先を行く君の背中を見て
<プロフィール>
商業では粟生慧で執筆しています。
おもに電子書籍ではBL中心です。
商業の内容はほぼエロです。
絶対に無理だと言われたことをどうしてもだめだとわかっていても実行する。
自分よりハイクラスな頭脳の奴らに混じって、バカが一匹、紛れ込んだときの気分。
お高く済ました連中の横顔を卑屈に眺めながら、ぬきんでて輝く彼の姿を探す。
馬鹿だってわかってる。無理だって知ってる。そういうことをしょっぱいくらい言われて、耳にタコもできた。だけど、俺がこの大学受験するのは、俺の勝手だ。落ちても俺だけの責任。
ただ、どうしても追いかけたかったんだ。自分がしたいことのために大学を選ぶんじゃなく、好きで好きでどうしようもなくそばにいたい彼のそばに張り付いていたくて……。
彼が、俺も同じ大学を受けることを聞いたとき、あざ笑うこともなく、一言、「頑張れよ」っていった。
「頑張るよ」
俺は答えた。はっきり言って、絶望的なくらい合格する確率は低い。マークシートが俺に奇跡を運んでくれない限り、無理だと思う。
受験会場に彼の姿は見えない。他分別の部屋で受けているのだろう。誰も彼もが敵を蹴落として、自分だけは受かりたいと思っている。重たいプレッシャーを感じて、頭痛までしてきた。
ようやく必須科目が終わり、俺は外の空気を吸いに出た。
寒空。灰色の雲。わずかな日差し。最高の冷え込みは過ぎたけど、まだ雪が降ってきそうなほど寒い。ぼんやりとベンチに座り、午後にある小論文試験までの時間を潰そうと思っていた。
ふと日が陰る。誰かが隣に立った。見上げると、彼だった。手に持ったホットコーヒーの缶を俺に差し出して、かすかに微笑んだ。
「一緒に座っていいか」
俺は缶コーヒーを受け取り、驚きを感じつつ、頷いた。
「あと少しだな」
「そうだね……」
彼に向かって大きな顔ができない。俯いて、彼の言葉を聞くだけ。
追いかけた背中が真横にある。たった十センチの距離に俺の心臓は壊れてしまいそうだ。
コーヒーを飲みながら、彼が空を見上げてしみじみと呟いた。
「試験、わかんないとこたくさんあった……。自信なくなるな……」
俺はそっと彼を見る。頼りない言葉を吐きながらも、彼の横顔はほれぼれするほどすがすがしい。俺なんて、一問も自力では解けず、全て勘だけでマークシートを埋めていったのに。努力して自力で問題を解いて、自分の力量を知っている彼はかっこいい。全ての人間が敵のはずなのに、俺に気遣いをする彼がまぶしい。
「午後の小論文、頑張ろうな」
そういって彼はベンチを立って、校舎に入っていった。
やっぱり彼を追いかけたい。全て事実が俺の行為を否定したとしても、運だけは俺の味方でいて欲しい。
彼が好きだ。
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