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だいにわ おひめさまのはいか

 深い、深い森の奥。

 一人の魔女と、お姫様が住んでいました。

 お姫様は森から遠く離れた王国のお姫様でしたが、あるやんごとなき事情により魔女が育てることになってしまいました。

 どうしてお姫様はこんな深い森で暮らしているのでしょう。

 魔女が森に住んでいるのはよくあることですが、お姫様と二人でというのは大変珍しいことです。

 一体何があったのでしょうか。

 詳しく知りたい方は、ぜひ一話目を読んでいただきたいと思います。




 さて。

 なんやかんやあって、お姫様は深い、深い森に来てから、五年の歳月が経っていました。

 生まれたての赤ちゃんだったお姫様も、今では立派な五歳児です。

 お姫様の面倒を見たのは、当然魔女です。

 ここまでくるのは、本当に大変でした。

 魔女は今まで男性とお付き合いしたことすらない、彼氏居ない暦=年齢系女子です。

 子供の育て方なんて、全く知りません。

 だからと言って、放り出すわけには行きません。

 魔女はとても生真面目で、とてもとてもやさしかったのです。

 自分ががんばらなければ死んでしまうであろう、その小さな命を前に、逃げ出すことなんて考え付きもしません。

 とりあえず魔女が頼ったのは、子沢山のカピバラさんでした。

 沢山の子供を育て、全員を育てさせらカピバラさんは、森一番の肝っ玉母さんです。

 事情を聞いたカピバラさんは、「私があの世に行ったら、あのジジィのケツに蹴り入れてやるわよっ!」と、快く協力を引き受けてくれました。

 このほかにも、沢山の森の仲間たちが魔女を手伝ってくれました。

 お姫様が飲むミルクを分けてくれたのは、丁度卵を出産したばかりのインフェルノドラゴンさんでした。

 お姫様が入るお風呂を沸かしてくれたのは、水の大精霊ウンディーネさん。

 離乳食は、近所に生えている世界樹の実を、リスが取ってきてくれました。

 森の皆に見守られ、お姫様はすくすくと育ったのです。

 途中、魔女が街で育児雑誌を買おうとして、隣に置いてあった結婚情報誌に心を抉られたりしましたが、何とか大丈夫でした。

 自分がしっかりしないといけないと、魔女は自分で自分を鼓舞したのです。

 森の仲間の助けに、魔女のがんばり。

 みんなの思いを一身に受けて、お姫様は元気に、すくすくと育ちました。

 時に美しいものを見て、時に悲しい別れを経験して。

 様々なことを、お姫様は体験しました。

 魔女はそれに寄り添い、いっしょに成長していったのです。

 その教育方法やすごした時間は、誰にも文句は付けられないでしょう。

 今日もお姫様は森の仲間達と、お花畑で遊んでいます。

 お姫様はにこにこと笑いながら、そのかわいらしい声で、歌うように言葉をつむぎます。


「うふふっ! いつか王都にいる愚鈍な兄弟達を蹴落として、私が王になるのよっ!」


 お姫様は大方の予想とは違う方向にすくすくと成長していたのです。

 魔女や森の仲間の教育は、けして間違ってはいませんでした。

 これはもはや、遺伝子のなせる業としか言いようがないでしょう。

 お姫様は生まれながらのそっち系だったのです。

 お花畑でくるくる回りながら踊り続けるお姫様の周りを、森の仲間達も囲んで踊っています。

 シカさんやクマさん、イノシシさんにスライムさん。

 その中で最も数が多いのが、ゴブリンさんたちです。

 ゴブリンさんたちは皆手に持った武器を振り上げ、熱心にお姫様に声をかけます。


「プリンセスニ、エイコウアレ!」

「オウコク、バンザイ! プリンセスニ、ショウリヲ!!」

「バンザイ! バンザイ!!」


 なにやらもう、すごい有様です。

 どうやらお姫様は、ゴブリンたちにとってカリスマ的存在な様でした。

 ゴブリンたちほど出なくても、他の動物達も皆お姫様に夢中な様子です。

 実は彼らは、多かれ少なかれ、お姫様に命を救われたものたちなのです。

 崖崩れに巻き込まれたところを助けられたり、足を怪我して食べ物をとりにいけないとき養ってもらったり。

 特に恩義が深いのが、ゴブリンたちです。

 この世界のゴブリンは、木に成る植物でした。

 マザーツリーという名前の幼樹に実がなり、その中からゴブリンたちは生まれるのです。

 そして、マザーツリーの世話をするのです。

 マザーツリーは比較的荒れた場所や、他の木が生えていない場所に好んで根を下ろします。

 生存競争を避けるためだといわれていますが、それでは栄養や水が足りなくなってしまうことがあるのです。

 それを補うのが、ゴブリンたちです。

 ゴブリンたちは水を持ってきたり、枯れた葉っぱを持ってきては、マザーツリーを枯らさないように世話をします。

 魔女とお姫様がいる森にも、マザーツリーはありました。

 ですが大きな洞窟の中に根を張ってしまい、お日様の光が足りなくなっていたのです。

 もう、枯れるのを待つしかない。

 そんな絶望に包まれていたマザーツリーとゴブリンたちの前に現れたのは、当時四歳だったお姫様でした。

 小さなお姫様は、習いたての魔法を駆使してマザーツリーを助けようとしました。

 そして、それに成功したのです。

 マザーツリーもゴブリンたちも、とてもとても喜びました。

 それ以来、マザーツリーとゴブリンたちも、お姫様の配下と成ったのです。

 一生懸命に尽くしてくれる家臣たちに、お姫様は満面の笑顔で答えます。


「ありがとう、みんなっ! いつか皆を、王都へ招待するわっ! そして、珍しい木の実やおいしい食べ物をいっぱい食べさせてあげるっ! そして、王都に大きな森を作るのっ! お花が一杯あって、木が沢山大きくて、人間が入ってこらないような、すごくすごく深い森よっ!」

