泥酔した(魔王)と二人で過ごす夜は別に嫌ではない。それは事実だ。嘘はない。ただ……、体が持たないので月に二回までで済ませてくれると大いに助かる。


 とにかく昨日も一晩、俺の心の安息を除いて平和だった。


 





1時間後に次話投稿します。

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