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エレオカ村に到着

「ここがエレオカ村だよ」


 そうエリクは告げ、フィオもその光景を目にする。


「田舎だな」

「そりゃこんな場所にあるんだ、田舎だよ」


 それは普通の田舎にある村だ。数百年前から目にするほどの。

 村の近くにいるのに、それでも全体を見渡せる広さ。ここでも魔物を警戒しているのか全体を囲っている2メートルほどの木の柵。行商が来ている気配が感じられない石が散らばる道。村の中にある畑を耕す老人。

 そんな村だが驚くべきか幽霊の気配ほとんど感じない。おそらく村は長年魔物に襲われていないのだろう。村の中は安全だという事だ。

 村の入り口にいた門番に旅人だと告げて、エリクと共に村の中に入る。

 村は規模の割にはかなり賑やかそうだ。ただ、村人はこちらをじーと見ている。


「あまり見られると居心地が悪いな」

「はは。この村は人の行き来が悪いからね、行商も偶にしか来ないし。珍しくてジロジロ見ちゃうんだ」


 見世物扱いか。仕方ないと言えば仕方ないが気持ちの良い物ではない。

 神の頃は見られる時は尊敬の眼差しだったが、今のは好奇の目だ。種類が違う。


「ここが僕の家です。泊まっていきますか?」

「いいのか?」

「ええ」


 こんなに怪しいフィオを泊めてくれるだなんて、エリクは余程お人よしなのだろう。

 本来は遠慮すべきなのだろうが、この村に宿屋があるかは分からないし、値段も分からない。今晩だけでも好意に甘えよう。


「あっ、エリクおかえり。遅かったね」


 家に入ると茶色に近い金髪を首元でおさげにした少女が、料理を並べてエリクの帰りを待っていた。






「じゃあ、レットーゴブリンに囲まれていたうちの弟を助けてくれたんですか! 姉としてお礼を言わせてもらいます。ありがとうございます」

「いや、こちらも迷子になっていたし、こうして食事も恵んでもらえた。むしろ礼を言うのは僕の方だよ」


 机に並べられた食事に手を付けながらフィオはお礼をする。

 あれからお客さんとして晩御飯を用意してもらい、その好意に甘えつつ、エリクの姉・フィスにエリクと出会うきっかけを説明していた。

 この姉弟はこの家に二人暮らしをしているらしい。両親は他の仲間と共に一族の使命を果たすために旅をしているそうだ。大人が長期間旅に出ているのも、この村が平和な証だろうとフィオは思う。でなければ戦力となる大人が子供を残して旅に出るはずがない。

 二人はこの村について色々説明してくれた。宿屋の場所、値段、道具屋の場所、通貨の単位など。

 エリクはともかく、フィスは通貨に関しても無知なフィオにツッコミを入れてきたが、エリクのフォローもあって、なんとかその場を凌いだ。


「フィスさん、僕も手伝いましょうか?」


 食事を終えて食器を事前に用意していた水で洗うフィスにフィオは声を掛けた。

 正直こういう雑用など長らくやった事はないのだけれど、食事を頂いたのに何もしないなんて申し訳ないから。


「ああ、大丈夫です。ゆっくりして行ってください」


 そう言って笑顔をくれるフィスにやっぱり気後れもして。だからここは強引にいくべきか。


「いえいえ、これでも得意な方ですから」

「そうなんですか? それじゃあ」


 相手を助けるための嘘も必要か、そう思いながら多少嘘をついて食器を借りる。

 借りたボロ巾で食器を磨こうとすると、その手から食器が落ちガチャーンという大きな音が部屋に響く。

 フィスは床でバラバラになった皿を見つつ、


「と……得意……」

「すっ、すみません。弁償しますから!」


 涙目で震え始めるフィスに慌てて謝るフィオ。

 思えばここまで賑やかで楽しい食卓についたのは久々の事かもしれなかった。




「これが僕の部屋だよ。悪いけど、フィオさんの寝床は床になります」

「勿論かまわないよ。お世話になる身だ」


 エリクの部屋に案内された。フィオからしてみれば、安心して眠れる場所があるだけで、十分なほどだ。

 眠る直前までエリクとレティクス一族について少し語り合った。

 やっぱり、放浪の民でありながら長い事同じ土地に住み着いている現状に納得していない人が多いようだ。エリク達姉弟もその一人らしい。

 本好きなエリクは前々から旅に出て知識を深めたいそうだが、攻撃魔法も使えないので旅を断念せざるをえないそうだ。

 こうして旅人を泊めるのは、旅の話を聞かせてもらうという目的もあるのだろうとフィオは思う。

 そしてエリクの部屋で一晩が過ぎた。


「昨日はありがとう。おかげでぐっすり眠れたよ」

「どういたしまして。困った事がまたあったら遠慮なく来てくださいね」

「ありがとうございます。それと、直ぐお金持ってきますから」

「ああ昨日の。いいんですよ気にしなくても。でも待ってますから」


 お礼を言って、レティクス家から立ち去る。

 昨日聞いた話だと正面に向かって歩けば宿屋があるらしい。もう宿泊の予約でもしておくべきか。まぁここにはフィオ以外の泊めるべき人はいないようなので、後回しにしても問題ないだろう。