「ひゃっはー! さすがおひめさまだぁー! おれたちのことをよくわかってくれてるぜぇー!」

「そこにしびれるあこがれるぅー!」

「プリンセス、バンザイ!」

「オウトノエイコウアレ!」

「「「バンザイ! バンザイ!!」」」


 バンザイの大合唱です。

 お姫様は動物たちの心を、がっちりと掴んでいました。

 その人心掌握力は、まさに王家の血がなせる業です。

 お姫様がいつもの様に森の動物達と遊んでいると、モモンガさんが血相を変えて走ってきました。


「お、おひめさまぁー! てぇへんだぁー! お嬢がきやしたぜぇー!」

「なんですってっ! お師匠様はナイーブで繊細だから、ゴブリンなんてビジュアル的にあれなものを見たら腰抜かして泣いちゃうわっ!」


 かなりひどいことを言っているようですが、実際ゴブリンたちはかなりあれな外見でした。

 子供が見たら、間違いなくトラウマになることうけあいです。

 お姫様の号令で、動物たちは一斉に逃げ出しました。

 木の裏に隠れたり、水の中に飛び込んだし、様々なところに隠れます。

 丁度皆が隠れ終わったところで、魔女の声が聞こえてきました。

 まさにナイスタイミングです。


「リリアンナちゃーん! ごはんのじかんだよぉー!」

「はぁーい! おししょうさまーっ!」


 きらきらとした笑顔を振りまいて、お姫様は魔女の元へ駆け出します。

 お姫様の名前は、リリアンナといいました。

 名付け親は、あのくそじじぃ、もとい、魔女のお師匠である、魔法使いです。

 お姫様は魔女の腕の中に飛び込むと、今日は何をしていたのか報告します。


「あのね、きょうはもりのおともたちと、ダンスをしてあそんだのっ! とってもたのしかったのよっ!」


 うそは言っていません。

 なにやら怪しい集会のような、寧ろサバトに近い内容でしたが、ダンスといえばダンスです。

 魔女はとってもうれしそうに笑うと、お姫様を抱きしめました。


「そう! たのしかったんだ! よかったね!」


 そういいながら、魔女はお姫様の頭をなでます。

 お姫様はうれしそうに目を細めながら、くすぐったそうに笑いました。

 そして、自分の手に持っていたものに気が付き、お姫様は魔女から身体を離します。


「そうだわ、おししょうさまっ! きょうはおししょうさまのために、おはなのかんむりをつくったのっ!」

「まあっ! すごい! 上手に出来たんだねっ! 私にくれるの?」

「うんっ! つけてあげるねっ!」


 お姫様は魔女に冠を付けてあげました。

 小さくて白い、飾り気のない花で作った冠でしたが、素朴な顔立ちの魔女にはとてもよく似合っています。

 それをを見たお姫様はとてもとてもうれしそうに、うっとりとした顔をします。


「まぁっ! とってもきれい! やっぱりおししょうさまには、このおはながにあうわっ!」

「うん、ありがとう。私もこのお花、大好きなの」


 魔女はほんのりとほほを染めると、照れくさそうに笑います。

