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残された手段

「私達はね金目のものが欲しいんじゃないよ。新たな拠点となる場所が欲しいの。その点あれはいいわ、誰も来ない、誰も襲わない。誰も狙わないのが不思議な立地よ。だから私達が命と一緒に奪うのだけれど」

「なんだと……!」

「ははっ! そう怒らないでよ。大丈夫、ここで下手な事をしなきゃ、アンタは生き残れるんだからさ」


 女盗賊はそう薄く笑い、それに同調するかの如く他の男達もニヤニヤ笑う。

 盗賊達の考えは安易なものだ。その内領主や商人が来て、村人が盗賊に替わっている事に気付くに決まっている。その結果、今以上に安楽の地を失うというのに。

 それにしても……女盗賊は怒っていると言っていたが、それほどまでに顔に変化が出ていたのだろうか。フィオは内心驚いていた。

 自分で自分の内面に気付いていない事を他者から宣告されたに等しいのだから。


――僕は、助けたいのか? 人間達を?


 変な話だ。命はいくらでも生まれて来るのに、そこにある命に拘る事は必要ないと。そう思っているはずなのに。

 第一、彼らとは数日前に出会ったばかりだ。そこまで親しい訳ではない。

 たしかにフィオはエリクやフィスの優しさに触れていはいたが……。


「くっ!」


 フィオは魔力を流して体を動かす。

 しかし駄目だ。体は左右に揺れるばかりでロープは切れない。


「ふん、無駄だって言ったろ。大人しくしてな」


 男はそう言いながらフィオの腹をロープの上から力強く殴る。顔を狙わなかったのは売るためだろうか。

 殴られた衝撃で胃液と一緒に食べたばかりのパンが飛び出してくる。


「おー汚ね。イケメンでも吐くもんは、グロいもんだぜ」


 フィオは男の挑発や暴力に耐えながら脱出方法について考えを巡らす。

 力づくでの突破は無理だという事は身をもって分かった。なら技術を使った方法となるがフィオは縄抜けなど身に着けてはいない。

 となると魔法を使う事なのだが、魔物の毛皮で作られたと言っていた。なら魔法抵抗力も高く一発では切れないだろうし、そもそも火力があるせいで自分まで巻き込まれてしまう。


――なら、最後の手段だ。


 この手は本当に最後の手段だ。一度使うと魂が大幅に疲労する事になるだろう。

 本当にエレオカ村を――レティクス姉弟を救うために、この力を使ってもいいのだろうか? これは人族同士の問題、神の出る幕ではないのではないだろうか?

