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守り人  作者: 藤堂阿弥
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一樹の陰一河の流れも多生の縁

そんなに私飲んだかしら。

日向 亜衣の思考に最初に浮かんだのは、そんな言葉だった。




今日は友人と先輩と、友人の先輩って言う人達と一緒に飲みに行って、居酒屋を出たとたん衝撃的なイケメンを見て、気力を奪われて、解散となったのだが。


(ここ、どこだろう)


渡辺や佐藤と別れて角を曲がったまでは憶えている。そういえば、すれ違った相手に違和感を感じて振り返ったとたん、この場所にいたのだ。



この場所。右を見ても左を見ても岩だらけ。俗に言う洞窟らしき所。

(しかも、向こうは明るいし)

入り口から差し込む光は、充分洞窟の中に届くものであった。

SFなんかの設定ではありがちな話ではあるが…ああいった事と言うのはなんらかの前振りがあってからの話である。


例えば扉の向こう、とかトンネルを潜った先、とか。


いやいやいや。


思わず首を大きく振って、その勢いでくらり、と体がふらつくのを慌てて支えた。




「ぷっ」


突然聞こえた音。どう考えても、吹き出した声に慌ててそちらをむくと、逆光で顔は良く見えないが、洞窟の入り口にはいつの間にか人影が現れていた。

『ああ、失礼…』

少なくとも今まで自分が耳にしたことの無い言語。…しかし。

『申し訳ない。笑うつもりは無かったんだが』

などと言いながら、一向に笑いを収める様子の無い相手は、声から察するに若い男性のようだった。来ている服装は、自分達が日常見るものとは異なっている。


迷い込んだ先は映画のセットか、それとも……。


『と、失礼。しかし、どうやってここに入ったのだ?見慣れぬ服装だが、この当たりに住んでいる者ではないのだろう?…それ以前に言葉は通じているか?』

友人達の言うところの「超能力」はここでも健在だった、ということか。

「言葉は、解ります。…私の言っていることも、解りますか?」

驚いた気配が伝わってきて、一歩近づいてきた相手に思わず息を呑んだ。

(う、わぁ)

寸前のところで声を抑える。さっき見たイケメンといい勝負の美丈夫だった。

『凄い』という言葉でしか表現できない相手を見たのはこれで二人目だ。しかもほとんど時間を空けずに続けてみることができるなんて、ほんの数時間前には思いもよらなかった事である。




背中まで届く黒い髪、紅玉の瞳。


年のころは20代前半くらいだろう。中世の騎士のような服装に腰には剣。

背は高い。友人間で高い方の岸本よりも10cmは高い。2M近い。正直首が痛い。

その目の色を見れば自分とは異なる世界の住人だと解るが、全く気にならない。…カラコンなら話は別ではあるが。


それほどその色は男に良く似合っていた。


「ああ、申し訳ない。慣れぬ方にはこの目は気味が悪いだろう」

「そんなこと無いです!とっても綺麗でお似合いです!」

間髪いれずに返ってきた返事に、驚きで目を丸くした青年は、やがて口元に穏やかな笑いを浮かべた。



「やっぱりここだ」

突然聞こえてきた声に、青年ははっとして、体の向きを変える。

向けられた背中は大きくて安心できる。

ぼぉっと、そんなことを考えながら、自分が庇われていると気が付いたのは、入り口から人が入って来てからの事だった。

「グレイフォード伯?」

「ミリア殿…か?」

入ってきた相手の一人…女性が少し驚いた表情をする。

「どうしてここに…いえ、それよりも」

ミリアと呼ばれた女性は後ろの男に振り返る。こちらもまた郡を抜いての美丈夫だった。

(なんか、凄い男の人ばっかり見る日だなぁ)

呑気に考えている自分に正直驚く。実際パニクっていても不思議じゃない状況下なのだ。

「彼女…なのかしら、アル」

「ああ、間違いない。しかし、驚いたな」

男が一歩踏み出すと、青年は体の向きを少しずらした。いっそう深く亜衣を庇う形で。

「…ミリア」

苦笑交じりで男がミリアのほうを向く。同情するかのように軽く背中を叩いて、彼女は亜衣へと近づいて行った。

「ご心配なく、グレイフォード伯。彼は私の連れです。…それより彼女と話をさせていただけませんか?」

「申し訳ない。彼女とお知り合いか?」

「いいえ」と首を振り。彼女は亜衣へと向き直った。

「ごめんなさいね。驚いたでしょう?」

穏やかな物言い。柔らかな笑顔。何故か懐かしいその気配に亜衣は緊張を解いた。


(…あ…)

ふ、と意識が遠のき、目の前が真っ暗になった。慌てた気配と、身体を支えてくれる力強い腕。

それが、この場での亜衣の最後の記憶だった。








「よほど気を張っていたんでしょうね。可哀想に」

青年の腕の中で気を失っている亜衣を見て、ミリアが気の毒そうに呟いた。

「何かご存知なのか?」

青年の言葉に、男と女は顔を見合わせる。

「…とりあえず、彼女をどこかに運びましょう。兄の屋敷でよろしいでしょうか?」

「ああ」

そっと壊れ物を扱うかのように腕の中の少女を抱き上げた青年は、ふと気が付いたように顔を上げた。

「ミリア殿、申し訳ないが、私のことは名で呼んでいただきたい」

一瞬眉を寄せたミリアは、小さく溜息をつきながら首を縦に動かした。

「承知いたしましたわ、カーク殿。…ああ、紹介が遅れましたね。彼はアルフォード、私の守護者です」

おお、今までで一番まともな紹介の仕方じゃん。

嬉しそうに笑う男に一瞥をくれ、ミリアは洞窟の入り口へと足を向けた。




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