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絡まれる二人

「何? 買取り出来ない!?」

「はい。申し訳ないですが」


 それは夕方近くの時間帯、外で遊ぶ子供達が母親に怒られて自宅に連れていかれる頃、村の中でフィオの叫びが村の中を駆け巡る。

 場所は村の中にある道具屋で、眼鏡をかけた髭の店主の前で服を土で汚しているフィオが驚愕で目を見開いている。

 フィオがこの店に寄った理由は勿論、銀塊を売るためだ。

 しかし――


「それはこれの売り場所が違うという事ですか? もしよければ何処で売ればいいか教えてください」

「ああ、いえ、たしかに専門は冒険者ギルドなどですが、私どものような道具屋でも売る事自体は出来ます」

「そうですか。ならば何故出来ないのです」


 この銀塊が売れないとなると今後の生活予定が狂ってしまう。なんとかして売らないといけない。

 目の前の店主は眼鏡を拭きながら、フィオに対し残酷な話を始めた。


「お客さん。魔物が落とす鉱石、これが何故売れるのか……どこに需要があるのか知っていますか?」

「ええ。たしか加工してお金にするんですよね。求めているのは……国、ですか」


 フィオの脳裏に色々と想像が巡り、それが嫌な予感へと発展させ顔色を悪くさせる。


「そう国なのです。当然加工するのも、そのための技術を持っているのも国――首都です」

「では買い取った鉱石は……」

「ここに限らず、どこの店であっても最終的には首都へ辿り着きます。これが何を意味するのか分かりますか?」

「あなた方は首都に行く……少なくても都会へ行く商人に売りつけて、最終的に鉱石が回って来た商人が首都の加工屋に売るという訳ですか」

「そうです。先程専門は冒険者ギルドと言いましたね。それは冒険者ギルドが首都への通路が整った都会にしか設置されていないからです。要するに加工屋に一直線なのです。だから冒険者ギルドは一般の店より高く買い取り、高く売ります。私達は中間に様々な業者が関わるので安く買い取り、最終的にギルドが売る値段と同じになります。だから皆さんギルドに売るのです高く買ってくれるから」

「そ、それでここで売れない訳とは……」


 嫌な想像が現実になりそうだった。


「ここは田舎です。たいていの店は都会に行っての店の仕入れは数ヶ月に一度くらいです。都市の役人がこの村に来るのも半年に一度ほど。そしてその時に銀塊を買ってくれるとは限らない。伝手がないですから」

「つまり確実な買い取り先がいない田舎では、魔鉱石は売れないし買取り出来ない……と」

「その通りです」


 フィオは完全に落胆した。

 なんて事だ。話を聞く限りこの道具屋だけじゃなく、他の防具屋でも売れないだろう。

 そんな様子に店主は慌てたようで、


「いえいえお客様、私どもが買えないのは価値のある銀塊・金塊でして、銅塊に関しては買う事が出来ます。これくらいなら買い取るお金はありますし、何処でも売る事が出来ます」

「本当ですか」


 どうやら銅塊は安いため、そのものがお金のようなものらしい。田舎特有のルールみたいなものか。

 こうしてフィオは銅塊5つを売り、2銀貨と50銅貨をもらった。これで最低二日は宿屋に泊まれる。

 しかし銀塊が売れないとは……予定では50銀貨は手に入るはずだったのだが。

 想定していた重みより軽すぎる財布の重みに落胆の色は隠せないでいた。


「あっ! フィオさーん。さっき大声が聞こえたけど、何かありましたー?」

「フィスさん」


 トボトボ歩くフィオにとって、布袋に夕食の材料を入れて明るく手を振るフィスは、夕方に現れた場違いな太陽の如き存在だった。







「そんな事があったんですね。でも仕方ないですよ、この辺で銀塊って出て来る事ありませんもん。何処で見つけたんですか?」

「フィスさんには教えたいけど……なんと言うか、偶然だから言葉にしにくいですね」

「フィスでいいよ。私も砕けた言葉を使うから」


 そう言って無邪気な笑顔を、ほぼ初対面のようなフィオに向けるフィス。色んな意味で危ない娘だな、とフィオは思った。

 フィスと出会ったフィオは先程のやり取りを話した後、皿の弁償代として50銅貨を支払った。これで2銀貨のみ手元に残った。


「ありがとう。でも、僕の事は出来たら名字で呼んでくれないか? ほらフィオとフィスって似た名前でややこしいからね」

「えー? そうかなぁ? 私はフィオさんって呼びたいな。弟を助けてくれた恩人だもの、親しみを込めて」

「き、君は、いつもそうなのか? あんまり男性に急接近しようとするのは止めたほうがいいよ。君のためにも、相手のためにも」

「?」


 何がなんだがよく分かっていなさそうに首をかしげるフィスにフィオは視線を逸らす。その顔が赤いのは決して夕日のせいではないだろう。

 その後も二人はトコトコと歩く。その足取りは以前よりも軽いものだ。


「よかったら、旅支度がすむまで私の家に来ない?」

「フィスの家に? 悪いけどお金がないんだ」

「銀塊があるじゃない?」

「買取り手がいないらしい……」

「だから、それを私がなってあげる」


 そう言って、してやったりとニッコリするフィス。


「買ってくれないのは、次の買い取り先がないからだよね」

「そうだな」

「両親達が帰って来た時にそれを渡せば、その次に帰ってきた時に50銀貨になるから。商売人じゃない私達は気長に期待せずに待てるよ」

「準備が整うまでいつになるか分からない。それまで実質タダで泊めているようなものだぞ」

「そうねー。じゃあ、それまで食費代を別途でもらいます!」


 本来50銀貨……2ヶ月分は食費込みだ。それまでに旅立てばフィス達の得となるし、それ以後も居候すればフィオは食費だけですむため得となる。そしてフィオにはやるべき事があり急いでいる事はフィスも知っている。つまりわざと居座る事はないと分かっているのだ。