 けれど考えがまとまる前に、フィオの体は青色の光を帯び始めていて……。


「ん? おい、こいつ輝き始めたぞ! 何するつもりだ?」

「自棄になって何かをするつもりだろ! 命は金に換えられねぇ! 殺っちまえおらぁ!」


 フィオの変化に気付いた盗賊達は即座に売る対象から殺す対象に変化させ、獲物を手に飛びかかった。

 けれど時すでに遅し、フィオは神の姿を取り戻していた。


「……そうか、たった少し会話しただけで……優しさに触れただけで、こんなに強く拘ってしまうものなんだな。人になって見て、分かったよ」

「なっ、何もんだっ!! そこで気を失っているやつの仲間かっ!」


 盗賊達は突如現れた機械的な黒い杖を持ち、青黒いマントのようなコートを着た、2メートル近くの美青年に驚いていた。いや、その神々しさに体が動かないのだろう。

 しかし盗賊達も未熟ではない。すぐさま我に返るとフィオ――メランに襲い掛かって来た。

 まず最初に襲ってきたのは先ほどまでに会話していた女盗賊。愛用のナイフを華麗な身のこなしで振るう。

 メランは人間の時以上の身体能力をもって、かわしていく。


「あ、姉御の動きでもついていけねぇなんて!」

「なんだ! あのデカブツは! 魔物以上のバケモンだ!」


 神力を流し発光した手で女盗賊のナイフを握りしめ、それを握り折った。

 女盗賊は驚愕しつつ、メランとの距離を取る。


「落ち着きな! アンタ達! あいつは尋常じゃないようだけど、所詮一人だよ。6人で連携すれば平気さ」

「お、おう。そうだな」


 女盗賊の一声で男達の動きに落ち着きが出始め、統率されていったのがメランからでも認識出来る。

 それは女が、グループ内でも高い地位にいる事を証明しているから。


――けれど、それは好都合と言うものだ。


 こんな狭い遺跡が戦いの場所だった事が、そこで統率を取れた事が、盗賊達の敗北を意味している。

 メランの体から青い光が粒子のように弾け出し、それが線を描きつつ傍で寝ているフィオの体へと入っていく。時間が残り少ない事を意味している。

 だけど、焦る必要はない。

 盗賊達は熟練された動きでメランの周りを囲み、逃走を封じつつ確実にメランとの距離を詰めていく。

 しかし、これでは盗賊達はお互いの攻撃が当たらないように攻撃を制限されるのに対し、メランの方は気にせずにまとめていけると言う事だ。

 メランの足元から大きな魔法陣が円状に広がっていく。それは盗賊達すら飲み込んで。


「なんだこの魔法陣は?」

「さっきの件と言い、何かする気だよ、急ぐよ!」


 そう女盗賊の言う通り、これはメランの切り札『ユクモース』だ。通常これは魂だけの幽霊か、魂が完全に定着していないゾンビなどしか冥界へ送れない。

 しかし神の姿の時は違う。生きている状態の時ですら、強制的に魂を取り外して冥界へ送る事が出来る。魂を傷つける事を前提にした最後の手段だ。

 盗賊達は下に魔法陣に現れた冥界の扉に寒気を感じたのか、一斉に襲いかかる。

 複数人がお互いに当たらないように替わり替わりにナイフや剣でメランに斬りかかる。

 その場から動けないメランは脳内で詠唱しつつ、杖で剣をさばいていくが、人数が多く体に無数の斬り傷が出来ていく。そしてその傷から光は噴出する。

 ただし、所詮それだけだった。


「時間だ……これで終わりだ!」

「な?」

「何よこれ!? なんか体は空に浮いているような……?」


 盗賊達は体をピクピクと痙攣させ、白目をむいたと思ったら、そのまま倒れた。

 そしてその体からユラユラを行く場所を見失うかの如く魂が肉体から飛び出した。すると魔法陣が発生させていた冥界への扉が開き、6個の魂を回収して閉まった。

 それを見届けた後、メランは膝から崩れた。


「はぁはぁ。流石にこの姿でも人間界では大量に神力を消費するな……」


 メランの体は原型を留めていないほどに青い光となりつつある。その光の行き先は近くで寝ているフィオの体だ。

 メランの今の姿はフィオの体を変化させた訳ではない。神としての魂を外部に出しただけだ。それ故に攻撃を受けに魂が瓦解すると肉体に戻ってしまう。

 さらに現在の人間界では信仰自体が弱まっているため、力そのものも弱まっている。


「この姿を……保てるのは、ユクモースを使わずとも一日10分……という所か。とりあえず」


 メランは右手の先に青い光で出来た剣を作成し、それでフィオの体を縛っていたロープを斬り飛ばす。

 その直後、限界が来たようでメランの肉体は完全に光となりフィオに戻っていく。


「……ん」


 目が覚めたフィオは右手の拳をグー・パーして体が正常か確かめてみる。よかった、特に変化はないようだ。

 ただ魔力・神力・肉体、そのどれもに疲労を感じていた。おそらく魂を外部に出してしまったからだろう。人間の肉体は魂を出しただけでも疲弊するものなのだ。

 とにかく今は外に出る事が先決か。そう思いフィオは立ち上がる。

 自分の目の前で倒れている盗賊達の死体が目に映る。

 会話をした時間はフィス達とそう違いはない訳で、ならばどうして自分は盗賊の方に肩入れをしなかったのだろうか。

 そう一瞬だけ考えたもののフィオは頭を振り、出口へと向かって行った。





 遺跡の外は既に夕方だった。フィオが寝ている間に意外と時間が経過していたようだ。

 その事を確認すると、フィオは村に向けて走り出した。


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