プロローグ
「ねぇ、世界って何だと思う?」
それは、とある少女が肉親でも、友人でも、知人でもない見ず知らずの少年に何の前置きもなく問い掛けた言葉。
いきなり声をかけられたためか、それともただ単に興味がないのか、少年は何も答えようとしない。
「質問の仕方が悪かったかな?えっとね、アタシが聞いているのは辞書で引けば分かる天文学的な難しい答えじゃなくてね。何というか…そう、キミがこの世界をどう思っているかってこと。ねぇキミ、例えばの話なんだけど、この世界とは違う、全く異なる世界があるとしたら行ってみたいと思わない?」
「………」
少年は首を横に振るだけで何も答えない。
「拒否されてしまった…。まぁ、ぶっちゃけ行きたいって言われてもどうにもならないんだけどね。キミは二次元モノを見たことがあるかな?アニメやゲームやコミックス。それらには様々なジャンルがあって、恋愛・歴史・推理・ファンタジー・SF・ホラー・コメディー・冒険・戦記・童話といった種類に分けられているの。つまりアタシが言いたいのはアタシ達がいるこの世界もそのジャンル分けされた一つの世界なんじゃないかってこと。…あくまでアタシの意見だけどね」
少年は少女の考えが理解できず、頭を悩まされる。
「だってさぁ~、言っちゃあ悪いけど全部の物語にご都合主義があるんだもん。あれって、おかしくない?恋愛モノにおける美少女とか。歴史モノにおける過去の捏造とか。推理モノにおける事件遭遇率とか。ファンタジーにおける特殊能力とか。SFにおける宇宙人襲来とか。ホラーにおける心霊現象とか。コメディーにおける笑劇的な出来事とか。冒険モノにおける出会いと別れとか。戦記における天下統一とか。童話におけるハッピーエンドとか。なんでそう都合よく物語が成り立つかなぁ。…いや、成り立たないとやばいんだけどね。キミだってそう思うでしょ?」
少年は小さく頷く。しかし何も喋らない。
「ご都合主義はどの世界にも存在する。ならこの世界のご都合主義は何だと思う?たぶん簡単な例を挙げるとすればアタシ達人間になるだろうね。人間は猿の進化した姿だって言われてるけど、なら猿はいったいどうやって生まれたのかな?猿から人間になるんならその進化途中の存在がいてもおかしくないはずなのにそんなの何処にもいやしない。なぜか?それはこの世界がそう都合よく人間を作り出したから。そう考えるとまるでピエロの気分じゃない?ずっと踊らされてるんだもん」
少年は何も答えない。何も答えられない。
少女の考えはただの空想でしかないため固定なんて出来るはずない。かと言って猿の誕生秘話を知らないのも事実、全てを否定することも出来ない。
「アタシはこの世界も二次元モノと同じように誰かが設定した世界の一つだと思うんだけど。キミならどう考える?この世界のこと」
少女は少年に問い掛ける。ただ自然に、当たり前に、当初の目的を。
……しかし少年は何も答えようとしない。
「黙り、か…。仕方ないね、今日はもう遅いしそろそろ帰るとするよ。もしまた会うことがあったらその時に教えてよ」
少女はそのまま立ち去ろうとするが、少年に突然手を掴まれたため動きを止め、少年の方へ振り向く。
「えっと…何かな?」
「……キミは…」
「ん?んんっ!?今もしかして喋った!?」
「…キミは、本当にそう思ってるの?…この世界のこと……」
「え、え~っと……(しゃ、喋れたんだ…。喋れないかと思ってたよ)」
少女は人差し指を自分の頬に当て、何やら考える仕草をする。だが少女はすぐその動作を止め、笑顔で一言こう言った。
「うん♪」
その言葉に満足したのか、はたまたその少女の笑顔に魅了されたのか、少年は少女の手をゆっくりと放した。
「んい?満足したかい…?それじゃあバイバイ。少年♪」
そう言って少女はその場を後にする。
まるで役目をを終えたかのように、少年の方を見向きもせず、振り向きもせず、その場を立ち去る。
「…また。…会えるかな…」
遠のいて行く少女の姿を見据えながら、少年は小さくそう呟いた…。
―――少年と少女の出会いそれは平凡な世界での取るに足らない出来事に過ぎなかった。だがこの二人はまた出会うことになる。次に会う時は平凡ではなく非凡な世界で―――