皆様も王家の秘密を知ってしまったので私みたいに消されてしまいますね?ああ、その前に真実を周り人たちにうっかり教えてしまい国ごと消されるので心配しても無駄なことなんですけど
「ぐああああ!」
ふふ、と笑う女の声に周りはざわりと騒ぐ。今ここで起きているのは報復の笑い声。報復の鐘の音。報復のうめき声。
どうですか王子?痛いですか?そんな問いかけが聞こえてきた。魔女は……いや、魔女になった令嬢がうっすら笑って会場に姿を現した。現れた女の顔にに全員が戦慄する。なぜなら彼女は一年前に葬儀をしたはずの死んだ亡霊だから。
様々な人たちがその亡骸を見たのだから、亡くなったことは皆が見ている。確かに美しい令嬢の目を閉じて色をなくした嘆かわしい最期をお別れで見たのだから。
王子が呻いたのは令嬢による、なんらかの魔法のせいだろう。しかし、魔法がなんなのかわからないので下手に倒れた王子には誰も近づけない。
愛を誓った浮気相手であり、今は王妃候補止まりの男爵令嬢すら。それをせせら笑い見るのは、死んだはずの令嬢、王子からすると元婚約者。
「なぜ?」
「なぜ、って私が死んだのにって言いたいのですか?」
「あ、ああ!」
うぐあ!と次いで言葉が出なくなる男。今の言葉は気に入らなかったらしい。
令嬢は銀色の髪をゆらめかせて、うっとりした顔で今までのことを語りだす。あれは死んだと思われていた後に起こったことだ。葬儀をされて火にくべられる前のこと。令嬢は目を開けた。
特に死んでいなかったのだから当然だろう。前世の記憶が戻ったのだ。奇跡的に。いや?必然なのだろう。今この時に蘇ったのは。気分は最高潮だと笑みが絶えない。
「私が葬儀室で目覚めたのは。ふふふ!きっとあなたたち、あなた、世界を壊すためなのよ?」
嬉しいでしょうと言いたげな声音。鈴のような声音が会場を照らす。令嬢は語る。その瞬間、ありとあらゆる魔法の方程式が頭に浮かんだのだと。ふわりとこの世にある全てのものが。
これは何某かの存在がやれ、と言っているに違いない。笑みを浮かべて語る女に人々は震えるばかり。全く、なんという意気地なしたちか。
何を言えようか。何も言えまい。亡くなった時は王家に始末されたんだなと、気が楽になった者もいたくらいなのだから。なのに、いまさら舞い戻ってくるなんて誰にも予想できなかった。死に戻ってくるなんて。
「ひぃ!」
王子が叫ぶ。
ようやく本物と認識した声でヒッとなっているが、手遅れだ。王家に消されたのは王妃になるのが決定していたので万が一王家の秘密に触れていたらという保険のため。
つまり、王妃になる予定がなくなった瞬間に暗殺される運命だったのだ。
ああ、かわいそうな婚約者の自分、と目の前でささやき憐れむ。
ね?かわいそうでしょ元婚約者様?
「ねえ、覚えてますか?」
ニィ、と意味深に笑う女にぞくっとした顔をする王子。今ここにいるのは王子と婚約者だけ。令嬢はこの会場にいる人たちに向けて響き渡る声。それは、王家の秘密だった。くすくすと紡がれる言葉は崩壊の挨拶。
王妃は昔相思相愛の子息がいた。子息と別れたのは今の王と婚約が整ってしまったから。しかし、だ。それでも嫌だと一夜だけ過ちをおかしてしまう。
「そうして生まれたのがあなたなのよ?」
元婚約者、つまりは王子の方を向きながら言う。その事実を知らなかったのかぽかんとする男。ああ、本当に知らなかったのか。でも、もう違う。
何が面白いのかというと、この秘密は王も知らなかったこと。王子が好きな女と結婚したいがために婚約者を嵌めたけれど、そこまでして押し進めたのに。無理矢理嫌がるのを無視して。王家に近い家の娘を始末してまで。なのに、実は王の息子ではなかったなんて。ぷっと笑う。
「もう、笑ってしまいますわ?お粗末です。これって、王家の乗っ取りなのでは?」
乗っ取り発言に貴族たちが顔色を変える。国の全てを壊しかねない事実だ。王が知らないのに令嬢が知っていたのはなぜ?
