3.過去話1
2017年クリスマスプレゼント第3弾
暗雲が空を覆い、雷が鳴り響く地にそびえる不気味な威容を誇る巨城『魔王城』。その中で今、勇者と魔王の死闘が決着の時を迎えようとしていた。
「ふはははは、ここまで来た勇者は数居たが、たった一人で我をここまで追い詰めたのはお前が初めてだ! 誇るが良い! そして死ね!!」
魔王が両手を前に突き出すと、そこから二条の炎が渦を巻きながら一直線に勇者に向かって襲い掛かった。
それを高速で移動して躱そうとする勇者だったが、炎の渦は意思を持っているかのようにその後を追い、どこまで逃げようとも勇者に追いすがった。
「逃げ切れないか、なら、」
炎が勇者に直撃する瞬間、勇者は自身の持っていた聖剣を投げ捨て、無い剣を握るような形で右手を構えた。するとその手に光が溢れて剣の形となって出現し、その剣をもって勇者は炎の渦を切り裂いた。
「貴様、まだそんな力を隠していたのか!」
「これ疲れるからあんまり使いたくないんだけどね」
「我を相手に舐めおって、その余裕すぐに引きはがしてくれるわ!!」
怒り心頭の魔王は自身の大仰なローブから大量の鎖を出現させ、それを勇者に向けて放った。勇者もいくつかの鎖は切り裂いたが、大量の鎖を捌ききる事が出来ずに残った鎖で動きを封じられてしまった。
「まずっ、」
「今度こそ終わりだぁ!!」
片手を頭上にかざして暗く巨大な球状の魔法を生成した魔王はそれを身動きの取れない勇者に向かって放ち、魔王は勝利を確信した。
しかし、魔法がさく裂し、視界を覆うような爆風の中、どうやったのか鎖の拘束から脱出して魔法の直撃を免れた勇者が魔王の眼前へと迫り、手に持っていたさきほどの鎖を使って自分の腕と魔王の腕をがっちりと縛り付けて対峙した。
「なんのつもりだ!? この距離、殴り合いをしようというのか!」
「いや、他に適当なものが無かったからこの鎖で代用しようと思って、」
「代用だと?」
「丸一日死闘を繰り広げておいてなんなんだけど、こういうことは言わずに後悔するより言って後悔する方がマシだと思ってるんで言わせてもらいます」
「何をわけのわからん事を!」
「魔王、結婚してください」
勇者の発言にしばしの沈黙が訪れ、さっきまで怒りで目をとがらせていた魔王は急に冷静な表情に変わり、静かに口を開いた。
「…………貴様、何を企んでいる? そんな嘘に騙される我だと思っているのか?」
「いや、いたって真剣に求婚してます。指輪が無いんでとりあえずこの鎖が結婚指輪の代わりって事でお願いします」
「なぜ魔族の、しかも魔王たる私に人間の貴様が求婚する? いまのいままで殺し合いをしていたのだぞ?不自然であろう?」
「人種、というより種族の違いについては本人同士の合意があれば俺は問題ないと思ってるんだ。それと求婚理由のひとつとして、勇者である俺と対等の力を持っている魔王なら夫婦として互いの意見を気兼ねなく言える関係を築けると思ったからというのがある」
「なるほど、対等な関係の伴侶を望むか、分からなくはないが、ならば人間の世界で王族の娘でも娶ればよかろう? 求婚が嘘ではない証明にはならん」
「勇者と言ったって元々俺は平民の出だからね、もし魔王を倒したとしてももらえるのはせいぜい褒賞や爵位、領地といったとこじゃないかな? 王女様と結婚できるかと聞かれればそれは難しいよ」
「なぜだ?」
「いつの時代も王族というのは結婚すら国同士の政治に利用してるし、それ以前に勇者並みに力が強い人間なんて非力な人達からしたら積極的に襲ってこないというだけであとは魔族と大差ないだろうからね」
「ふむ、確かに人間どもは種族や力量の違い程度で相手との付き合い方を変える軟弱者どもが多いからな、対等な関係というそなたの条件には適さぬか…」
