だいさんわ おひめさまのぼうけん ぜんぺん
深い、深い森の奥。
そこにすんでいるのは、魔女とお姫様だけでは有りません。
様々な動物達も住んでいます。
その中には、ドラゴンもいました。
お姫様が赤ちゃんだった頃、ミルクを分けてもらっていたインフェルノドラゴンもその一つです。
日本語にすると「業火竜」となるインフェルノドラゴンですが、それほど恐ろしいドラゴンではありません。
幼い我が子を守り、乳を与えて育てるとても心優しい竜です。
ただ、怒るとちょっと街とか小さな国ぐらいだったら火の海に沈める程度です。
そのブレスは一息で堅牢な城砦も破壊するといわれていますが、実際には二発ほど必要なので、それほどでもありません。
もっとも、人間からすれば同じようなものなのですが。
深い森に住むインフェルノドラゴンの子供は、お姫様ととても仲良しでした。
同じお母さんからお乳を貰って頂けあって、まるで姉弟の様に仲良しです。
「ねーちゃーん。もう疲れたよぉー。一回休ませてよー」
「何行ってるの! まだぜんぜん街まで距離があるじゃない!」
今も二人は、一緒にお出かけをしています。
インフェルノドラゴンの子供がお姫様を背中に乗せ、空を飛んでいるのです。
行き先は、魔女がいつも薬を下ろしに行く街でした。
お姫様は、ある使命を帯びてその場所を目指しているのです。
その使命とは。
ずばり、魔女が片思いをしているパン屋を品定めする為でした。
それは、朝の出来事です。
お姫様はいつもの様に、三匹の小動物達に見守られ、読書をしていました。
魔女は薬草を取りにいているので、今は居ないのです。
読んでいるは「これでアナタもドクサイシャ! ~ぼくが考えたサイコウにカッコイイ独裁学~」というタイトルの本です。
タイトルがアレなので勘違いされがちですが、割とガチでヤバイ感じの情報が詰め込まれた、本気でヤバイ本でした。
専門家が読んだら「どうしてこんな本を世に送り出したんだっ!!」と民主主義の世の中でも発禁指定にされるぐらいヤバイ本です。
当然売り出されてから数日で禁書指定されたのですが、無駄にコレクター心の強い先代の森の魔法使いが何処かから手に入れて来ていたのです。
他にも似たような感じで、「世界の滅ぼし方」や「悪魔全集」「死者の書」などといったタイトルの本が、魔女の家の本棚には並んでいます。
でも魔女はどちらかというと恋愛小説が好きだったので、そういう本には興味がありませんでした。
なので、お姫様は悠々とそういう本を読むことが出来たのです。
「はぁ。やっぱり良いわぁ。私、絶対に王座は人間にするのっ! だって人は国、国は人って言うでしょうっ?!」
「意味がちげぇよ!!」
ホシネズミが突っ込みを入れますが、お姫様は全く意に介しません。
うっとりとした表情で本を読み進めます。
そんな様子を見て、ホシネズミは諦めのため息をつきました。
「まったく。お嬢は恋愛小説ばっかりだし。お姫はこれだし。どうなってんだここの連中は」
ホシネズミがぼそりといった言葉に、お姫様はすばやく顔を跳ね上げました。
どうやら気になる単語があったようです。
「そうだわ! お師匠様はもうお年頃だものっ! 恋人の一人や二人いてもおかしくないわよねっ! ねぇ、ホシネズミさん! お師匠様にいい人はいないの?!」
「逆に居ると思ってるのか。しかし意外だな。男なんて寄せ付けないとか言い出すかと思えば」