それは、次期王妃候補として公務を押し付けられていた時に、おかしな支出があり調べてみると王子の父親と思わしき家へのお金が流れていた。そうして、当主を見ると王子となんとなく似ていたので、これは何かあるとピンときたわけだ。
「さらに調べてみたら、王妃の秘密を知ってしまいましたの」
手の指を口元に触れさせて、おっとりと言い終わる。その他人事といった言い方といい、全てを暴露してやろうという空気を感じた。
一番初めからとんでもない秘密に、この国の王家の屋台骨が吹き飛ぶ内容だけに、次の内容が恐ろしくて奥歯を鳴らすものが明々に冷や汗を滲ませる。
「皆様もやはり、知りたいですわよね?うふ!大丈夫ですの。この内容はさっき、手紙で各国に同じものを送ったので数日後には……この国の解体を決める、国際会議が開かれるでしょうし?」
すごくすごく幸せそうな顔で告げられた言葉に、会場内の人間は一人残らず顔色を白くさせ、ぶるぶると震え出す。国がなくなる。亡国というより消滅だろうか。
国が消えますわねぇ、と囁く元この国の令嬢は歌うように軽やかに回る。ふんわりとケープが揺れた。
ぞわわ、ぞわわ!と全員の足の爪先からこれからの、地獄の余韻が競り上がる。これは復讐だ。まごうことなき、一人の少女からの報復。
反撃を受け、貴族たちも王子も酸素を無くした魚のように、口をはくはくさせるしかない。国は今や死にかけている。呼吸もままならない。元令嬢はまだまだあるわと唱える。空に浮かんでいるので誰にも取られない。
「殺されるとは思っていなかった」
言い訳も弁明も求めていないことは嫌でもわかるが、言わずにはいられない。
「?」
「そうだ。殺されるんだって。誰も知らなかった」
「そうだ。そうだ。悪いのはそこにいる。王子だ。君を婚約破棄して殺したのも王家であり王子だ」
であるから、自分たちを巻き込むのは間違いだと大勢が一斉に命乞い。
「な、な、お、お前たち!?」
シェシリはきょとんとしただけで他に何か言うことはない。王子は泡を食った怒りで叫ぶ。
「私に死ぬ前に死ぬ必要がない言葉を貰える機会があったなら、言葉を聞いてあげたのですが……皆さんが知っての通り、死人に口なしにされちゃいました」
令嬢時代には決してあり得ない口調の女の子と女性の真ん中ほどの元令嬢だったときを、何度も何度も見てきた貴族たち。そう思えばすでに貴族でもなく令嬢でもなく、人間でもなくなった。
死んだ時点で戸籍すら消滅して、なにものでもない書類上いない者になっている。
「この国は、この国はき、君の故郷だ。故郷がなくなるなんて嫌だろう?」
なんとか潰されたくなくて必死に言い募る周り。しかし、女の反応は無である。目線に色がない。
「故郷?うーん、困りましたわ。私、戸籍もないのでどこが故郷か知らないのですよね〜」
すっとぼける様子に全員言葉を無くす。その間にも王子側には謎の痛みが起こり、魔女になった令嬢だった存在に苦しめられていた。
苦痛に苦しむ王子から、じりじり離れる浮気相手を逃すほど甘くない。魔女たる少女はその逃走を見ないまま、ニコリと微笑む。
「ぎゃあ!」
声が聞こえた方向に今度は何事かと、皆がそちらに目を向ける。
「ひっ、ひ、なんだあれはっ」
「うぐ、気持ち悪い……」
そこにいたのは綺麗なドレスを来た女のはずだったのだが、顔から鼻がなくなっている。鼻以外はそのままなので違和感がある。
少しないというのではなく、綺麗になくなっているのだ。平坦なつるりとした状態で、そこだけぽっかりなにもない。
王子の浮気相手であり、今は王妃候補をまんまとその地位から蹴落とした女の姿。悲鳴をあげたのは王子の方。
女の方は何が起きたのかわからない。鼻がなくなっている実感がないのだ。
「な、なに?なんなの?」
貴族達が一点に集中して見てくるので戸惑いがある様子で辺りを見回す。部屋に戻るなり鏡を見るなりしたらどうなるのか。
王子がさっきから呻いているのは、体が激痛でたまらなく声をあげているのだ。微弱な電流を流したりやめたりして、じわじわと恐怖心を蓄積している。