「それにもし王家と結婚なんてことになったらなったでヘタしたら人間同士の戦争に使うための兵器扱いされる事だってあるかもしれないじゃない? というか実際にそんな歴史の話もあるくらいだからね」
「そういえば我が挙兵するずっと前に起こった人間同士の争いで飛び抜けた力を持つ兵士が居たという話を小耳に挟んだことがあったがもしやそれか?」
「たぶんね。で、そんな中で自分より力の無い女性と結婚したとしてもたぶん対等な夫婦関係を築くのは難しいだろうし、もっと言えばそれが弱みになって他者に利用されたり、不幸な結果になったりもするかもしれないじゃない? だから人間同士の面倒なしがらみもなく、力関係も対等な君と結婚したいんだよ」
「…………一応筋は通っておるな、だがそんな理由で求婚されて我が了承するとでも?」
「ごめん、求婚した一番の理由を言ってなかった。さっきの爆風で君の顔を隠していたフードが取れて女性だとわかった瞬間、今日一日戦ってもしも君が女性だったら、と思えるくらいに感じていた魅力に我慢できなくなったんだ」
「魅力だと?」
「そう、そこらの賢者を名乗る人間なんかよりもよっぽど精緻で計算された魔導を扱える繊細さ。奇策や搦め手で攻めてもうろたえず、冷静に対応できる柔軟さ。そして困難な状況でも常に声を張り、戦いに臨める勇気と明るい笑顔。僕にとってこれ以上にすばらしい女性はいないと思える程の存在だよ。だからこそ何度でも言うよ。魔王、僕と結婚してください」
「こ・と・わ・る・!」
「どうして?」
「当然知っておると思うが、我は同族たる魔族の生存圏と誇りをかけて人族と戦争を始めたのだ。その我が戦争の決着もつけておらん内に、いや、つけたとしても人間の勇者と結婚だと? 出来るわけが無かろう!」
「そんな~」
「さあ、話は終りだ。戦争はまだ続くが貴様との戦いは今ここで決着を付けてやる」
「うん、じゃあ次に求婚する時は良い返事を期待するよ」
「次などない! 死ね!!」
「うん、一緒に死のう」
勇者がそう言うと、二人を中心に魔王の間の床一面に大きな魔方陣が出現し、目を開けていられないほどの光が魔方陣から発せられた。
「な、なんだこれは!?」
光の中でわずかに見えたそこには自分の身体が、そして勇者すらも少しずつ光になって消えていく光景が映っていた。
「魔族だ人間だなんて気にしなくていい世界でもう一度君に告白するよ。次に会えるのを楽しみにしててね」
「ふざけるな! なにをわけのわからんことを! こんなもの魔方陣から出れば……!」
光の中から脱出しようとした魔王だったが、勇者に巻きつけられた鎖によって動きを抑えられ、抜け出そうともがいているうちに二人は完全に光に包まれ、魔方陣の中に立っている者は誰も居なくなった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……まったく、今思えばあの時いつの間に魔方陣を仕掛けていたのだ?」
「君と丸一日戦っているうちに少しずつね、元々は僕自身の力で倒しきれない時の切り札だったんだけど、君が僕のお嫁さん(予定)だったからちょっと予定変更でいじったんだ。この世界でまた会えるように」
「つくづく抜け目のない奴だなお主は、」
「そのおかげでこうして君と結婚できたし、正人も生まれた。ママにとってもあの子は宝物でしょ?」
「ふん、貴様に答えてやる必要はない! 船食いクラーケンの子どものようなイカの煮物でも食らっておるが良いわ!」
「うん! ママの作る煮物はおいしいから一緒に飲むお酒もどんどん進んじゃうよ♪」
「黙って食え! あと我にも麦酒を注げ!」
「はいどうぞ」
正人が寝た深夜、二人の大人の時間は少しだけ騒がしく、しかしご近所には迷惑にならない程度に静かに過ぎて行った。
とりあえず、ここまで。書き上げ次第次を掲載します。