02 エラリーちゃん(19)の華麗なる散弾銃デビュー
次ページから回想が始まるって言ったな?ごめん、本当は次ページなんて無かったんだ。
そもそも私は自分がゲームになってるんじゃないかと薄々思ってるって設定なのに一ページ目から設定からはみ出すような独白突っ込んだら駄目だろうがよォ制作チーム或いは作者よォ。
でも万が一漫画、或いは小説になっている事を考慮すると、次ページが存在する以上は回想に入る前にちょっとばかし挟み込みたい事情の説明があるんだわ。すまんな。
んで早速なんだけど、画面の向こうの君達は水槽の脳って知ってる?
私は自分の遊んでたゲームの中に今いる訳なんだけど、自分からはこれが脱出不可能になった体験型ゲームの中なのか異世界なのかそれとも自分の脳みそに電極繋いで見せられてるマト○ックス的なバーチャル・リアリティなのかそれ以外の何かなのか判断がつかんのよね。
だから製作者又は作者はこの物語に異世界ってキーワードを含めるかどうか迷ってるしジャンルもファンタジーなのかSFなのかコメディなのかで悩んでるらしいよ。
もうスタイリッシュ・ファンタジック・ガンアクションってジャンルで良いんじゃないかな。
それじゃ本題の回想のはじまりはじまり〜。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は呆然と周囲を見回して、それから大人しく現実を受け入れるしか無いと思い知った。
最近買ったゲームの続きをやろうと起動した瞬間、真っ暗な空間へと引きずり込まれ、魔法使いを名乗るおかしな人に一方的で意味不明な説明を受けて──到底信じられないことだけど、次の瞬間私は部屋着に裸足のままで夜の荒野へと投げ出されていた。
こんな状況で自分の身に起きてる事まで疑って混乱し続けても仕方ない。魔法使いの言っていた事を試してみる。
私はこの世界では私は二種類の『魔法』が使えるらしい。一つは元々ゲームに存在しているもの、もう一つはあの魔法使いの使えるたったひとつの力、『虚構を現実にする魔法』だ。
頭の中の想像のものを魔力を使って現実に出現させられる魔法だよ、と魔法使いは何ともざっくりとした説明をしていた。本当なら頭で考えた事が現実になるらしいんだけど、魔法使いではない私にはそんな大袈裟な事は不可能らしい。
私は少し考えて、取り敢えず靴を魔法で出す事にした。
靴なら想像しやすいし、何より砂利の上で素足なのは痛い。普段使っているスニーカーを思い浮かべて、
……えーと?思い浮かべた後どうすればいいの?魔法の発動のさせ方が分からないんだけど。何かの呪文とか必要なんじゃないの?
呪文……呪文……呪文ってなんだよ……ホンワカパッパって呪文だっけ?
「あ……あれ?靴出てる?何で?」
気が付くといつの間にか靴を履いていた。まさかホンワカパッパが本当に呪文だったのか。ダメじゃないかこれは。魔法使うたびにこれ唱えてたらテレ朝に怒られるんじゃない?そもそもホンワカパッパって呪文ですらなくない?
そう言えば靴下履くの忘れた。素足スニーカーはちょっと気持ち悪いな。靴下も出さなきゃ。
そう思った時にはもう足は靴下に包まれていた。履き慣れて少しゴムの伸びたくるぶしソックスだ。
……ホンワカパッパって結局呪文じゃないのかよ。各方面に叱られそうな独白には何の意味があったというのか。
まあ取り敢えず靴と靴下を無事に出せた事で、あの魔法使いが言っていた事が正しいと証明された。
そのせいで今起こっている事態がますます現実性を帯びた訳だけど……考えても仕方ないか。全く見知らぬ場所にいて便利な魔法が使えるようになった事は確かだ。
そう自分に言い聞かせて、適当に第一歩を踏み出した私は──ここが『全く見知らぬ場所』ではない事を思い出す事となる。
「そこの女!動くなっ!」
上空から怒鳴り声が聞こえて、へ、と間抜けな声を出して反射的に私は上を見た。
そこには空を飛ぶ数人の人影が存在していた。いや、浮いてる訳じゃないな。落ちて来てるし。
遥か上空から落っこちて来たというのに、その五人程の人達はスタっと何事も無かったかのように着地し、そして何と、私に向けて剣を構えた。うわー何だあの剣、めっちゃ機能性悪そう。
「女、貴様何者だ?何故ここに居る」
「そんなの捕まえてから吐かせればよくない?」
一人が凄い形相で凄みながら尋ね、更に一人が物騒な事を言いいながら、私との距離を詰め始める。
私はどうしていいか分からず、刃物を向けられた恐怖とその刃物がまるでコスプレの小道具みたいなデザインであるというシュールさに混乱しつつ、取り敢えず敵意が無い事を証明する為に両手をホールドアップした。
「貴様動くなと言ってるだろうが!」
え、ホールドアップもダメなの。
ああそうか、この世界って剣と魔法の世界だっけ。基本的には魔石を嵌めた杖が必要だけど、小規模な魔法なら何も無くても使えるんだっけ。
……そういえば私の『魔法』は身振り手振りさえ必要無しに使えるな。ゲーム外の魔法だからだろうか。
「どうする?正体不明だし、気絶させてから基地に連行するか」
「そんな事しなくても始末しちゃえば良くない?」
し、始末。中々生で耳にする事の無いような言葉が聞こえ、流石に暢気な性格の私でも強い危機感を覚える。
どうしよう。逃げた方がいいかな?でもどうやって……。
「味方じゃない事は確かだ。手足は切り落としてしまっても構わんだろう。それで生きていたら連れ帰って尋問する」
「それでいいか」
ゾッとするようなおぞましい方針が決まった事だけは理解出来た。
相手は剣を持ってる。どうする?武道の経験なんて無いし、ナイフなんか出した所で脅しにもならない──近付けさせず、威力のある武器が欲しい!
脳裏に浮かび上がったのは好んでよくやるアクション系のゲームではお馴染みのショットガンだった。
思い返すとちょっと殺意が高すぎる気がするが、とにかく、それを思い描いた瞬間私の両手にはショットガンが握られていた。
「こいつ、杖を!」
「かかれ!」
飛び掛かってきた二人に、私は素早くショットガンのハンドグリップをスライドさせて構え、引鉄を引いた。
ところでちょっと聞いてほしい。
私昨日ショットガンで人の頭を吹っ飛ばすような年齢制限の掛かったアクション映画を見たばっかりなんだよね。