「何言ってるのよ。あのお年頃ならもう男がいて当たり前じゃない。そりゃお師匠様はちょっと引っ込みじあんだし魔力が多いから歳は早々とらないけど、恋愛はやっぱり大切よ。大切な人が出来ることだもの。けしてお師匠様に子供が出来たて男の子だったりしたらプチ男の子お師匠様をはすはすしようなんてこれっぽっちも考えていないわっ!」
「お前本当に五歳児かっ!」
若干頬を赤らめながら涎を垂らしているお姫様の言葉に、説得力は皆無です。
全力で突っ込みを入れるホシネズミを、リスが宥めます。
「まぁまぁ。落ち着きなよ。でも、たしかにお嬢にもいいひとが出来てもいい頃だよね! あのパン屋さんあたりいいと思うんだけど」
「パン屋さん? まあ、いい人がいますのね?」
「いい人って言うか。話すだけの相手だな。お嬢だから」
「ああ、お師匠様だからという理由で納得してしまう私がにくい。でもそんなお師匠様もかわいらしいですわっ・・・!」
「でもー、実際可能性があるとしたらー、パン屋さんだよねー」
「なんだ、いたのかフェアリードラゴン。だなぁ。あそこぐらいだろうなぁ」
「へぇ、パン屋さんねぇ。ふぅん」
「おい、お姫。会いに行きたいなんて言い出すなよ?」
「嫌ですわ、ホシネズミさんたら。私はまだお師匠様に森から出ていいとは言われていないのよ。いつか街に連れて行ってもらうときまでの楽しみにしておくのも、また乙と言うものですわ」
「ならいいんだけどよぉ」
そんな会話があってから、かれこれ二時間ほどが経過していました。
お姫様は当然の様にリスとフェアリードラゴンと連れ立って、弟分であるインフェルノドラゴンの子供に乗り込み、街へと向かっていたのでした。
インフェルノドラゴンの子供、「バーニカ」は、お姫様に頭が上がりません。
幼い頃から一緒に育ちましたが、赤ん坊の頃からお姫様は頭がよく利発で、バーニカはその後をちょこちょこ付いて回っていたのです。
お姫様もそんな弟分をとてもかわいがり、何かと面倒を見ていました。
そして、時折今の様に片棒を担がせるのです。
子供とはいえ、バーニカはインフェルノドラゴンです。
全長5mを越す空の覇者にして業炎を操る竜に敵うものなど、お姫様と母親であるインフェルノドラゴンママぐらいです。
ボディーガードとしても、移動手段としても最高の相棒といえるでしょう。
「ねー、ねーちゃーん。街に行って本当に大丈夫なのー? ぼくおかーちゃんに叱られるの怖いんだけど」
「何言ってるの! あんたもお師匠様の彼氏候補、気になるでしょう?!」
「うん、すごい気になる」
「じゃあ、そのぐらいでビビらないの! それにばれなければいいのよ! ドラゴンママにもお師匠様にも、ホシネズミにも怒られないわっ!」
「そっかぁー! やっぱりねーちゃんは頭いいやー!」
「バーニカってー、単純だよねー」
「五歳児はこんなもんだよ! お姫が異常なんだよ!」
「そうかー。そうだねー」
何気にどちらにも酷いことを言っているリスとフェアリードラゴンも、バーニカの頭にしがみ付いています。
二匹は面白そうだったので、付いてくることにしたのです。
万が一危険な目にあっても、お姫様とバーニカがいれば安全です。
もし何かがあったとしても、小動物特有の小さな身体を生かして逃げればいいからです。
二匹に、もしお姫様に何かがあったら助けないと!