「ふっ。この商売上手め」

「ふふっ。計算高い女と褒めてちょうだい」


 二人は見つめあって笑いあった後、また雑談しながら歩き出した。


「今計算高いって言ったけど、私あまり頭は良くないんだ」

「そうなのか?」


 ちょっと意外だ。確かに明るい雰囲気はそのまま馬鹿っぽく見える時もあるだろうが、会話してみるとそこまで馬鹿と言う印象はない。


「レティクス一族はこれでも由緒ある家系だから魔導書も伝わっていて、だから田舎にいながら一応魔法使いなんだけど」


 魔法はただ魔力があるだけでは使えない。それを神が伝えた文字で世界に変革をもたらず文章にしなければいけない。そのため文字を理解して、先人が残した文章が書かれた本を読んで暗記しなければいけない。そして覚えたらそれを口にする事で、おおよそ火・水・風・土・光・闇のいずれかの現象を起こす。

 これらは基本的なもので、応用すれば他の現象も起こせる。魔力で身体強化や探知等もその一つ。

 ベテランにもなると口に出さなくてもいいが、それでも脳内で呪文を完全に思い出せなくてはいけない。


「呪文を覚える事が出来ないの」

「それは、なんというか……」

「いいの! フォローしなくて! 自分でも分かっているから。でも本を読むと別の事が気になるというか、呪文を詠むと舌を噛んじゃうし」

「そうか……別に魔法と言う形にしようとしなくてもいいんじゃないか。魔力には別の――」

「おいおいお嬢ちゃん達」


 談笑しながら歩く二人の前に人相の悪い二人組が現れ、行く手を遮る。

二人はいかにもチンピラです、と言わんばかりの服装をしており、服の端端に穴が開いている。そんな見た目にもかかわらず臭いはしない。その事は妙に引っかかる。

フィスは二人を見て怯えたような顔をしたものの、強気で会話に応答した。


「えっとなんですか?」

「知り合いかフィス」

「ううん知らない人。だから旅人だと思うんだけど」

「謙遜すんなって。俺達は知り合いよ知り合い。これからもっとお知り合いになるつもりだ」

「ヘヘッ、そこに兄ちゃんよ、怪我したくないなら女を俺達に渡しな」


 ゲスい笑いをしながら二人はフィスを引き渡すように要求する。

 なるほど。これは強引なナンパのようだ。相手の意思を尊重しないのは感心しないが。

 フィスは一歩下がり、フィオに助けてと目線を向ける。周りで遠巻きにビクビクしながら様子を見ていた野次馬とチンピラもフィオに関心が向く。


「ああ、分かった。フィス行ってあげてくれ」

「えっ!?」


 その場にいたフィオ以外の声がハモった。


「お、おう。兄ちゃん賢明な判断だぜ」

「あ、兄貴、あいつこっちを見て怯えている様子がないですぜ。不味くないっすか」


 二人のチンピラも怯えて女を差し出した訳ではないフィオに調子を狂わせているようだ。しかしこれはフィオの狙い道理ではなかった。

 フィオは本心から行ってあげてと言ったのだから。


「ちょっとフィオさん。なんで行って来いなんて言うの!」

「相手の目的はナンパだ。フィスは僕の恋人でもない以上、相手の応援をするのは当然だろ?」

「恋人でなくても友人でしょ」

「ありがとう友人と言ってくれて。でも、僕もそう思っているからこそ、この結論だ。相手とちゃんと会話して人となりを判断するんだぞ。お付き合いはそれからだ」

「あの人達と会話はしたくないかなって。これまでの会話から性格滲み出ているよ」

「強引な所がダメなのか?」

「そうじゃなくて……」


 そこでフィスは小声でフィオに言って来る。どうみても目の前の男達は体目当てだと。欲求を満たしたらそのままフィスの命も奪いかねない連中だと。外見で人を判断するのは良くない事だけど、女の直感がそう告げているとフィスは熱く語る。

 なんだ死にたくないだけか。そんな感想をフィオは抱いた。

 フィオからすれば別に人族同士で争っても問題ではないと思っている。これが魔族となら話は別だが、人間同士で争い命を落としても魂は冥界へ行き転生する。その転生のためには人間界にいる夫婦が必要なのだ。だから恋愛は応援したいと思っているし、同族同士での殺し合いも止める気もなかった。一つの種族が滅びるというのは別の種族が増えるという事だからだ。

 しかし人間はフィオとは違う感想を抱くようだ。『死にたくない。変な人に貞操を奪われたくない』という気持ち。人間は死を恐れるようだ。昔から冥界があり転生するとあれほど伝えてもなお、死を恐れている。こればかりはフィオには理解できない感情だ。


「別に死んでもいいじゃないか? その内転生する」

「えっ? それを言っちゃうの? 転生してもそれはもう自分じゃないのに……」


 おかしな事を言う。記憶がなかろうと自我が続いていなかろうと魂は共通。ならばそれは同一の存在だと言うのに。


「あっ、兄貴。あの男ヤバい奴ですぜ。転生とかぬかしました。あんな男の女なんかほっときましょ」

「ああ、引き際を見極めるのが肝心だよな。よし帰るか」


 二人のやり取りを見聞きしていたチンピラ達は怯え切った表情で、その場を立ち去る事に決めたようだ。野次馬に「どけ!」と言いながら帰っていく。その野次馬達もフィオを奇異の目で見た後、立ち去った。



 そうして気まずい雰囲気の二人が残された。


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