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DEADLY SIX  作者: 七鏡
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黒い怪物のもたらす一方的な暴力。それはかつてセクター666を追い詰めたフランケンシュタインの怪物のコピーを襲う。死肉と機械で作られた人間の業の象徴。それはただただ殴られ驕られていた。

偽りの血を流し、許しを請うかのように見開かれた眼。だが、そんなことを考慮する怪物ではない。

暗黒の怪物はじわじわとフランケンシュタインの怪物を追い詰める。



それを遠くより見ていた少女と大男。いつの間にか、彼らの後ろには吸血鬼の青年と半裸の美女が立っていた。

「なんだよ、アレは」

ジョンはそう呟いた。彼は呆然と信じられないものを見るかのようであった。

眼前に広がる光景を、彼は受け入れきれていない。

それはアントニオも同様である。顔こそいつもと同じように見えるが、その目の色は深刻な光を浮かべている。ヘカテもいつもの薄笑いはなく、真一文字に唇を閉じていた。

「あれがカーズの力よ」

ミズ・デッドリーは平然とした顔で言った。

「彼が我々の一員である理由が、わかったでしょう?」

遠くで繰り広げられる一方的な暴力を指して少女は言う。

人造人間の右の顔が抉られ、血肉が飛び散る。脳の半分を抉られ、もはや活動もままならないそれに、悪魔の攻撃は無慈悲に続く。

周囲に見える黒い魔力は禍々しい気を放ち、周囲の木々を汚染させる。

現実への干渉。急激に環境を作り替えるほどの力。

「まるで魔神ではないか」

アントニオの呟きを誰もが否定できなかった。

悪魔にも序列があり、階級が付けられる。爵位とそれの上にある魔神、そして魔王。

魔王は全部で七人いるとされ、彼らは「七つの大罪」と呼ばれる。いわば悪魔の王であるため、そう呼ばれる。魔神は彼らに近い力を持つ、とされるものである、地獄の権力者たちだ。