 それより宿代が一泊1銀貨なのが問題だ。手持ちは銅塊4つ。売れば1つ50銅貨らしい。1銀貨は100銅貨なので2銀貨となる。二日分しかない。

 それに旅に出る道具の購入も必要だし皿の弁償代も必要だし、なんとかして旅費を稼がないといけない。

 そうなると、出来る手段は魔物の討伐ぐらいか。魔物の数を減らし稼げる一石二鳥だが……。

 昨夜、ゴブリンの血を洗い流した剣を見る。錆びた様子もないし、この剣でも暫くは戦えるだろう。

 もう一度この村へ帰る事が出来るだろうか……そう考えて肩を落とした。






 魔物はどんな存在であれ駆除しなければならない。

 そんな過激な事を考えているフィオだが今の所昨日のような魔物の群れには遭遇していない。

 エリクの言う通りこの森に棲む魔物は積極的に襲うような魔物ではないようだ。幽霊の存在からしてもまったくという訳ではなさそうだが。

 昨日のはフィオが纏う薄い神の気を感知していて襲ったのかもしれないが、今日会う魔物達は逆に怯えて逃げているようだ。

 一応魔力サーチで周りを調べて、この辺りのボスと思われるオークを発見するには発見した。が、見逃す事にした。実力がない、というのもあるがそれくらいじゃフィオの思想的に見逃すのはありえない。見逃したのは村周辺にある森のボスだから、である。

 集団のボスともなれば大なり小なりこの森の生態系に影響を与えている。小物の魔物とは影響力は異なるだろう。となると倒したことで部下のゴブリンが村を襲うなんて事が考えられる。

 可能性がある以上、群れのボスには手を出さないのが賢明だ。大物に手を出していいのは先に手を出された時ぐらいだ。こちらから仕掛ける場合は何かを守り通せるだけの力がないと駄目だろう。

 そんな事があってフィオは魔物に出会う事もなく、出会っても逃げられるという事を数時間にも及んだ。結局今日は銅塊1つだ。


――今日はこのくらいか?


 一日でこのくらいだと魔物討伐での生活は厳しい物だろう。

 これ以上稼ぐには森の奥に行かなければいけない。行けば今以上に魔物を世界から消し去る事が出来る事だろう。しかしまず間違いなく返り討ちに会う。

 長期的に見ればここは奥に進まない方が無難だ。

 フィオは目を閉じ、魔力の代わりに神力を体から放出し魂の波長が異なる存在を探し始めた。神力は人間の体には負担が強すぎる。体に裂傷が生まれ血が流れ始める。


「ん……そこか」


 体が限界を迎える前に魔物を見つけた。魂の波長が人ともゴブリンたち銅塊のものとは違う。もしかしたら銀塊持ちかもしれない。

 用心しながら傍に近づいて行くと普通の木があった。


「なんだ? ただの木じゃないか」


 反応があったのは別のものだろうか? しかし周辺に隠れるようなものはない。

 強化された目でもただの木にしか見えない。魔力センサーにも反応がない。魔力を持たないタイプだろうか。神力を使う訳にもいかないし、ここは危険を承知して触れるべきか……。

 擬態を見抜く手段がないフィオは、とりあえず2メートルほど離れ、石を木に投げてみる。最初は軽く、二回目は魔力を込めて思い切り。


――変化なし……か。


 一切の変化がなかった。が、だからこそ、これが生きている魔物だと確信出来た。

 普通の木ならばヘコむくらいの力で投げたのだから。

 魔物なら、容赦をする必要はないとばかりに剣を抜き構えるフィオ。その殺気に気付いたのか木が心なしかザワザワしている気がする。

 手足に魔力を込めて一気に間合いを詰めて剣を斜めに斬りつける。だが石を投げても無傷だったように、むしろ剣をはじき返す。まだだ、と再度斬りつけたがまたもやはじき返されてしまう。

 はじき返されバランスが崩れたその瞬間、木が擬態を解き滑らかに動く長い枝でフィオの腰を巻きつける。そしてそのまま地面に叩きつけた。


「――がっ!」


 一瞬意識が飛びかけたがなんとか堪え、幸い自由な両手で剣を地面に差し込んで、空中に持ち上げられないようにそのまま足を地面に食い込ませた。

 しかし木は身動きが出来なくなったフィオに向かって木の葉を物凄い速度で飛ばす。

 フィオは自分の目の前に魔法陣のシールドを発生させ、それを防ぐ。そして防いでいる間に剣を抜いて木の枝を斬った。

 剣では通用しない。つまりこの木に決定打を与えるためには――


「ファイボール!」


 最低限の威力調整をされた火球が、目の前の木を燃やす。

 最初は体をユラユラ動かし、声にならない声を出していた木だったが、徐々に抵抗が弱くなった。



 そして木が燃え尽きた後には、キラキラと光る銀塊が落ちていた。


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