13 いえ、養生テープは私物デス。
「だめだ、だめだ。吐き気が止まらないっす、、、。」
「このカムサッカ星域は冥府魔道ぞ。」と隣の工員が言った。
ガタガタガタ、ゆさっ、ゆさ、ひどい揺れだ。船室は蟹を茹でた臭気がむんむんむんとしているっす。
オイラは、宇宙酔いではなくてただの船酔い、オェッ。
通常航行で空間が歪むはずはないのに、宇宙船がクラゲみたいにぐにゃりんぐにゃんとひん曲がっている。
なんで、この船の内装は×印模様…変じゃネ?
(ドウッ、ドーン)
灯火管制の船室に着弾音が響く。
(ドピュ! パン、プシューッ!)
突然、壁にポッカリと漆黒の闇が…
隣の工員は瞬く間に沸騰する肉片となって穴に吸い込まれてしまった。
オイラは瞳孔全開でそのダークでタブーな穴を見つめたっす。
目玉、吸い取られるのか……
「ちっ、流れ弾、経費削減で工場エリアの防御シールドを止めているの。」
アリス先輩は「甲羅のような板」を貫通痕にあてがった。気圧の差で穴はピタッとふさがった。
「これで充分なんだけど、いちおう念のため…」
先輩は養生テープを×印に貼った。これで船の内装一面が無数の×印模様であるワケが理解できたっす。
「甲殻は鋼鉄よりも強い…」
「本当っすか?」
「エイリアンの殻なの、超強度タンパク質、軽量化で燃費もアップよ。」
「巨大な船をシールドで包む電気代と養生テープ代、どっちが得かって話っすね。」
「いえ、養生テープは私物デス。」
「ええっ、カネ儲けの知恵って凄いっす。累進波動砲は、撃たないっすか?」
「あれは同業者への威嚇用。それに、撃てば電気代がかかるから。」