表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

十三月の物語

八月の裏切

作者: アルト

 僕は今日、彼女を売った。

 なぜかって?

 いくら寛大な僕でも見過ごせなかったし、なにより約束を破ったのは彼女だからね。


「う、うらぎりものぉー! ひどい、ひどいよぉ!」

「さようなら。君が約束を守ってくれていたらこんなことにはならなかったんだよ」


 日本某所、薄暗い路地裏で数名の屈強な男たちに彼女は引き摺られていく。

 力の限り抵抗しているようだけど、それは何の意味もなさない。

 やがて一つのドアに押し込まれようとするが、彼女は両手をドア枠に引っ掻けて抵抗をこころ見る。


「ぐ、ぬぬ」


 僕はそっと彼女の手を外した。

 それを機に、一気に通路の奥へと連行されていく。


 彼女が押し込まれたのは、清潔感のある部屋だった。

 消毒用のアルコールの匂いが立ち込め、背もたれが動く大きな特殊な椅子がある。

 そしてその椅子の左右には作業台があり、様々な道具が並べられていた。

 どれもこれも見るだけで背筋が寒くなるような、プロが使う専門的なものだ。


「さて」


 白衣とは違うが、似たような様子の独特の衣服をまとった男たちが囲む。

 頭はキャップで完全に覆い、顔も大きなマスクをつけているためまったく人相は分からない。

 だがその格好自体で、見るものが見れば、知る者が見れば、誰もが震えあがるだろう。


「いいか、君はこちらの警告を無視したからこうしたことになっている。それは分かるな」


 語る男の声は無機質だ。まったく容赦がないことをしようという雰囲気でもある。


「我慢に意味はなく、暴れて抵抗しても無駄だ。それを、まずは理解しろ」


 ベッドのように、椅子が完全に倒されると男たちが無表情で囲む。

 彼らはこの道のプロフェッショナルだ。

 これから行うことがどれほどの苦痛を伴うのかも知っている。


「これまでの行いを後悔するといい。彼も散々警告したらしいじゃないか」


 男が目くばせをすると、彼女を口を無理やりに開けて何かを噛ませる。

 これで閉じることは叶わない。


「さあ、始めようか」


 男が機材の一つを持ち上げ、駆動させる。

 キュィィィィィイッ! と1000人にアンケートを取っても、ほとんど誰もが聞きたくないと答える音が響き始めた。


 僕は外で彼女の悲鳴を聞いた。

 でも助けない。もう中へは入れない。

 ここは僕が知る限りもっとも腕のいい”歯科医院”だ。

 なぜか入り口がこんな”アレな取引”をするような路地にあるのか気になるけど。

 まあいいか、僕の警告を無視して虫歯になったのだから。

 虫歯になるのも治療するのも、意味のないお金と苦痛がある。

 まあ、こんなに堂々と人に苦痛を与えて泣き叫ばせる職業なんてあるのかな?

 うん、思いつかないや。

 でもまあ、新しい医療器具の試験運用でただでやってくれるって言ってたし。

 お金がかからないからいいや。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