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5 さよなら、世界。
光がぼくを導いた。
護衛機の推力増強装置が点った。視覚野への伝達時間は40ms。ぼくの認識層に火球が並んだ。
空中戦が起きる確率を計算中に無関係なノードが発火した。
鳥は、ぼくを恐れなかった。
生命は無機物を恐れない。
ダディは、ぼくに無関心だった。
彼の子供ではないから。
ぼくの名前は…
空中戦の確率は1%未満。
暗黒に浮かぶぼくだけのコンソールは稼動中の核施設をロックオンした。
冷戦の終焉を願うひとりとして、ぼくはつぶやいた。
「さよなら、世界。」
落下物はターゲットを破壊した。
このオペレーションは「彼ら」の仕組んだ支配構造への先制的な自衛手段であった。
やがて壁が崩壊した。
皆は壁向こうの歓声と共に歌い、音楽によってキスをかわした。人類が団結するラストチャンスだった。
パラダイスは現れなかった。
結局は「彼ら」が次々とくり出すビスタに翻弄されて、ぼくらはバラバラに分断されてしまった。電気的な絆は「彼ら」のエシュロン(盗聴ネットワーク)に過ぎなかった。
ぼくらは希望のない宇宙をさまよいながら、どんな夢をみるのだろうか。