人はなにもされてないのに痛がる王子に鈍いとでも思っていることだろう。
浮気相手の令嬢は魔法で鼻をなくす整形をしたので二度と鼻が戻らない。穴がないのは、魔法で見えないように固定しているから。穴があるとバランスが悪いかなと思って。
喜ばれることのない優しさを胸に令嬢を皆が、恐れる態度で見始める。許されることはないとわかってくれたのだろうか。
「ご、ごめんなさい」
「すみません」
「見殺しにしてしまいました。許してください」
命乞いをし始めた。命乞いが有効なのは殺される前だから無理な話。
「ほら、お前も謝るんだ。早く!」
「え、ええ。シェシリ様、あなたに意地悪を言って申し訳ありませんでした」
「わ、わたくしたちもお詫びを」
シェシリが王子の婚約者の頃、散々嫌味を言ってきた彼女たち。好きでなっていないのに。親の決めたことに逆らえない同じ立場を慮ることなく、好き勝手言ってくれたものだ。
許されるわけがないのによく謝れるものだ。命乞いというのは相手が死ぬ前にやること。シェシリという令嬢はもうどこにもいない。
死亡届を出されておりこの国の民として抹消されている。証明できるのは死亡リストくらいだろう。今はもうどの国にも属していない。
「んー。謝らなくてもいいですわ。だってもう滅びるのは決まってますもの」
やはり、と皆の心が沈む。すでに手遅れなのだ。しかも、王家の秘密を各国に教えたと楽しそうに唱える声は、ひたすらこの後の滅亡を心待ちにしているそれ。すまないと謝り許される範囲を過ぎ去っていて、ことはもう起きている。
「皆さんも王家の秘密を知ったのでこの国ごと死ぬだけです。私でさえ殺されたので私以下のあなたたちも死ぬだけでしょう?」
見下した瞳に全員ゾッとする。恨みは深いとわからせられるには十分だ。もうなにもかも終わっているから、謝る意味がない。シェシリは語る。
「国に国を滅ぼされる様を楽しく見させていただきますわ」
語尾を高くして頬を赤くさせて恋する乙女のようにくるりと回る。舞台女優のようだ。今とっても幸せなのと、オーラが出ている。一国を潰そうと考えている顔ではないのは確かだ。
全員声が恐怖で出ないらしくカタカタと震えていることしかできない。命を長らえさせる方法を必死に瞳を動かして探すが、そんな隙間は与えられる筈もなく。
他国にこの国の秘密や弱みを公開されては無事では済まない。屋台骨がすっぽり抜けたも同然。国としての体を成せない。皆はこの国の貴族なので平民のようにホイホイ場所を移動できない。身軽とはいえない身分を持つ面々は国と共に沈むわけだ。
「ゆ、許して」
「ん?」
誰が声をかけたのかと見ると王太子を横取りするためにシェシリに嫌がらせを重ねて、一線を越えて最終的に己を死への導火線へとなぞった女。涙でぐしゃぐしゃでマスカラが溶けている。ちょっと見苦しいどころではないのに。王妃も王族たちも、誰彼関係なくだくだくと涙を流して鼻水まで。なんでそんなに汚く泣けるのか?最早才能。
あんなに人を馬鹿にして殺しておいて、自分たちの番になると醜くて仕方ない。楽しめるからいいけど。
他の者たちにも手を加えて悲鳴を上げる様を楽しみながら、鑑賞し続けた。ここにいるものたちはまず例外なく報復の対象者。なにをしてもいい。その程度なんてことはない。
「皆様、王家のために死にましょうね?」
王家の秘密を知ったものは死を。その通例は全ての人間に当てはまるのだ。そこに貴族も平民もない。にやっと女らしからぬ笑みを浮かべた元令嬢は愉悦に顔を綻ばせた。
周りの者たちが考えるよりもずっと早くに周辺国が動くのは早かった。王族がシェシリにより動きを封じられたことも影響を与えている。近隣国はこぞって無血で外交圧力をかけてきた。
「かの令嬢が殺されたというお話は涙なしでは語られませんね」
「っ!それは」
どこの国の人たちにも令嬢が秘密を知っただけで言葉もなく殺されたことを知っていて、さらに王たちや王妃たちの秘密が赤裸々に知られている。
終わりはすぐそこだ。皆は肌で感じて、後ろの面々は下がろうとする。そんなことをしようとも、逃げる場所もとっくに無くなっている。
