電車の中のミニドラマ
「隣、いいですか?」
そう声をかける、娘だろうか? 小さい女の子を連れた若いおとうさん。
「ええ、いいですよ」
そう言って少しずれるビニール袋を持った買い物帰りのおばさん。
よかった。座れたみたいだ。
* * *
「隣、座ってもええですか?」
そう声をかける腰のまがったおじいさん。
「ん? ああ、どうぞどうぞ」
そう言ってスマホから顔をあげる、学校帰りのおにいさん。
おじいさん、よかったね。
* * *
「あ、席、良かったらどうぞ」
そう言って席を立つスーツ姿のおねえさん。
「あらまあ、次で降りるから大丈夫よ」
そう言って断るお腹がおっきくなったおかあさん。
おねえさん、残念だったね。次、成功するといいな。
* * *
「ねぇ、隣座っても……いい?」
そう声をかける、ちょっと顔を朱くしたセーラー服の女の子。
「んぁ? 言いぞ? なんでわざわざ声かけたんだ?」
気のない返事を返す、野球部かな? 丸刈り頭の男の子。
「べつに……」
ほら、少し拗ねっちゃった。お嬢ちゃん、がんばってね。
* * *
僕はイス。電車の中にいるイスさ。僕の上や周りでは、名もなき役者さんによる小さいドラマが、たくさん繰り広げられている。
今日はどんな内容だろう。
僕は心を躍らせながら、今日もガタコト揺られていく。
Fin