などという気持ちは皆無です。
お姫様は既に幾つもの魔法を覚えた、超攻撃型お姫様だからです。
自分よりもよほど強い人を守ろうと考えるほど、二匹は人格者ではないのでした。
「ところで、バーニカって街に入っても大丈夫なの?」
「だいじょうぶだよー。ぼく、ねーちゃんに人間になる魔法ならったから! 小さくなる魔法も出来るから、ホシネズミ先生ぐらいにもなれるんだよ!」
「魔法ってー、便利だよねー」
「リスのぼくが超長生きしたりお話できたりするのも、先代魔法使いのジジィがかけてくれた魔法のお陰だしね!」
「クソジジィだったけどー、魔法だけはー、すごかったよねー」
「魔法だけはね!」
もう亡くなった人に対して、二匹はボロクソに言います。
本来ならばよくないことなのですが、相手があのクソジジィなのであまり問題ありません。
そうこうしている内に、街が見えてきました。
お姫様はぺしぺしとバーニカを叩いて、合図します。
「そろそろ下に降りて、歩いていくわよっ! 街の愚民があんたをみたら、びっくりして兵隊を呼んでしまうものっ!」
「叩かないでよー、痛いよねーちゃーん」
「アンタこの間岩が落ちてきたのを頭に喰らってもビクともしなかったでしょっ! いいから速く降りなさい! 見つかるでしょっ!」
「わかったよー、叩かないでよー」
バーニカは泣き言を言いながらも、ゆっくりと森の中に降りて行きます。
こうして、お姫様達の冒険が幕を開けたのです。
お姫様達は、街の中にやってきていました。
沢山のお店や出店のある大通りは、今日もとても賑やかです。
「さぁ、肉! 牛鳥羊なんでもあるよ!」
「とれたての新鮮な野菜は如何かなー!」
「奴隷売るよ奴隷! 新鮮ぴちぴち! 病気も無いよー!」
「新鮮な果物ー! りんごにオレンジ、いろいろあるよー!」
奴隷がお野菜などと同じ感覚で売られていますが、この世界は人権がどうのこうのというものが無いので特に問題はありません。
お姫様も全く気にせず、お店の前を歩いていきます。
ですが、バーニカは気になるものがあったようです。
「なー、ねーちゃーん。あれ買ってよー」
今のバーニカは、とてもかわいらしい男の子の外見をしています。
赤い瞳に、赤い髪の毛。
何処か神秘的なそれらは、きつめの顔立ちと相まって非常に映えています。
バーニカの声が聞こえたのか、奴隷商の店先に並ぶ屈強な男奴隷達が色めき立ちます。
どうやらよく訓練されたうほっであるようです。
「なにいってるの、奴隷なんていらないでしょうっ!」
「ちがうよー、そんなのいらないよー。あのサンドイッチみたいなのだよー」
「ええ? ああ、あの屋台の」
バーニカが欲しがっていたのは、奴隷商の横で売っていた食べ物のほうでした。
よく訓練された男奴隷達が、火が消えたように落ち込みます。
「そうね。お腹もすいたし、ごはんを食べながら作戦を考えるのもいいわね」
お姫様は屋台のおじさんにお金を払うと、売っていた食べ物を三個買いました。
お姫様の分と、バーニカの分と、リスとフェアリードラゴンの分です。
リスとフェアリードラゴンは小さいので、二人で一個を分け合って食べます。
買ったのは、薄い生地に野菜とお肉を挟んだ、この地域によくある屋台料理です。
お姫様たちは近くにあったベンチに腰掛て、皆で並んでそれを食べます。
「ねーちゃーん。これうまいねー」
「ちょっとアンタ、ちゃんとこぼさないで食べなさい! 口の周りソースだらけじゃないっ!」
「いたいよー、ごしごししないでよー」
バーニカの口の周りを、お姫様がごしごしと拭きます。
嫌そうな顔をしていますが、バーニカは動かないようにしているようです。
無駄に抵抗すると、拳骨を喰らうのがわかっているからです。
「それにしてもここは王都から離れてるのに相変わらず人が多いわね。流石第二の都市って所かしら」
「ダイニトシ? ってなーに、ねーちゃん」
「第二の都市よ。要するにこの国で二番目に大きな街ってことね。難しいこと言っても分からないだろうから、簡単に言うとね。人が物凄くたくさんいるところってことよ」
「へー。じゃあ、そのぶんお金が集まったり、物が集まったりするんだー」
「その通りよ。この国は腐っても私と血縁のクソ虫共が支配しているだけあって、法整備も意外としっかりしているし、治安もそれなりにいいもの。こういう拠点が王都以外に出来るのも頷けるわね。お陰で株取引もしやすいわ」