誰も彼もがこの国の終わりを今見ている。王家の座席もすでに、ただの椅子に成り果てていたのだ。空になった玉座に意味を見出せない。
王家の面々は痛みに呻いていて、使い物にならない。政治関連の貴族たちも、弱みを他国に流出させられたあとでは手立てがない。
残りの、政治とは関係ないと距離を置いていた貴族や、関連している人間たちはどうしたらいいのか分からずキョロキョロウロウロ、目を動かすことしか出来ず。
こんなに何も出来ない人たちのために、毎日毎日なんの意味もなかった時間を使って、奴隷になるための努力をしていたのかと渇いた笑いが止まらないシェシリ。
「それでは私は、これくらいで失礼させていただきますね」
そろそろフィナーレだ。お開きの言葉を告げると、悲鳴のような声で残された人々が引き止めてくる。
先ほどの光景を見ても、こちらを引き止めるなど命知らずだ。後がないと理解して、本能的に声を張り上げているに過ぎなさそうだけど。
これと言って誰が一番憎いわけじゃない。全員平等に恨んでいるだけ。だから、王家の女たちは美貌を。
男たちには永遠の痛みを。痛過ぎないのがミソだ。頭痛よりは痛くて骨折よりは痛くない。でも、日常を過ごすには無理な痛み。
女たちに関しては美しさを表すものが鼻筋だったので、美貌を奪ってやった。女たちの筆頭は言わずもがな、原因になった王妃だろう。
王妃の秘密を知りたくなんてない。耳に入れたら脳が腐りそうで、実際そんな末路になったわけで。笑い話にしてもいいけど、誰も笑ってくれなそうだ。
国から離れて、いつも暮らしている部屋に戻ると先客がいた。己を仮死状態にして、復活させた男だ。
後から知ったけれど、彼は有名な魔法使いだったらしい。何も知らないまま、幼い頃からの文通相手だったから初めて会ったのが、棺桶前なんて経験は唯一無二だろう。
今は色々教えてもらい、魔法の師匠でもある。助けてもらっておいてさらに助けてもらうなんて嫌だと思っていたが、こんなことになるまで何も出来なかった後悔を消化させてくれと囁かれては、断れない。
「ただいま」
「お疲れ様だったな。温かい食事を用意してる」
「え、ありがとうございます」
突然労われてドキドキした。王妃候補の時でも、ここまで優しくされたことなんてなくて、どれほど軽んじられていたのかを死んだ後に知ることになるなんて。
「フルーツも用意しておいた」
優しくされてじわりと心が慰められる。
「復讐はできたかい?」
「ええ。つつがなく」
「よかった。君が躊躇わないか心配だった。やりたくないなら、無理矢理やらなくていいんだけどね。代わりにいくらでも代行するから」
「自分のことなので自分で終わらせたかったのです。最後の見届けまで」
「王妃候補の教育のせいなのかもしれないね……でも、立派だ」
テーブルまで手先をキュッと握られて、エスコートされる。エスコートさえも近年されなくなった。
いや、されてはいるが婚約者からのあんなものは義務感が溢れ出ていて、粗末な行為をレディーの扱いと該当させてはいけない。
「甘いお菓子も後で食べよう。そのあとは、手紙に書いた……妖精が踊る湖も見に行こう」
「まあ、懐かしい」
妖精の湖。文通の何度目かの時にそんな神秘的な所があるのだと書かれていた。手紙本体はいつも部屋の窓辺に置かれているので、誰にも知られることはない秘密のペンフレンドとして今の今まで、やり取りしていた。
王妃候補として失格だと言われるのだと思う。けれど、孤独な時間に手紙は、多大な心の支えとなった。死ぬまで王妃候補の作業を務められたのは、皮肉な話だが。
「行きたいですフラテル様」
「了解だ。マイレディ」
祖国を沈めた魔女に魔法使いは、二人だけが知っている思い出話を持ち出しながら。
いつまでも、尽きることのない文通を通り抜けた先にある愛を、お互いに紡ぎ出すのだろう。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。今まで頑張ってやってきたことをたかが秘密一つで泡にされてはたまったものではないですよね




