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DEADLY SIX  作者: 七鏡
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直径20キロメートル。あまりにも大きな天の一撃に、デッドリー一行はなすすべもなく、巨大な岩石の下に沈んでしまった。

大きく陥没した大地を空から眺めながら、アマツミカボシは呟く。

「さて、邪魔者は排除した。あとは、この次元を脱するのみ」

アマツミカボシは空を見る。割れた空間。歪ができて、そこから元の世界の気配を感じる。

このままあそこを超えれば、元の次元、彼の大和へ行ける。アマツミカボシの身体が浮遊し、天に向かう。

しかし、彼はそこで止まる。がさり、と下の地面が動いたからだ。

「まさか・・・・・・・・・・・・・・」

アマツミカボシは驚愕に顔を歪める。

大質量の隕石を、まともに食らい、生きていられる生物などいない。いたとしたら、それは神や魔王だけだ。

あり得ない。それほどの相手がいるなどと言う事態を、アマツミカボシは想定していない。

アマツミカボシは空中からそれを見る。

隕石の大質量を最もまともに受けた地点から、黒い何かが迸り、穴が開く。そこから土煙とともに、六人の影が現れる。

灰を被り、ところどころ傷を追ってはいるものの、ほぼ全員が自分の脚で大地の上に立ち、敵意をみなぎらせてアマツミカボシを見ている。

アマツミカボシは空を見る。綻びのあった次元は修復されていた。下で魔女が笑う。

「貴様ら」

「残念ね、アマツミカボシ」

魔女はそう言うと、傍らに膝をつく漆黒の獣の毛を撫でる。

「私たち、天国にも地獄にも嫌われていてね」

ジョンやヘカテが笑う。アントニオは静かに十字架を背負い、プトレマイオスは呆然とそこに立つ。

「さあ、アマツミカボシ。決着をつけましょう」

「何度やっても、無駄なこと」

地上に降り、アマツミカボシは言う。右手にはいつの間にか一振りの刀が握られていた。

「余は貴様らを殺し、大和をあるべき姿に戻す」

「させねえよ、クソッタレ」

ジョンが嗤う。

「お前は俺をキレさせた。本気で行くぜ」

「吠えていろ、駄犬」

そう言い、神は刀を構える。

「切り伏せてやろう」

「やれるなら、やってみろぉ!」

ジョンが叫び、飛び上がる。

その背から、四枚の大きな羽が現れる。蝙蝠の羽のような漆黒のそれが、灰色の空を埋め尽くす。

「ジョナサン・アーヴィングの真の力ァ、見せてやるぜぇ!」

「たかが吸血鬼風情が・・・・・・・・・」

そう言ったアマツミカボシは、刀を振り、衝撃波を放とうとし、固まる。腕が動かない。

魔女の仕業かと思うが、魔力を感じない。

ふと見ると、緑の長髪の半裸の女がアマツミカボシを見ていた。

先ほどまでのように目を閉じてはいない。彼女はその目を開き、アマツミカボシを凝視する。

「この力・・・・・・・・・・・・!?」

アマツミカボシは口を動かそうとしたが、それも封じられる。

ヘカテは口に人差し指を当てて、笑う。

その間に、大きな羽を広げたジョンが、アマツミカボシに接近していた。

「おらおらおらぁあああああああああああああああああ!!!」

彼は鋭い爪と足と、四枚の羽根を斬りつけるように、神の肉体に叩きつける。鋼のようなそれは、アマツミカボシの肉体を切り刻む。羽は刃こぼれした剣のようになるが、それも一瞬で治る。硬度を維持したまま、それはアマツミカボシを斬り続ける。

