校長室はバリアフリー
俺は疑問を解決するため、放課後に二年生の教室のある棟に行こうと考えていた。
ホームルームが終わったらダッシュで行けば間に合うはず。
酢豚のクラスはわからないけど、あのどんなに視界に入れないようにしても勝手に入ってくる人の視線独り占めボディを見つけることは容易だ。
そう思っていたのだ…この時までは。
「立花、ちゃんと来いよ」
「…はい」
ホームルームが終わると同時に立ち上がろうとした俺に由乃先生が釘を刺し、颯爽と教室から出て行った。
……。
「ハル…もしかしてまた忘れ「忘れてない。ただちょっと酢豚のほうが気になってただけだから。忘れてないから」
だからその可哀想な子を見る目をやめてください遊様。
遊様の視線が痛くなってきた俺は急いで教室から出て図書棟に向かう。
由乃先生は職員室ではなく図書棟の中にある一室を使っている。
職員室にいると女性教員が言い寄ってきてうるさいらしい。
女教師は俺達が勉強してる間に何やってんだって話ですよ。
そんな由乃先生が女生徒にまとな授業ができるのか、と思った方もいるだろう。
だが今のところ問題はない。
と、言うのも由乃先生が初めて教壇に立った時に生徒から質問を受け、その中に嫌いな物はなんですか?というものがあったらしい。先生は迷わずこう答えた。
『煩い女』
先生の人権無視はこのころからご健在であったようだ。物って聞かれてるでしょうが。
図書棟の受け付けわきにある部屋に入る。
「失礼しまーす」
部屋には本や書類が積まれた机と椅子、金属製の本棚しかない。なんとも殺風景だ。
ぐるりと部屋を見回すが先生はいない。
釘を刺して颯爽と教室を出て行ったくせになんでいないんですか…。
とりあえず、床に座る。さすがに先生の椅子に座るのは気が引けるからね。
……それにしても、いったいどこに行ったのかなー。生徒か他の先生に捕まってるのかなー。暇だなー。
………………………………………。
……全然来ない!
本当どこに言ったんだよ⁉︎こちとら酢豚を放牧したままなんだよ‼︎何か企んで俺を指名したのかどうか、確認したいのにっ!早く帰ってこいよぉぉ‼︎
「…何をやってるんだ?」
そんな俺の思いが通じたのか入り口から声を掛けられた。
床を転げ回る俺。
扉を開けた姿勢で固まる先生。
「…ちょっと思うところがありまして」
「扉を開けて早々、この光景を見た俺の気持ちも想ってくれると有難いんだが」
「生徒が垂れ流れるパッションを持て余した結果の犯行なんですから見逃して下さいよ」
「止めろよ。その言い方だと、なんか俺の部屋の床がベチョベチョに濡れた気分になるだろ」
「それは聞き手のさじ加減」
「国語辞典で殴るぞ」
「すみませんでした」
俺が早々に謝ると、先生はため息をつきながら俺に手を差し伸べる。
「なんで床に寝転がっているんだ。椅子に座ればいいだろう」
「いやー、教師の椅子って敷居が高いじゃないですか。特に由乃先生にはご迷惑をおかけしていますし」
「何、しおらしい事言ってるんだ?お前なら校長室だろうがどこだろうがバリアフリーだろ」
「なんて失礼な事を言うんですか。そんな事ありませんよ」
「校長室に窓から忍び込んだ挙句、校長のカツラをシャンプー、カットしてやけにフローラルな香りにしたのはとごのどいつだ?」
「やだなあ。それは暁鷹ですよ。俺がやったのはトリートメントとブローです」
「どっちも最悪だな」
なぜだ…?どんな強風が吹こうとも、妙にずれたままの体制を維持し続けるカツラをツヤサラにまでしたんだぞ?
お陰で風が吹く度にカツラの毛、一本一本がサラサラと流れていつ落ちるのか分からなくなり、他の生徒が居眠りしなくなったじゃないか。
そう俺が反論しようとすると、それよりも先に先生が口を開く。
「いや、カツラの話はどうでもいいから本題に入らせてくれ」