アントニオはこれまで悪魔と戦ってきたが、これほどのプレッシャーを感じたことはなかった。

十数年前に遭遇した悪魔以外には。

「まさか」

アントニオが目を見開き、デッドリーを見る。

「あの子どもが」

「アントニオ」

そこから何か言おうとした元エクソシストをデッドリーが制する。

ジョンとヘカテが不審そうに顔を向ける。

「それ以上は言わないで」

「しかし・・・・・・・・・」

「おい、気になるじゃねえか」

ジョンが二人の会話に割って入る。そんなジョンを無視して、デッドリーはカーズだった化け物を見る。

「これはすでに決められたこと。あなたに文句は言わせないわ、アントニオ」

「・・・・・・・・・」

「ジョン、カーズのことを詮索するのはやめなさい。でないと」

デッドリーの目がジョンを見る。思わず彼はたじろいだ。

「死ぬわよ」

「・・・・・・・・・・はは」

渇いた笑いをするだけでジョンはそれ以上言葉をつなげられなかった。

「終わったようね」

ヘカテはそう口を開いた。

フランケンシュタインの怪物は無残な部品となって、地面に散らばっていた。

そして、そのうえで獣は方向を上げると、音を立てて倒れた。そして、黒い魔力が離散して、身体が収縮する。

数秒のうちに体は普通の人間の姿かたちになっていた。黒髪の小さな少年が、そこに倒れていた。


デッドリーは誰もが動けない中、一人歩き出すと、少年の倒れる場所まで歩いていき、彼を抱きしめた。

まるで、母親が子を抱きしめるかのように。




フランケンシュタイン騒動はこうして終わった。

被害状況は森ひとつですんだ。戦いで荒れ果てた森は「とある事故」によるものとして処理されるであろう。

D6のメンバーは再び、自分たちの城に戻ってきていた。

円卓に座る人影は四つ。少女と少年以外がそこに坐していた。

プトレマイオスは結局何をしていたのか、ほかの面々は知らないし、興味もなかった。

ジョンはアントニオを見て聞く。

「なあおい、お前、あの呪われた子どものこと、何か知ってんだろう?」

デッドリーのいない今だからこそ、聞ける。そう思い、ジョンが問う。ヘカテも黙っているが、興味を持っているらしく、アントニオの言葉に耳を傾けている。

アントニオはしばらく沈黙した後、口を開く。

「1999年のことを、お前たちは知っているな?」

「ああ」

「ええ」

二人は肯定する。

「年の初めに俺らの王、ヴラドがセクター666と教会にやられた年だよなあ」

「そうだ、セクター666壊滅の年だ」

「確か、そのあと、ある魔神とアンゴルモアの大王が現れたのでしたわね」

ヘカテの言葉にアントニオは頷く。

「問題はその魔神だ」

アントニオはそう言い、昔を思い出すような眼をした。

「あの時、我々は多くの犠牲を出した。人間も、怪異もすべてが。そして、世界の終焉が訪れるのではないかと思った」

「おいおい、魔神如きで世界の終焉?行きすぎだろう。それにそれは恐怖の大王の仕業なんじゃねえのか?」

終末の予言をもたらすもの、恐怖の大王。アンゴルモアと呼ばれる魔神。それが世界を終わらそうとしたが、それは未然に防がれた。それが、裏世界の常識であった。

しかし、アントニオは頭を振り、それを否定した。

「確かに、そう言われているな。だが、アンゴルモアは強力な悪魔であったが、所詮、それだけだった」

「それだけ?そんなはずはないわ」

ヘカテは言った。

「あの年に感じた破滅の鼓動は、ならばいったいなんだったの?」

「あれは・・・・・・・・・・・・」

アントニオが口を開こうとした時、その口から急に声が失われた。口は動いているのに、言葉が出てこない。アントニオは驚愕に目を開く。声を出そうとしても、声は出てこない。

ヘカテとジョンがどうしたものかと感じていると、いつの間にか、円卓に一人の人物が加わっていた。

それはこの城の主であるミズ・デッドリーだった。

少女は円卓を見回すと、アントニオに目を向ける。

「アントニオ。無駄に恐怖をあおるのはやめなさい。それに、その話題は彼を呼び寄せる」

「・・・・・・・・・・!」

「彼」と聞き、アントニオは眉をひそめる。そして同意したように頷く。

すると、彼の口からは音が漏れるようになった。魔女の魔術が解けたのだ。

「ジョン、ヘカテ。この話題は禁止よ。もししようとしたなら、同じ目にあうから覚悟なさい」

魔女の言葉に静かに同意する二人を見て魔女は頷く。プトレマイオスを見た彼女だったが、彼が会話に参加することも興味を持つこともないのは知っている。彼女は彼を無視した。

「今日のことはカーズの記憶は途中から欠如している。何かそのことで彼が聞いてきたら、私たちがうまく処理したと答えなさい。いいわね」

そう言うと、魔女は再び円卓から消えた。

アントニオもジョンもヘカテも、口を再び開こうとはしなかった。




真っ白な部屋。扉も窓も、装飾もなにもない。ぽつんと中央にベッドがあるだけ。無駄に広い部屋の中に寂しげにある寝台には黒髪の少年が眠っている。

穏やかな寝息を立てて眠る。その顔は安らかだ。

どこからか部屋に入ったデッドリーが指を鳴らすと、白い丸椅子が現れる。それを彼の寝台の横までもっていくと、デッドリーはそれに腰を下ろす。

彼女は少年の寝顔をいとおしそうに見て、その髪を撫でる。

「おやすみなさい、カーズ」

そう言うと、少女は少年の頬にキスをした。

「今はゆっくり、休みなさい」

そう言い、少年の手を握りしめる。

魔女の手は冷たい。人のぬくもりを忘れた彼女。だが、暖かい何かを感じる。

六本の指が静かにゆっくりと、彼女の手を握り返す。

胸にこみ上げる微熱を、彼女は確かに感じていた。

彼を守ると、彼女は誓った。

あの日、15年前。あの惨劇の中で。

たとえ、世界が彼の敵となっても、彼女だけは味方であり続けると。



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