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宇宙蟹工船  作者: 豊洲 太郎
17/21

  16 トム少佐

 (BoCaw)見た…

 ふたつの銀河が静かに衝突するさまを…

 瞼を閉じたままで。

 質量とその属性は光か闇に回帰する。


 この世界を愉しんできたけれども今は眠ることが望みだ。この寒さにも暗さにも耐えられない。


 メタポライザ(生体維持装置)は冬眠モードに設定されているのだろうか?


生まれ変わることはとても簡単だ、目覚めたときに自分は生まれ変わったと思えばそれでよい。しょせん、前世の記憶などは不確かなまぼろしなのだ。


 アクアリウムの隅に夕日が射していた。カリフォルニアの落日、静かなオレンジ色の逆光線。

 ガラスごしに初老の職員がいる。

 道化顔に口ひげの男、ディミトリは群青色にアメフトチームのロゴがプリントされたTシャツ、ベルボトムのジーンズ、足元はバスケットシューズ、袖も通さずに白衣を肩に引っ掛けていた。

 男の仕事は完璧だったが独り言が多かった。多いどころか非番の時などCANビールを片手にずっと僕に語りかけていた…

この男の狂気はカエルに意志や人格があると思い込んでいるところだ。


 トム少佐殿、宇宙に行けるなんて貴方はラッキーなカエルさ。

 俺にも少佐殿のようにダドポリだった時期があったらしい。1億分の1の勝率で残ったが、生まれてからはもっと凄い確率でサバイバルだ。何十年もかけて俺は少佐殿の飼育係になった。


 タドポリだって?

 仲間の肌にまみれて酸欠に喘ぐ地獄を知っていたのか。カンブリア紀以前の眼のない世界、酸素を奪い、互いに喰い合った記憶を宿しているのか。


 (Bo)僕は金色に輝く瞳を見開いた。


 きょう日この世界はまったく酷いもんだ。東西、南北に白と黒、みんな憎悪によって分断されているんだ、地上には暴力が満ち満ちている。

 新聞は「科学が進んだ高度な物質文明」なんて書いているけど、それはウソっぱちだね。野蛮な共喰いの地平だよ、地球はそういうところさ兄弟。

 失礼しました、小佐殿。


 (Caw)気にしないよ、宇宙からみれば僕たちは同じ譜系の兄弟だ。

 

 少佐殿の脳ミソが全身に詰まっている理由をご存知ですか?


 やはり狂っている。

 僕の身体機能のベースとなる脳は生殖によって調達された。結局はこれが効率的だ。ということは理解している。


 海軍はイルカを魚雷に仕立てようとしていた。その研究の為にヒトやいろいろな生き物の脳ミソを観察したんだ。

 ロボトミー手術を繰り返した結果、脳細胞の過増殖を促すホルモンが特定された。

 そのホルモンを分泌する生物は自然界全体を循環して生息の場としているんだ。

 ヒト、イルカ、カエルにもいる。

 知っていましたか?

 

 記憶が薄れて僕は会話に集中できなくなっている。


 キュルキュルキュル…


 すでに有人飛行が確立されているのに何でいまさら少佐殿が…

 声が遠のいてゆく。


 キュルキュルキュル…


 アクチュエータのスクリュ音が鼓膜に響いた。強い電磁波によってうしろあしが収縮した。信号ケーブルが突っ張る。

 うしろあしの筋肉コヒーラの揺らぎがゲルマニュームトランジスタによって増幅される。


 ザッ…


 モニター用のレベルメーターの針が振れる音。僕にとっては耳慣れた懐かしいノイズだ。訓練は終わったのだろうか。


 (Caw!)突然、光に襲われた。


 OFOのハッチが開いた。輝きに痺れながらも訓練どおりに仮死擬態に入ろうとした。


 「貴方がこの船のパイロットですか?」


 (Bo)僕は金色の瞳を見開いた。何故だか相手の意図が理解できた。僕はかぶりをふった。


 ザッ…


 レベルメーターが振れたので僕の意志が相手に伝わった確信があった。

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