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ミックス犬 ハッピー

作者: 鳥居 秀樹

この小説は、フィクションであり、登場上の人物等は、実在致しません。

       (1)

昭和40年頃の話である。

場所は、愛知県名古屋市の南東部である。

現在では、地下鉄の駅が近くに在り、中心部へのアクセスも非常に便利な人口密集地となっているが、

当時はまだ、所々に畑や空地が点在していた。

当時私は8歳。3歳年下に妹がいて、親子4人幸福な家族であったと思う。

家の近くに箸屋さんがあった。

大量の木材から箸を作り、色々な店に卸していた。

大きな工場を併設し、当時の名古屋にあっても、ひと目で箸屋の家が裕福である事がわかった。

家から市場に行く道の途中に箸屋はあり、私の母と箸屋の家族とは仲が良かった。

  

       (2)

その箸屋に『ワイヤーフォックステリア』という当時としては流行(イギリスではキツネ狩りに同行する)の犬種の犬が2匹(雄雌ペアで)いた。

毛の色は白地に黒・茶の3色で構成されており、当時の私が見ても、雄雌2匹共ぬいぐるみの様に可愛く、立派に見えた。

ある晩、母が夕食時に、「箸屋の犬が妊娠をしているらしいよ。」と言った。

その夜は、親犬が2匹共、血統書付の小型犬である為、子供犬も相当可愛いであろうという話で盛り上がった。

それから2・3日して母が、

「箸屋さんが子犬をくれることになったよ。」といって喜んでいた。

子供心にも、我が家に可愛い犬が来る事は嬉しかった。


       (3)

それから一週間くらいたった頃、箸屋のお姉さんが、泣きながら我が家を訪ねて来た。

胸には全身茶色の毛?で覆われた生まれたての子犬を抱き抱えていた。

お姉さんは、泣きじゃくりながら、何かをしきりと訴えていた。

その子犬は、全身が茶色で、親犬の様に白や黒色の毛は全く無く、ワイヤーフォックステリア特有の縮れ毛も無かった。

ただ、テリア特有の四角い顔をしている様な気がした。


父と母は、しきりに箸屋のお姉さんを慰めていた。

お姉さんは、何度も涙を流しながら、頭を下げていた。


       (4)

結局、箸屋のお姉さんは、子犬を我が家に置いて行き、子犬は、我が家で育てることとなった。

子犬は、雌犬であった。名前は『ハッピー』と名付けられた。

母親に犬種を聞くと、「雑種よ。」と言っていた。

子供心に、血統書付の親犬からでも、雑種は生まれるのだと思った。


ハッピーは、家族に愛されながら、元気に育った。

病気になることも無く、家族を心配させる事も無かった。

食事は、家族の残り物を食べた。

腐ったものを誤って食べた時には、自ら草を食べ、胃の中をきれいにしていた。

散歩に連れて行くと、元気に飛び回った。

毛の色は相変わらず茶色のままであった。


       (5)

私が18歳の頃であったと思う。

偶然その箸屋の前を通りがかった際、2匹のワイヤーフォックステリアを目撃した。

これが、我が家の『ハッピー』の親犬か。と思った瞬間、『ハッピー』が雑種犬である事を理解した。

2匹の雄雌の老犬は、道沿いに離れて繋がれていた。


それから暫くして、『ハッピー』は、市の保健所に引き取られた。

名古屋市は、野良犬の一掃に力を入れ、その後、野良犬は殆どいなくなった。

現在では、雑種犬という言い方は使われておらず、ミックス犬という言い方が正しいとの事である。



小説を読んで頂き有難うございました。

小説の中に出て来るお姉さんの心情、子犬を迎えた家族の心情を想像頂けたら幸甚です。

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