我が家の魔王は黒髪 黒眼のイケメンです
どんよりとした曇り空が俺を憂鬱な気分にさせる。まぁ、顔に出る程ではないですけど。
「おはよー」
「おはよう」
いつも通り扉を開けると遊様がいた。挨拶はしてくれたけど、なんだか不機嫌そうです。何故?
「あれ?今日は俺の席で寝ないの?」
「先客がいたからね」
そう言いながら目線で俺の席を指す。
そこには、黒髪の男が寝ていた。
園央暁鷹。喧嘩好きで授業にもろくに出ないサボり魔。そのくせ、入試でトップの点数を叩き出した天才。おまけに雅宗といい勝負なんですよ、身長も美形度も。…神に愛されすぎだろ。
「若干、イラっときたからイタズラしてきて良い?」
「よし、やってこい」
遊様、即答ですか。
俺は足音をたてないように、ゆっくりと近づく。だが、暁鷹は持ち前の野生の感を働かせたのか起きてしまった。チッ、空気読めよ!
暁鷹は、目の前に立っている俺を見て2、3度切れ長の目を瞬く。
「おはよう、暁鷹」
「…その手に持っている物が何か、聞いてもいいか?」
「油性マジック」
「ああ、そうだよな?それを何故、むき出しの状態で構えてんだ?」
何故?愚問だな。
「そこに暁鷹が寝ているから!!」
「…」
「いった!痛い痛い!頭蓋がっ!頭蓋が軋む!!」
予想以上の威力・アイアンクロウゥゥ!!
「ちなみに何を書くつもりだったんだ?」力は弱くしても手は離してくれないんですね。
「『他の追随を許さぬ匂いフェチ』」
「…」
「俺は皆に、暁鷹は恐い人じゃないんだって…本当の暁鷹を知って欲しかっ痛い!イタッ!ちょ、もう少し力弱めて!!なんか出てはイケない物が出ちゃうからっ!みそとか!!」
脳という名のな!!
「ただ単に俺の性癖、最悪の形で暴露しようとしただけじゃねーか!若干、感動話にしようとしてんじゃねーよ!!無理あるからな!?」
暁鷹は散々、俺をいたぶった後、ようやく手を離す。うぅ、いいじゃないか、少しくらい。
てか、何が本題でしたっけ?
「あ、そうだ。なんで暁鷹が俺の机で寝てるの?」
「ああ、明け方寝ようと思ったんだが、どうにもジメジメして寝付けなかったんだよ」
「また徹夜で本読んでたの?」
暁鷹は不良のくせに知識欲旺盛と言いますか…本好きなんですよ。…不良のくせに。
「ん。んで、お前の机借りてた」
「自分の使えばいいじゃん」
てか、どこで寝てもジメジメは変わらないでしょ。
「お前の匂いってなんか落ち着くんだよ」
「…」
はい、アウトー。
俺が冷たい目を向けていると、教室に雅宗が入ってきた。
「おはようございます」
「おはよー」
「はよ」
「ん?なんで、暁鷹がいるんだ?」
どうやら、暁鷹に気づいていなかったようで、雅宗が珍しそうに聞く。
俺は暁鷹の発言を包み隠さず伝えた。
「ハル、離れて下さい。危険です」
「やっぱり?雅宗もそう思う?」
雅宗が、俺を騎士のように背にかばう。
「春世…後で覚えてろよ?」
「え!?なんで俺だけ!?」
ヤバい!目が笑ってないんですけどっ!!俺は思わず、雅宗の腕にしがみつく。
俺と暁鷹は同室なんですよ。リビング、食卓共通で個別の部屋付き。
ちなみに暁鷹は料理が得意だったりする。暇つぶしには調度良いらしいです。俺もできるけど、暁鷹の方が美味いんですよ。毎日幸せです。ただ…暁鷹を怒らせると飯ぬきにされる。…貴様はママンかっ!!
暁鷹は時計を確認すると、立ち上がった。
「んー、そろそろ自分のクラス戻るわ。…お前らと同じクラスだったら面白かったんだろうけどな」
そう言いつつ、扉まで歩いて行く暁鷹の背には、えもいわれぬ哀愁がっ…!
暁鷹くぅぅん!!
「えっ、何?寂しいの!?俺が恋しいの!?言ってくれれば、いつだって会いに行くのにぃ」
「うぜぇ」
魔王暁鷹は冷たい言葉を残してお帰りになった。遊様が王ならば、暁鷹様は魔王です。
…俺、今まで鬼畜だ、ドSだと言われてきたが暁鷹と遊様にならイジメられてもきゅんときますわ。うん。
立花春世、Mに目覚めた15の春。