温もりを求めて
今日は彼女と映画デートの約束をした。
少し早いかなって思って行くと、待ち合わせ場所には既に彼女がいた。
お互いに5分前には集合主義なため、比較的スケジュールがスムーズにいく。
「よっ!」
「おっつー」
「寒いなあ」
「風があるからなあ。昨日より3度低いらしいで」
「どうりで鼻が出てくると思ったわ」
「もー汚いなあ」
「別に付けるわけじゃないやろ。ほら、行こ。映画始まってまう」
「あ、うん」
そして、並んで歩き出す。
といっても、俺らは身長差が20cm弱あるから、たまに差が開いて
しまうのか、ひょこひょこ付いてくるのが何か小動物みたいでいつも
可愛いなって思う。
そして、他愛のない話もしながら、ぼちぼち歩いていたら、いきなり
彼女が立ち止まった。
「どうしたん?」
「あの」
「うん?」
「手っ・・・・!繋ぎませんかっ」
「・・・・え?」
「手を、繋ぎませんか?いや、繋いでいただきたい、のですがっ・・・・」
真っ赤な顔で真っ赤な手を差し出す。
可愛いなって思ったけど、それよりもなんでそんな謙って言うてるん
やろって思ったらなんかめっちゃ笑えてきた。
だって、別に・・・・
「くくっ・・・もっと普通に言うてくれても繋ぐよ、手くらい」
そう言って差し出された手を握り締めてそのままポッケに入れる。
「こうしてほしかったん?」
「・・・・・うるさいなあ」
「てか、冷たすぎ。手袋とか持ってきたらいいのに」
「・・・・かったの」
「え?」
「持ってこやんかったの、わざと。悟志くんとこうやって手を
繋ぎたくて。だって、寂しいやん。一緒に居って横歩いてるのに
温もり感じられへんなんて。大体いつもちょっと歩くの早いから
付いていくだけで精一杯やし・・・・でも、手繋ぐのも腕組むのも
嫌いなんやったら無理強いしたら申し訳ないんかな?とか色々
思って・・・・なんとか考えたの!ずっと、我慢してたの!」
寒さのせいなのか、それとも違う理由なのか、うっすら目に涙を溜め、
鼻までも少し赤くしながら訴えてきた。
あぁ、そんなこと思わせてたんや、悪いことしたな。って思う反面、
そこまで考えてくれてたことが嬉しかった。
ただの空気の読まれへん、冷たい彼氏やと思ってるかも知れんけど、
その一生懸命さに愛しさが最高潮になった。
だから、ポケットに手を入れたまま少し自分の方に身を寄せた。
彼女の頭がコツンッと俺の胸にあたる。
「色々考えさせて、そんなことにも気付いてやられへん男で、
ほんまにごめん。俺は俺でちょこちょこ付いてくるお前が
可愛くて、それで満足してもうてて・・・でも、思えばそうやよな。
普通は萌えてる場合じゃなく、隣に誘ってあげるのが正しい
ことやよな」
「ちょこちょこって・・・・馬鹿にされてるみたい」
「してないよ!」
「じゃあ、これからは繋いでもいい?」
「もちろん!てか、俺から繋ぐ!会ったらすぐにこの手握り締める!」
「腕も組んでいい?」
「うん、どんとこい」
「じゃあ・・・・」
彼女はもう片方の手を空いてる方のポケットに入れて、
「こうやって、ギューッて抱きしめて温まっても・・・・いい?」
上目遣い+笑顔+ハグ=俺、キャパオーバー。
あかんっ・・・・可愛すぎる。
「さすがにこれは、あかんかった?」
ちょっと待てい。首かしげも加わってしまった・・・・
「・・・・映画行くのやめよかな」
「え!なんで!そんなに嫌やった?ごめん、調子乗ったよな」
またしても泣きそうな顔になる彼女。
「違う!そうじゃない!その・・・・抱きしめるのとか諸々が反則すぎて
ですねえ・・・・可愛さの極みでございましてねえ・・・・映画うんぬんでは
なく、今すぐいちゃいちゃしたいんですよね」
何か俺とんだ変態みたいやんか・・・・
彼女はちょっと驚いた顔をしたが、恥ずかしそうに俯き、
「・・・・今日中には見に行くようにしよな」
そう言って、俺の手を取って歩き出す。
この手の温もりを絶やすことのないように・・・・。
もう悲しい気持ちはさせないように・・・・。
小さな手を握り締めながらそう心に誓った。