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DEADLY SIX  作者: 七鏡
7/12

7

日本の関東地方にある一つの山。そこにデッドリー一行は転移してくる。

霧が立ち込める山。禍々しい気配と大きな闇を感じた。

「おいおい、これが精霊だって?」

ジョンがデッドリーに向かって言う。精霊と言うにはその力は強すぎた。

「飽くまで物のたとえで言っただけよ、ジョン。精霊だと思ってなめてかかると死ぬわよ」

「それより、星落としを今されたらおしまいじゃなくて?」

ヘカテが言うと、デッドリーは首を振る。

「彼は我々が来たことをまだ察知はしていないわ。魔術と、アマテラスからもらった護符のおかげでね」

「目視されない限りは大丈夫、か」

アントニオは静かに言った。

「そういうことよ。全員、動いてちょうだい。派手に動かないようにね」



霧の立ち込める森の中を、一行は歩く。距離を取りすぎると、前にいる人物が見えなくなる。必然的に彼らは密集していた。

星落としを喰らえば一巻の終わりではあるが、未だにアマツミカボシの姿は見えない。

デッドリー曰く、この山の山頂に彼はいるだろう、とのことだった。

彼は山の上で、凶星を呼んでいるのだという。

アマツミカボシは星の神である。彼の念じる力は隕石を降らせる。

より強力な念により、それ以上のものを呼び寄せることも可能なのだという。もっとも、枯れもまだ試したことはなかったようだが。

近年、アマツミカボシは眠りから覚め、アマテラスに反抗し始めたという。彼の力は眠りにつく前以上になり、日本の神では太刀打ちができないまでになっていたという。

「まつろわぬ神」と呼ばれ、最後まで抵抗し続けた神。その実力も合わせて、兄妹になった彼にかなう神はいないのだろう。

ならばデッドリーたちにも無理かと思うが、そうではない。

信仰や地域が違うものには、神の影響力は大きく落ちる。

信仰こそが神の原動力である。それゆえに、デッドリーらはアマツミカボシの力を最小限にまで減らせる。

とはいうものの、アマツミカボシの力が桁外れなのは変わらない。

デッドリーは魔術を構成し続けながら進む。

ジョンやヘカテ、アントニオも今回は戦える。この間のように、カーズが「本気」を出さずに済むだろう。一番いいのは、プトレマイオスがやる気になることだが、そんなことは滅多にない。

溜息をつくデッドリー。そんな彼女は、急に顔を上げると、霧に包まれた空を見る。

「マズイ!」

デッドリーがそれに気づいた時、ジョンが叫んだ。

「全員、避けろぉ!!」

霧が晴れ、夜空が見えた時、一行は空に光るものをみた。無数の光るそれは、次第に大きくなり、彼らに向かってくる。

それは隕石群だった。アマツミカボシの力によって呼び寄せられた隕石。

それは、一向に降り注ぐ。逃げる暇さえ与えない。

地を抉る一撃が山を襲う。




土煙が上がる底を、空中から眺める者がいた。

黒い髪を無造作に揺らし、腕を組む男。長い紫色の衣を羽織り、刀を腰に差す男。その目は暗黒で満ち満ちている。

「・・・・・・・・・・・・・・」

彼は隕石が降り注いだ地点を眺める。彼に仇名す敵たちがいた場所を。

アマツミカボシは手を振ると、周囲の岩木が動き、天に舞う。

その瞬間、一つの影が飛び出す。それはまっすぐ、アマツミカボシの脳天目がけて駆ける。


斬。


銀色の光が一閃した。ジョン・アーヴィングは真紅の瞳でアマツミカボシを睨む。彼の手刀を右手で受け止め、カウンターの一撃を叩き込んだアマツミカボシを。

ジョンの口元から血が迸る。彼の右わき腹を抉るアマツミカボシの左手。それが彼の内臓を握りつぶす。

「クソッタレ」

ジョンはそう呟いて、敵に向かって唾を飛ばす。アマツミカボシはそれを受けて、無表情にジョンの脇腹から腕を抜き、力ない吸血鬼を投げ飛ばす。

ゴゥン、と大きな音を立ててジョンの身体が沈む。

「やってくれるわね」

その横から、髪が乱れたマダム・ヘカテが現れる。彼女の後ろには、先ほどまでは持っていなかった大きな十字架を構えるアントニオが立っていた。ヘカテは何時もの薄ら笑いを浮かべず、怒りを浮かべていた。

