震災から15年
十五年。彼にとって、その時間はまるで巨大な石碑のように、彼の人生に立ちふさがっていた。
津波がすべてを奪った、あの日。
結婚二年目を迎え、ようやく二人だけの生活に慣れてきた頃だった。
新しい家具を揃え、お互いの両親を招いて食卓を囲む計画を立てていた。
小さな幸せが、手のひらに溢れる砂のように、あの日一瞬で消えた。
あれから十四年が経ち、彼の人生は大きく変わった。
仕事では責任ある立場につき、かつての友人たちも、家庭を築き、子どもを育てている。
彼の周囲には、新しい生活を始めるよう促す声がいくつもあった。
しかし、彼の心は、あの日の瓦礫の下に埋まったままだった。
彼は、彼女の遺品を、まるで宝物のように扱っていた。
古ぼけたアルバム、彼女の字で書かれた手紙やメモ、そして、結婚する前に彼女に送った腕時計。それらに触れるたび、彼女の温もりと香りが蘇るようだった。
しかし、そのすべてが、彼女がもういないという冷たい事実を突きつける。
彼は、時折、鏡の中の自分を見つめる。
四十歳を過ぎた自分。少しずつ白髪が混じり、目尻に深い皺が刻まれている。
彼女は、もし生きていれば、どんな姿になっていただろうか。その答えのない問いが、彼の心を苛む。彼女は、永遠に二十代のまま。
歳を重ねていく自分との間に、埋められない溝が広がっていく。
この十四年間、彼は「もしも」の世界で生きてきた。
もし、あの時、彼女のそばにいれば。もし、あの時送り出していなければ。
そして、もし、彼女が今も生きていれば、どんな未来があっただろうか。
その思考は、彼を安らぎから遠ざけ、過去の呪縛に縛り付ける。
しかし、最近、彼は少しずつ変化を感じていた。
悲しみや後悔だけでなく、感謝の念が芽生え始めていた。
彼女が彼に残してくれた、短くも愛に満ちた時間への感謝。
そして、彼女が彼を愛してくれたことへの感謝。
このまま、彼女との思い出を抱えて生きていくのか。
それとも、新しい一歩を踏み出すのか。
彼の心は、二つの選択肢の間で揺れ動いていた。
それは、どちらを選んでも、彼女への裏切りになるのではないかという、深い葛藤だった。
彼は、愛する人を失った痛みと、それでも生きていかなければならない現実の間で、ただ、立ち尽くしていた。