「おらぁ!!」

ジョンは空中で一回転し、威力を増した蹴りでアマツミカボシを吹き飛ばす。

神の肉体は吹き飛び、巨漢の元エクソシストの方向に向かう。

ヘカテの呪縛が解け、手が動くようになった彼はアントニオに剣劇を放とうとする。

「父と子と聖霊の名において、汝の敵を打ち据えよ」

アントニオが言うと、彼が手を添えていた十字架が光を放ち、形を変える。

「神の子を貫き、死に追い詰めた槍よ。今再び、神を殺すために、封印を解き放て」

光が徐々に消え、そこに一本の槍が現れる。銀色の穂の先端は、深紅に染まっていた。

白い柄を掴み、アントニオは四メートルほどの槍を構える。

「・・・・・・・・・・・・・・・!」

アマツミカボシは顔を歪めた。

アントニオの持つ槍。それは、神の間でも有名な代物。

聖遺物、運命の槍。イエス・キリストの身体を突いた、かのロンギヌスの槍。

アマツミカボシはそれを回避しようとする。だが、麻痺からは完全に立ち直れない。

アントニオはまつろわぬ神の抵抗を受ける前に、走り出し、その穂先でその身体を貫く。

しかし、狙いはわずかにそれ、アマツミカボシの脇を抉っただけであった。

しかし、それだけで効果は絶大であった。

アマツミカボシは野太い声で唸り声を上げる。聖槍の威力。想像を絶する痛み。

神の再生能力をもってしても、その傷は完全に再生はできない。神殺しの槍。その力に抗うことは、異教の神にはできない。

「外したか」

アントニオは静かに呟くと、槍を構える。

ジョンがアマツミカボシの背後に降り立ち、不敵な笑みを浮かべる。

ヘカテは静かにアマツミカボシに顔を向ける。いつでも魔眼は発動できるようだ。

「虫けらどもが」

刀を構えるアマツミカボシ。彼の口が星落としの詠唱を始める。

「させないわよ」

デッドリーが天高く浮かび、手を掲げる。

すると、天に幾重もの魔方陣が浮かぶ。

「いかにあなたの力が異界を超えようと、この三十もの結界を超えられるかしら?」

デッドリーはほほ笑む。アマツミカボシはちぃ、と歯噛みする。

アマツミカボシは敵を見る。いつの間にか、地面から包帯が伸び、彼の足を拘束していた。

「・・・・・・・・・・」

アマツミカボシは呪詛を吐く。自分の復讐を妨げる、異郷の戦士たちに向かって。

「貴様たちに何の権利がある!?余の復讐を、邪魔をする権利が!」

「知らねえよ」

ジョンが言う。

「世界なんて知ったこっちゃねえ。けどよぉ、俺は俺をコケにしたてめえを許さねえ」

銀髪の青年の背中に映える漆黒の羽がバサリ、と音を立てる。

「アマツミカボシ、終わりよ」

「終わりだと、終わらぬ。余は、まだ、終わるわけにはいかぬ」

アマツミカボシの顔に血管が浮き出て、黒い目から血涙が流れる。

彼の怒りに呼応したかのように、灰色の空から雨が降る。石の雨が。

「まさか、私の結界を」

「殺す、全てを、私の夢を邪魔するものすべてに、死を・・・・・・・・・・・・!!」

アマツミカボシの背中から、黒い刀の刃がいくつも現れる。闇の力が増大し、狭間の次元を揺らす。

「奴め、この世界ごと我々を・・・・・・・・・・!」

「止めを!」

アントニオとジョンが走り出す。だが、アマツミカボシの放った剣戟に、脚を止めてしまった。

「無駄、無駄、無駄・・・・・・・・・・・・・・・!!破壊。破壊、死、復讐、大和・・・・・・・・・アマテラス・・・・・・・・・・・・・・・!!」

正気を失った神は、破壊の魔力を解き放つ。先ほどの星落とし以上のものを、振らせようとしていた。

「クソッタレ」

ジョンが呟く。

その時、アマツミカボシの足元が崩れ、そこから黒い獣が現れる。

「まだ、邪魔をするかぁああああああああああああああああああああああああ」

アマツミカボシが叫び、その背中のいくつもの剣が伸び、獣の肉体を貫く。獣は叫び声をあげる。朱い血が大地を染める。

だが、獣は死なない。その敵意に満ちた目を、アマツミカボシに向ける。

「がああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

二匹の獣が叫ぶ。

剣を纏う、黒髪の魔神は、右手に持った刀を振り上げた。

黒い獣は、無数の黒い触手を伸ばし、魔神の身体に入り込む。そして、獣はその右腕を振り上げた。

二匹の攻撃がぶつかる。

天から次なる星落としが迫ろうとしていた。




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