表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精の住む街  作者: 藤村ひろと
第一章
2/18

ミステリーだぜ

二話目です。


追記:サブタイトルを、本文中の文章に統一しました。

 

 ケンイチは呆然としたまま、妖精のほこらの前で立ち尽くしていた。



「さて、それじゃあ、お互い自己紹介と行こうじゃないか」



 傲慢ごうまんな口調でそう叫んだ妖精を見つめ、ケンイチは完全に抜け殻と化している。


 しかし、それも無理はないだろう。



 まあ、女の子じゃないのは仕方ない。


 そう旨い話はないと、諦めて心に保険をかけておいたから。


 それに、おせっかいなおばさんなどよりは、歳の近い男の方が、まだ何とかやっていける。


 だが……



「バット。それにしても、おまえ。もう少し鍛えた方が良いな」


(よりによって、なんでこんなマッチョマンなんだ!)



 ケンイチは目の前の、筋肉のカタマリを眺めながら、絶望的な気分になっていた。


 しかし、当の妖精(妖精と言うのははばかられるような、たくましい姿だが、彼は間違いなく妖精だった)は、ニッコリと笑って口を開いた。


 ボディビルダーのような笑顔で。



「俺の名はマッチョ。マッチョ・ガッカリスだ」



 秋も深まったちょっと肌寒いくらいの季節に、タンクトップに軍用パンツと言う、ちょっとアレないでたちで、この頓狂とんきょうな妖精は親指を立てた。


 なにやら満足げに微笑んでさえいる。


 ケンイチは気が遠くなった。



「マッチョってそのまんまかよ! 少しはひね……って、えぇ? ガ、ガッカリス?」


「イエス! 早速、ガッカリしてくれたようで、うれしいぜ」



 よりによって負の眷属けんぞくか、と、ケンイチは途方にくれる。


 妖精は大別して、正の眷属と負の眷族がいる。 多くを説明する必要はないだろう。ニッコリス、シッカリス、サッパリスらは、みな正の眷属だ。


 もっとも、負の眷属がすなわち、本人や家族の不幸だと言うわけではない。


 その妖精の能力のベクトルが、「一般的に正か負か」というだけの話。


 カテゴリー分けするための見出し(インデックス)みたいなものだ。


 便宜上、正や負と呼んでいるだけなのである。


 例えば極端な話、負の眷属であるブッコロスの一族などがけば、すぐに巨万の富を得ることができる。理由は言わなくてもわかるだろう。


 ブッコロスなんてスーパーレアな眷属ではなくても、負の眷属だってそう悪いものではない。


 ケンイチもすぐそれに思い当たり、気を取り直してガッカリスを見つめ。


 すぐにまた、新たなため息を漏らす。



(しかし、それならそれで、もう少しまともな姿の妖精でも良いじゃないか)



 そう心の中で叫ぶケンイチをニヤニヤ眺めて、マッチョ・ガッカリスは言った。



「ヤーヤーヤー! おまえの考えていることはわかる。でもな、別に俺は役立ちたいとも思ってないし、要は誰でも良いんだ。ガッカリさえしてくれればな」



 やけに屈託ない笑顔で、しかも無意味にボディビルのポーズまでとりながらそう言われては、返す言葉が見当たらない。


 ものすごく重い足取りで、ケンイチは自宅へ向かって歩き出した。


 もちろん、その後ろにはガッカリスが、バスケットボールのように盛り上がった筋肉隆々の肩で風を切りながら、鼻歌交じりで続く。


 町を行く人波が、彼らの行く手でモーゼの十戒のごとく割れる。



(きっと、ガッカリスの方を本体だと思ってるヒトもいるんだろうな)