「かぶ? お野菜の先物取引かなんかなの?」
「アンタあいかわらずおバカさんね。株式証券の事よ。今度詳しくお話してあげるけど、僅かなお金を大きく増やすことも可能な国公認のギャンブルみたいなものね。時々私がアンタと街に来てるのは、それを売り買いする為よ。国を支配するにも資金が必要だもの」
「へー。よくわかんないけど、ねーちゃんすげー」
バーニカの理解力もかなりのものな気がしますが、お姫様には全く及ばなかったようです。
お姫様は、時々この街に来ていました。
目的は、資金を集めることです。
今は小さな株取引で細々と稼いでいますが、将来的にクーデターを起こそうと思うならかなりの資金が必要になるはずです。
お姫様は、そんな未来も見据えているのです。
「なー、ねーちゃーん。ねーちゃんってどのぐらいお金持ってるのー?」
「そんなに無いわ。家が2~3軒買える位よ」
「へー、すっげー」
革命には兎に角お金が必要です。
それぐらいでは、お姫様にとってはまだまだだった様です。
「でも、いつもはぼく街の外で待ってるからなー。街に入ったの初めてだよ。やっぱ広いね、人も沢山いるし」
「そうね。このぐらい栄えてもらって無くては困るわ。いつか私の下僕達に成るんですもの」
「へー、すっげー!」
「今回はアンタの見張り用のゴブリンもつれて来てないし、特別なのよ。わかってる?」
「わかってるよー」
いつもはバーニカの頭の上に、彼を見張るゴブリンが載ってくるのですが、今日はリスとフェアリードラゴンがいたので乗せられなかったのです。
森の中で留守番役だったバーニカにとっては、初めての街です。
「いい子にしてたらまたつれてきてあげるし、お菓子も食べさせてあげるから。いい子でついてくるのよ?」
「わかったー!」
「本当に分かってるのかしら」
若干不安が残るお姫様でしたが、今回は非常事態なので仕方がありません。
一刻も早く、魔女の意中の相手の顔を拝まなければいけないのです。
お姫様は、渡した食べ物から野菜を引きずり出して齧っているリスと、肉を引きずり出して齧っているフェアリードラゴンに話しかけます。
「それで、例のパン屋はなんていう店なの?」
「もぐもぐ屋パン店だよ!」
「なんどもー、いったからー、おぼえちゃったよねー」
最近はそうでもありませんが、魔女は一人では外出できないレベルのビビリでした。
例え暴漢が襲ってきても魔法を使えば指先一つでダウンさせられるのですが、精神防御は紙っぺら程も無い魔女に、一人歩きは不可能なのです。
今ではホシネズミ一匹だけをお供に街にこれるようになりましたが、昔はリスとフェアリードラゴンも連れてこられていたのでした。
本当はクマさんや一角獣さん、キングベヒモスさんやインフェルノドラゴンママも連れてきたかった魔女でしたが、ホシネズミが必死に説得したのです。
当時のその努力のお陰で、街は今もこうして平和なのです。
「もぐもぐ屋パン店ってなによ。やる気あるのかしら。もっとこう、常闇の焔堂とか、古より伝わる不可侵の麺麭亭とかかっこいい名前が付けられないのかしら」
どうやらお姫様は中二病を患っておいでのようです。
実年齢が五歳であることを考えれば、とてもませているといえなくもありません。
「それで、そのもぐもぐ屋はどこにあるのかわかるのかしら?」
「もちろん! すぐに案内できるよ!」
「助かるわ。じゃあ、何処か身を隠せる場所を探しましょう。そこで細工をしてから、もぐもぐ屋に向かうわよ」
「細工? なんかしてからいくの、ねーちゃん?」
「そうよ。もぐもぐ屋の事を調べつくす妙案があるの。その作戦のあまりの完璧っぷりに、もぐもぐ屋の表も裏も丸裸よっ! うふふふ、おーっほっほっほっほ!」
お姫様は最高にかっこいいと思っている笑い方で、大きな声で笑いました。
隣ではバーニカとリスとフェアリードラゴンが、もくもくと食べ物を頬張っています。
ベンチの上に立ち笑い声を上げるお姫様を、通行人たちもお店の商人達も、皆ほほえましそうに見守っていました。
ヒロインは魔女です。
でもお姫様が大活躍です。
いいんだ、タイトルにも出てるから。
ダブル主人公なんだよ。
お姫様の細工とはどんなものなのでしょう。
パン屋さんは無事にこの危機を乗り切れるのか。
まて、次回!