先生はPTAも恐れぬようだ
「雅宗ー、飴食べる?」
俺の好きないちごみるく味。王道です。
「…」
ん?なんか警戒されてるような…。…!
「いや、変な味のじゃないよ!いちごみるく味だからっ!」
「じゃあ、いただきます」
「どんだけ信用無いんだよ。酷いよ雅宗…」
「すみません」
俺が泣き真似をすると、雅宗が少し困ったように謝る。ちょろいな。
大体、雅宗は警戒しなくてもイイはずなのに。だってこいつは…
「味オンチのくせに!!」
味覚が迷子なんだから。
「そんな事ないですよ。…まぁ母からは食わせがいがないと呆れられましたが。」
「何食べても美味しいとしか言わないんじゃね」
俺が生温かい目を向けると、雅宗の目が泳ぐ。…普段、冷静な人がうろたえるとちょっと面白いですね。
「でも、この間渡された『リンゴのコンポート〜タバスコとの出会い編〜』は俺でもおかしいと思いましたよ」
「うん、おかしいとしか思わない時点で病院に行くことをお勧めするよ」
こいつ毒盛られても気づかなさそうですよね。
てかタバスコって…もはや罰ゲームじゃんか。どうした食品会社。はっちゃけ過ぎだ。
…それを買ったのは俺だけどね!!
「立花、篠塚?菓子を広げて随分、楽しそうしゃないか」
後ろから大人の男って感じの低い声が聞こえる。まぁ実際に大人なんですけどね。
神木 由乃。国語教師にして我らが1-6担任でもある。いつも品の良いスーツをピシッと着こなし、女生徒、稀に男子生徒にまでおモテになる彼が何故、教師になったのかは本校における七不思議の内の一つだ。
ちなみにその前は、ある男子生徒が行う月一度のマイク強奪が七不思議に数えられていた。既に卒業しているので時効なのだそうだ。
話はそれましたがそんなお方が俺の後ろで仁王立ちをしています。
「…えぇ、楽しいですよー。いちごみるく味も好きですけど、こっちのシークワーサー味のグミも美味しいんですよね。お一ついかがですか?」
「あぁ、いただくよ。…授業中じゃなければな」
はいっ二回目ー‼︎ヤバイよ、爪切りに引き続きミニお菓子パーティーだよ。さすがに色々と不味い気がするんですけど。
「お前は余程、先生のことが嫌いらしいな。それともアレか。古典の活用形に対するレジスタンスか。言っとくが先生だって意味わからんからな。なんでそこで変わるの」
うわぁ、先生ったら言ってはいけないことを…じゃなくて‼︎
「先生!これには訳があるんです」
「…なんだ?」
そう、これは避けようがない悲劇なんだ。俺と…そして先生とのさだめ…。ただ、それは非常に言いにくいことなので雅宗に目配せをする。さっきから何黙ってんだコノヤロー。俺の代わりにその爽やかフェイスで俺の言いたいことをオブラートに包んで伝えろ。
俺とのアイコンタクトに成功したらしい雅宗が浅くうなづく。
「ハルは授業中だってこと忘れていたそうです」
「今、先生が振り上げている物が六法全書ではなく国語辞書だということに感謝しなさい」
「マジすみませんっした‼︎」
ちょっ、まっ、置いて!一旦その凶器を置いて!謝るから!角がなんか怖いからっ‼︎てか何バラしてんだ雅宗ぇぇ!
俺が真剣白刃取りの体制になると先生がため息をつく。
「俺はそんなに影が薄いか?」
「いえ、非常に目立っていると思います」
「ねぇ、なんで雅宗はそんな他人事みたいな体を装おってるのかな?」
「現にお前らは忘れているんだろう?」
「無視か。またもや無視なのか」
「それはハルだけですよ」
「雅宗、実は味音痴って言ったの怒ってるんだね?事実のくせに怒ってるんだね?」
「…わかった。立花、話があるので放課後職員室に来るように」
…はい?
「待って、なんで俺だけ⁉︎」
「授業再開するぞー」
「最後まで無視っっ!」
くっそ、覚えてろよ雅宗!