どう見てもまだ子供なのに?
第十二話です。
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座敷牢とは言いながらも、驚くほど豪奢なつくりの部屋だった。
広く、天井も高く、置いてある調度品はどれも一流のものだ。
しかし、現在そこに監禁されているふたりにとっては、どれも意味を成さない。
ソフィアと引き離され、金属の手錠で後ろ手に拘束されたケンイチとガッカリスは。
部屋に入って監視の目がなくなると、対策を検討し始めた。
「ヘイ、ケンイチ。この手錠を外してくれ」
「おまえはボクを、マジシャンか泥棒だとでも思ってるのか? ボクだって手錠されてるんだぞ? どっちにしても『手錠抜け』なんて出来ないけど。僕が出来るのはせいぜい……」
言いながら後ろで拘束された手を尻の方に持ってくると、そのまま両手を尻で跨ぎ越える。
これでケンイチの拘束は、後ろではなく前になった。
もっとも、だからと言って手錠を外せるわけではない。
しかしこの姿を見たガッカリスは、にやりと笑ってうなずいた。
「イナ~フ。充分だケンイチ。それじゃぁ俺が同じことをするのを手伝ってくれ」
細身のケンイチと違い、ガッカリスは腕も足も太い。
身体の柔軟さに欠けるわけではないが、発達した筋肉はこの場合、かなりジャマになるようだ。
床に転がってもぞもぞやっている姿を見て吹きだしながら、ケンイチは使えそうなものを探す。
と、陶器製の花瓶が目に入った。
「ガッカリス、水をかけたら少しはすべりがよくなるんじゃないか?」
「ま、待ってくれケンイチ。もう少し頑張れば抜けられ……うわっ! やめろ! 冷たっ!」
花瓶の水を浴びせられて思わず身じろぎした勢いで、ガッカリスの方もどうにか、拘束された両手を身体の前に持ってくることが出来た。
「なんてひどいヤツだ」
ブツブツ文句を言いながら、ガッカリスはぶるぶると巨体を振って、動物のように全身の水をはじき飛ばす。
ケンイチは、あまりありがたくないシャワーを浴びる羽目になった。
「さて、お次はこの手錠だ」
言うなりガッカリスは、手錠を力任せに引きちぎろうとする。
かなり本格的なものではあったが、しょせん警察で本当に使用されているものに比べれば、つくりはお粗末だ。
左右の手かせをつなぐ三つの鎖のうち真ん中の輪が、若干ゆがみ始める。
その様子を眺めていたケンイチは、やがて大きくため息をつくとガッカリスに話しかけた。
「それで鎖が切れても、手かせが残るって事には気づいてるんだよね?」
「…………おぉ、そう言えばそうだ。ケンイチ、どうにかしろ」
「それが出来ないから、どうしようって悩んでるんじゃないか」
「針金か何かで、はずせば良いだろう」
「ここに押し込まれた段階で、真っ先にそれを考えたよ。いいかい、ガッカリス。まず針金やそれに類するものが見あたらない。あっても僕らにはそれを使って手錠をはずすスキルがない。はずせたとしても逃げ出すルートがわからない。つまり八方塞ってことさ」
「ノー、ケンイチ。諦めるわけにはゆかない。ソフィアガールを救うんだ」
ケンイチはうなずいて、ガッカリスを見る。
冷静に、冷静に。
自分はガッカリスを助けて戦うことなんて出来ない。平均より少し貧弱な、ただの大学生だ。
だとしたら自分がやるべきは、このキレやすい妖精の代わりに、冷静になって打開策を考えることだ。
腹をくくったケンイチは、そんな風に考えて話し出す。
「とりあえずソフィアちゃんが殺されてしまうことは考えづらいだろう。探しに来たってことは、彼らにとって大切だってことだからね。そして僕らのことも殺すつもりはないみたいだ。機会はいくらでもあったし、わざわざこんな座敷牢に入れていることからも、きっと間違いない」
「俺が殺されかけたことを、もう忘れたのか?」
「妖精なら殺人じゃなくて器物破損だから、ちょっと荒っぽい連中なら妖精を壊すことにためらいはないだろう。だが、ボクやソフィアちゃんは人間だ。簡単に殺してしまうわけにはいかない。さらに言えば、そこまで凶悪な犯罪組織ではなく、相手はお金持ちだけど一般人だ」
だから……と言いかけて、ガッカリスが首を横に振っているのに気づく。
「なんだい?」
「確かに今すぐソフィアガールが殺されてしまうことはないだろう。だが、あまり甘い考えは持たないほうが良いぞ、ケンイチ。あのクソッタレは本物の外道だ。人間の命なんてなんとも思っちゃいない。なんたってあいつは、『移って』やがるんだからな」
「うつって?」
「そうだ。あのどう見てもガキにしか見えない銀髪の外道は……人間じゃない」
「え?」
間の抜けた返事を返すケンイチの目を見つめながら、ガッカリスは吐き捨てる。
「あいつは、妖精なんだ」
ケンイチは目を丸くして絶句した。
「妖精の肉体って言うのは素材こそ人間と似ているが、成長しないことからわかるように、肉で出来た人形だ。いわば、生きた洋服なんだよ。寿命はだいたい50~60年くらい。それ以上は持たない」
「だから20歳、成人のときヒトに憑いて、その人が死ぬころ一緒に滅びるんだね」
もっとも、ケンイチの父のように早世した場合、精神エネルギーが供給されなくなり、妖精も肉体の限界を待たずに妖精郷へ帰る。
サッパリスがそうだったように。
「だが、ごくまれにだけど、肉体が滅んでも妖精郷へ帰ってこないやつがいる。そういうヤツラはみな、肉体を『移って』現世で生き続けるんだ」
「移るって、別の妖精の身体に?」
「妖精の肉体ってのは妖精郷でもらうんだが、それは一体と決まっている」
「それじゃぁ……まさか?」
「イグザクトリィ、そのまさかだ。ヤツラは人間の肉体をのっとって、自分の身体にしてるんだ!」
吐き捨てるように言ったガッカリスの言葉は、ケンイチをひどく動揺させた。
「でも、それじゃぁ、あのレイナスって妖精の、少年みたいな肉体は……レイナスが憑いた人間は、もうとっくに死んでるってこと? あの男はどのくらいこの世界で『生きて』るの?」
「ケンイチ、それは俺にもわからないよ。ただ、あいつの身体からする『死臭』はわかる。妖精だけが感じ取れる『魂の臭い』みたいなもんだ。あの臭気からして、今の肉体もそう長いことないだろうな」
「どう見てもまだ子供なのに?」
「成長しないんだから、見た目じゃわからないさ。妖精の肉体と人間の身体は、構成物は似てるけど、根本的に違うものだ。元の宿主の精神エネルギーが供給されなくなれば、すぐに崩壊し始める。『移った』としても、せいぜい一年くらいしか持たない。だけど……」
ガッカリスは分厚い胸に息を吸い込んで、ゆっくり吐き出した。
「それが成長期の、若い活発な肉体なら、数年は持つんだ」
今度こそ、ケンイチは完全に言葉を失ってガッカリスを見つめる。
それが何を意味するか、理解したからだ。
つまりあの銀髪の妖精は、少しでも長く持つ肉体を得るために孤児院を援助し、そこから気に入った『洋服』を選んで、養子に取るのだ。
彼自身も子供の姿だから、その代行として高柳や川上が動くのだろう。
恐ろしい話の内容に、ケンイチは身体が震えだすのを止められなかった。
「そんな……そんな……それじゃぁ?」
ガッカリスはものすごく不愉快な顔で、ゆっくりとうなずいた。