 などと情けない気分で、とぼとぼと歩く。


 その気落ちぶりに気を良くしたのか、ガッカリスの方はご機嫌だ。



「俺のパワーは岩をも砕く~♪ イエス! マッスル! 筋肉の歌声ぇー♪」


「その、ものすご暑苦しくて滅入る歌、できればやめてくれないか? くれないんだろうね。君はボクがガッカリすれば、うれしいんだろうから」


「ヘイ! まあ、そう言うな。たしかにおまえのガッカリでも良いが、ヒトのガッカリでも良いんだ。あとな、俺は何もガッカリを欲しがるばかりじゃない。コントロールもできるんだぜ?」



 ケンイチは答えずに、家の扉を開ける。


 待ち構えていた母親に、事の次第を説明する。


 と、彼女はあからさまにガッカリした。とたんにガッカリスが、うれしそうな顔でポーズを決める。


 もっとも母親はこれまでの人生で、いろんな妖精を見てきているから、ガッカリスが使えないといった意味でガッカリしたんじゃない。


 どんな妖精でも、何かしらの恩恵はあるのだ。


 彼女がガッカリしたのは、ガッカリスがあまりにもたくましいからだ。



(きっとこの妖精は、たくさん食べるんでしょうね。ああ、食費がかさむわ)



 一方、別に誰が来てもどうってことないシッカリスは置いておくとして、喜んだのはサッパリスだ。


 なんと言ってもこの筋肉。


 子供にとっては単純にかっこよく見えるし、肩車や高い高いなど、マッチョマンは子供にとって、歩く遊園地だ。



「ねえ、ガッカリス。高い高いしてよ」


「オーケー。妖精はガッカリさせても仕方ないからな。ほうら、高い高いっ!」



 のんきなものである。




 やがて夜遅くなって帰ってきた父親に、ガッカリスを紹介する。



「そうか、ガッカリスの眷属ならよかった。これからよろしくな」



 そう言って穏やかに微笑む父親の前で、ガッカリスは少々居心地悪そうだ。決めポーズも忘れて、下唇を突き出し、しょぼんとしている。


 その様子を見て、賢者シッカリスが薄く笑った。



あるじは良くできた男だ。冷静で、思慮深い。もっとも、そう言う男だからこそ、わしは彼女に結婚を勧めたのだがな。つまり、ガッカリスよ。彼はおまえの能力の使い方を心得ていると言うことだ。そしてもちろん、わしもな」


「どういうこと?」



 その言葉に、ケンイチが反応する。するとガッカリスが答える。



「さっき言っただろう? 俺はガッカリを操れるんだ。例えば、この家が燃えてしまったとする。そりゃあ、ユーたちの落胆はひどいものだろう。だけど、俺の能力で、それを財布を落とした程度のガッカリにすることができるんだ」


「なるほどなぁ……いや、でもそれならサッパリスがいるじゃないか」



 ケンイチの反論に、シッカリスが答える。



「軽い衝撃ならともかく、本当にガッカリしたときは、ほかの部分でいくらイイコトがあっても、心底喜べるものではない。例えば可愛がっていた犬が死んだ後すぐ、宝くじが当たったとして、それは相殺されるかな?」



 なるほど、と、こんどこそケンイチは納得した。


 思慮深いシッカリスはあえて犬にたとえたが、大切なヒトを失ったときの悲しみは、どんな幸運でも補いきれるものではないだろう。


 そんな時、ガッカリスの力は、とても重要なものになるのかもしれない。



「もっとも、人間ってのは不思議なもんで、本当に悲しいときは、しばらくの間、それが癒されるのを拒むことがあるんだよな。悲しみにおぼれ、大声で泣き続けるのが意外と好きなんだよ、人間って。ミステリーだぜ」



 ガッカリスは、胸の筋肉を動かしながら、皮肉な口調で言う。


 いずれは、愛する家族とも、死別するときが来る。


 当たり前のことだが、日常考えないようにしてることでもある。そんな話になってしまい、みんな、なんとなく沈んだ気持ちで、それぞれの寝床に戻った。


 もちろん、ガッカリスだけは少し機嫌が良かったのだが。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