 そんな表情に、お姫様は心臓を射抜かれたように胸を押さえました。

 そして、こんな風に思いました。


「なんて穢れのない純朴な笑顔なのっ! ハートがきゅんきゅんしちゃうっ! これが萌えなのねっ! こんな世間の薄汚さに塗れていない清らかなお師匠様が都会に出たら、あっという間に食い物にされてズタボロにされちゃうわっ! そんなの絶対に許せないっ! そんなことになる前に、私がこの世界全てを掌握して、世界のほうをお師匠様が住みやすい場所に作り変えてやるわっ!」


 方向性はアレでしたが、お姫様は魔女のことがとても大好きだったのです。

 魔女に守られるだけではなく、いつかは守る立場になりたいと思っていました。

 二人は手をつなぐと、魔女のおうちへと歩き出します。


「さあ、早く帰ろう! さっきホシネズミさんがお夕食を作り始めて、それをリスさんとフェアリードラゴンさんが眺めてたから、そろそろホシネズミさんが怒る頃だよ」

「うふふっ! あのふたりは、いっつもホシネズミおじさんをおこらせてるもんね!」


 案の定、遠くのほうからホシネズミの怒鳴り声が聞こえてきます。


「何をどうしたら小麦粉をふるうだけで爆発が起こるんだっ!!」

「大気などの気体中に、ある一定の濃度の可燃性の粉塵が浮遊した状態で、火花などにより引火すると爆発が起こるんだよ! とってもすごいね!」

「粉塵爆発ってー、やつだねー」

「そういうことを言ってんじゃねぇ! ああ! どうすんだこれっ!!」

「片付けるしかないよね。がんばってねホシネズミ」

「がんばれー、がんばれー」

「テメェらも手伝えぇぇぇえええ!!!」


「たいへん! ホシネズミさんあんなに怒って叫んだら、血管が切れちゃう! 急がないと!」

「あ、まって、おししょうさま!」


 慌てて駆け出す魔女を追って、お姫様も走ります。

 転びそうになりながらも、一所懸命足を動かす魔女を見て、お姫様は頬を紅く染めながら胸を押さえました。


「なんてかわいいのっ! 小動物系過ぎるっ! からかって慌ててるほっぺとかつんつんしたいっ! でもダメよ、まだ今は我慢しなきゃ! いつか私が立派なプリンセス、そして王女様になるときまで我慢よっ! お師匠様はとっても魔力が強くて長生きだから、いつか私のほうがおねぇさまな外見に慣れるわっ! それまで耐えるのよリリアンナ!」


 かなり不穏なことを考えているお姫様ですが、そんなことはおくびにも出しません。

 すこしきゅんきゅんした感じの笑顔のまま、魔女の後を追います。

 内面はかなりアレな感じでしたが、今日も森は、とてもとても平和なのでした。

大きく成長したお姫様。

そんな彼女のために、魔女はせっせと薬を作り、町に売りに行きます。

それは勿論お姫様のためではありましたが、それだけではありません。

大好きなパン屋さんに、会う為でもあったのです。


次回「パン屋さんと魔女とお姫様」 どうぞお楽しみに

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