「まつろわぬ神よ、私を侮辱したことを後悔なさい」

そう言うと、彼女は右手を挙げ、アマツミカボシを指す。すると、どこからか地響きがして、アマツミカボシの浮かぶ下の大地が割れる。

そして、その大地の割れ目から、蛇のような生物の頭がいくつも飛び出てくる。

「この国には強力な蛇の眷族がいるそうね!ヤマタノオロチ、という」

ヘカテは恍惚とした表情で語る。

「はたして神でも、この怪物には敵うかしら?」

灰色の鱗に覆われた、八つの頭がアマツミカボシに向かう。牙を剥き、アマツミカボシを喰らおうと。

「・・・・・・・・・・・」

神はただ沈黙して腕組みをする。一つの頭が神を飲み込む。

咀嚼の音がする。喉がゴクリとなり、ヘカテが神の死を確信した瞬間、蛇の頭が吹き飛ぶ。

「ちぃ」

残る七つの頭がそこから出てきた神を襲うが、神はいつの間にか抜いた刀を左手に持ち、それを一閃させる。

蛇の顔が分断され、力なくその巨体が倒れた。

「武装展開」

ヘカテの負けを確信した瞬間、アントニオはそう呟く。アントニオの背丈を超える大きな十字架が変形する。

アントニオはそれを掴む。二丁のライフルとなった十字架を構え、アマツミカボシに対して撃つ。

重い引き金の音。無数の光の粒子が集まり、光線となりアマツミカボシを襲う。

しかし、神は刀で光線を斬る。斬られた光線は歪曲し、空へと消えていく。

すう、と息を吸うと、アマツミカボシはくい、と顔をアントニオらに向ける。その瞬間、転移したかのように彼らの横に現れる。

ヘカテは指の爪を伸ばし、アントニオは十字架を更に変形させ、二本の剣にする。

ヘカテの爪を刀で切り落とし、右手でアントニオの鳩尾に一撃を浴びせるアマツミカボシ。

ヘカテは髪を揺らして後退し、吹き飛ばされたアントニオをその長い髪で受け止める。

「くそやろぉ!」

ジョンが血を吐きながら、アマツミカボシに突進する。アマツミカボシの刀を避け、その右頬にパンチを繰り出す。だが、神は無表情にジョンを見て、左腕で打つ。

ジョンはその攻撃の勢いで飛び出してきた場所に叩きこまれた。

「・・・・・・・・・・・」

無表情に敵を見ると、アマツミカボシは笑う。そして、わずかに口を動かし始める。

「星落としをする気か・・・・・・・・・!」

アントニオはそれを阻止しようと動き出すが、それを阻むかのように、大地が隆起し行く手を阻む。

「この・・・・・・・・・・」

ジョンは血を流す傷口を撫でる。数秒後にはそれは塞がり、血の跡だけが残る。再び突進を仕掛け、何とか星落としを妨害しようとする。

口を動かしながら刀を握りしめるアマツミカボシは向かってきたジョンの両足を切り捨てる。青年は無様に地に落ちる。青年の銀髪を下駄で踏むアマツミカボシ。彼は今や勝利を確信したかのような顔であった。

「おい、くそ野郎」

ジョンはくぐもった声でアマツミカボシに言う。

「なに、勝った気で嫌がる。お前、敵が俺らだけだと思ってんのか?」

そう言い、嗤うジョンの首に刀を突きつけるアマツミカボシは、急に背後に殺気を感じ、振り返る。

そこには、黒い影が立っていた。

一人の少年から伸びるその黒い影は、おぞましい闇を放出させ、彼を見ていた。

影が伸び、剣のように鋭いそれが襲う。アマツミカボシはそれを刀で切り伏せながら、宙に逃げる。

影はそれを負い、空に伸びる。

アマツミカボシは詠唱を辞め、苦々しい顔で影を睨む。

両手で刀を構え、振る。剣戟が影をすべて切り伏せる。


アマツミカボシは敵から離れた場所に降り立つ。そして再び口を動かす。

中断された星落としを再開しようとした彼の脚に絡みつく者を感じた。彼はそれを見る。古びた包帯のようなそれが、地中から伸び、彼を拘束していた。

そして、彼の足元から何かが現れる。包帯に包まれたそれからさらに包帯が伸び、彼の身体を包み込む。

アマツミカボシは刀を取り落し、なすすべもなく、包帯に全身を覆われる。

「よくやったわ、プトレマイオス」

どこからか現れたゴシックロリータの少女が、包帯に包まれたアマツミカボシを見て言う。

「さあ、転移するわよ」

彼らがアマツミカボシの星落としを邪魔し、注意をそらしたおかげで、転移の魔術は完成していた。

後は彼女の声のみで発動する段階までできていた。

アマツミカボシはその力で拘束を解こうと抵抗していた。これ以上は長く持たない。

デッドリーは転移の魔術を完成させ、メンバーともども、異なる時空へと飛んだ。


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