第4話-糧を得よう〜冒険者ギルドへ〜
門番の人が教えてくれた道を行く。ついつい視線が街並みや道を歩く人にいってしまう。
それもそうだろう。いわゆる中世ないしは近世のヨーロッパのような街並みである。
テレビでヨーロッパの古い街並みが映るたびにドキドキワクワクしていたことを思い出す。少し違うがそれが目の前にあるのだ。少しだけ子供っぽくなっても仕方がないだろう。
それにだ、田舎からこの街に初めて来たものはきっと同様にキョロキョロと街を見るので珍しい光景ではないだろうと思う。
おのぼりさんと思われてカモにされる可能性もあるがそこらへんは考えない事にしたい。初めての場所での観察は大切なことなのだ。
しばらく歩くと広場へと出た。
街の中央が広場という作りは授業で習ったことを思い出させる。
そうこう考えながら歩いているうちに冒険者ギルドへとたどり着く。
ドアを開ける前に一度深く息を吐いてから吸いこみ、もう一度深く吐き出す。
なんでもない普通の顔をしてギルドに入ると中はあまり人がいなかった。
よく考えなくても朝と夕方が多いのだろう。空いてるのならこれ幸いと受け付けらしい場所へと行く。
「いらっしゃいませ。初めましてですね?どのようなご用件でしょうか。」
テンプレ通りの綺麗な受付のお姉さんが事務的な声で尋ねてきた。
フードを被った怪しげな人間に愛想よくなんてできないか。と思う。
「ギルドに登録したいのですが。」
「はい、それではこちらの書類に記入をお願いします。あ、記入の前に確認させていただきますが15歳以上でしょうか。もし成人していらっしゃらない場合本登録はできません。」
書類を取り出しながらじっとこちらを見つめる目はフードを外せと物語っている。
「成人してますので問題ありませんよ。この書類は全て埋めなければいけませんか?」
視線はあえて無視しフードは外さず、書類に目をやり質問する。
書類には、名前、出身地、特技、使用武器、魔法、賞罰、その他備考の項目があった。
「名前だけでも問題はありません。手の内を晒したくないという方や過去と決別している方もいますので。名前も本名である必要はありません。ただ、珍しい魔法が使えたりするとギルドからの指名依頼や、パーティーの斡旋など利点もあります。しかし、魔法において虚偽申告された場合は罰則がございます。」
「分かりました。」
名前の欄にナツキと書き、受付のお姉さんへと紙を渡す。
「それでは登録に伴う説明の方をさせていただきます。」
「お願いします。」
「冒険者にはランクというものが存在します。Dランクまでは自分のランクの依頼を20、あるいは一つ上のランクを10クリアしギルド内での試験をクリアしていただければランクが上がります。依頼を失敗すると報酬の3分の2の額を罰金としていただきます。3度失敗してしまうとワンランク降格の上しばらくギルドカードが凍結され依頼を受けることができません。もちろん依頼主側に失敗原因がある場合はそれによりません。Dランク以上に上がるにはランク相応の依頼を規定数、さらに昇格試験を受け合格する必要があります。またBランクからは指名依頼が入れば断れません。断った場合ペナルティでランク降格や罰金、ギルドカードの凍結などが与えられます。高ランクにはそれに相応しい力と品格が求められます。ただ、能力にそぐわない指名依頼であった場合のみ断る事もできます。流石に死地へと向かわせる事はありません。」
この手の物語でよくあるいわゆるテンプレ的な内容の長い説明を受ける。
「さて、何か質問はありますか?」
「いえ、ありません。」
「ああ、一つ言い忘れておりました。ギルド内での冒険者同士の諍いにギルド職員は関知しませんが、度がすぎると罰則がございます。」
「わかりました。絡まれたので抵抗し少し過剰に防衛しすぎた場合絡まれた側に責任はありますか?」
「いいえ。その場合に騒ぎが大きくなった時は絡んだ側にのみペナルティが発生します。」
「さて、それでは準備ができましたのでこちらのカードに血を一滴垂らしてください。それでは登録は全て完了となります。」
針と一緒にカードが差し出される。針で自分の指を意図的に刺すのは抵抗があるが致し方ないので指を刺すと血をカードにつける。
「これにて終了です。」
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします。」
そう言うと頭を軽く下げる。その拍子にフードがズレ受付嬢にだけ顔が見えてしまった。
「見えました?」
黒髪は珍しい。忌避される場合もある色だ。与えられた少ない知識の中にそうあった。理由までは知らない。
受付嬢はフードを被っている理由がわかり不審げな目を向けてしまった自分を恥じた。
「...見えました。」
「ある程度ランクが上がればフードを外しても大丈夫だと思いますよ。」
「視線が煩わしくて被ってるんです。内緒にしててくださいね、お姉さん。」
「はい。あ、申し遅れました。私の名前はミーシャと申します。以後お見知り置きを。」
「よろしくお願いしますね、ミーシャさん。」