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宇宙蟹工船  作者: 豊洲 太郎
19/21

  18 ヴィーナスの夢

 ベノナ(VENONA)は冷戦時代に、米英情報機関が共同で、自国内のスパイが連邦との間で通信した暗号文書を解読したオペレーションである。この文書には不完全な部分があり「イワン」というカバーネームが多用されていた。「イワン」が何を指すかは不明であったが、当時、ロスアラモスから大量に漏洩した新型爆弾の情報よりも人類の未来に影響が有ると推測されていた。


 「入り給え」

 「軍がNSAのラボにどんな御用ですか?まさか、私が赤く熟したイチゴだと言うのではないでしょうね?」

 「まぁ、識り過ぎているのはお互い様だ。ところで、君の患者は順調かな?」

 「ラボで人類の子供がヴィーナスの夢をみている事が順調だとおっしゃるのなら」

 「拡張現実において時は溶けておる。寝た子を起こすなよ」

 「イワンの覚醒はまだ先です」

 「カエル博士とやりあったそうじゃないか?」

 「博士はテストオラクルの訂正に、ヴィーナスの夢(誤差逆伝播記憶)を適用することは生命への侮辱だという見解をお持ちです」

 「罰を与えるのだね?」

 「現在、つまりこの1955年、最も優秀な計算機は生物脳であることは周知の事実です。しかし生物脳は自己の生命維持に特化しています。ニューロンの重みを訂正するためには、生命を脅かす刺激が有効なのです。」

 「つまり恐怖や後悔を生む残酷な描写を入力するということだな?」

 「そのとおりです、結果として多層並列化モデルの一部をなす生物脳は苦痛のパラレルワールドを彷徨うのです。」

 「神が与え給う、我等の実相とさしたる違いが無いと見受けられるが?」

 「博士は生命の自我同一性が担保される必要が有ると考えています」

 「それで、結論はどうなった?」

 「ヴィーナスの夢にはウォーターマーク(透かし)を入れる。履歴を残すことで個体は後日でも拡張現実に気付く事ができます。我々にとってもモデルをホワイトボックス化するメリットがあります。概ねそのような方針で決着しました」

 「君の真摯さに免じて許可する。だが君には患者の夢の中で父親を演じ抜く自信が有るのかね?まあよい。君の患者も、博士の上官もイワン陽性には変わらん。

 この文明は永い停滞期に入った。ノイマン顧問の発明が量子化されるまでは、あの子らだけが頼みの綱だ。失敗は許されない。文明のフォルトラインに相対する君の覚悟を信じよう。」


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