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九里香



「はーい出来た!うん、楓ちゃん可愛いよ!」




あれからもうすぐ1年を迎えようとしていた頃、楓は訪問美容サービスというものを利用し

病室でヘアカットをしてもらっていた。




オーダー内容は前髪は眉くらい、

長さは変えずに揃える程度。



少し短くもしてみたいけど、

この髪の長さを茅秋くんに教えたから。




いつ訪れるかわからない初めましてに備えたくて。





今日を迎えるまでのリハビリは本当に辛かった。



以前のように言うことを聞いてくれない身体に

嫌気がさす時もあったが、


リハビリの担当医の優しさや、

母がお見舞いに来る度にしてくれたマッサージと

看護師さん達からの労い、


そして何より

茅秋の手紙が支えになり


今、自力で歩けるようになった。






先生は、

「後遺症ももちろんあるけど、事故のトラウマもあったんだろうなあ。身体も心もあの日の傷みで止まっていたのに、何かきっかけがあったんだね、楓ちゃんを突き動かす何かが」




と、うっすらと理由に気付いているような、

何か言いたげな表情でそう言った。




先生「おめでとう、楓ちゃんはもう大丈夫だよ。よく頑張った!明日退院しましょう」





朝一番に告げられたその言葉は、

いつも窓から差す朝日を

更に眩しいものにした。







楓「私、退院出来るんだ…」




やっと普通の生活に戻れる。



出遅れちゃったけど、

今から必ず貴重な高校生活を取り戻したい。


何だか気合が入って、開いていた掌を

ぎゅっと掴んだ。






入院生活最後の日は、


茅秋くんに会う日を夢見て練習していた

メイクをして、

お世話になった先生や看護師さんや

患者さんに挨拶周りをした。







翌朝、起きて歯磨きと洗顔、

そして覚えたてのメイクを施し


一度しか着ていない制服に袖を通した。




久しぶりに着た制服は入学式のままで、

左胸には花が咲いている。


色んな思いが込み上げてきて、


視界あふれ出そうな涙で覆われたが


せっかく綺麗にメイクしたんだからと

自分に言い聞かせ、

必死に涙が零れるのを抑えた。




母が迎えに来れる時間の都合で、


退院の時間は12時30分。



楓は時計の針が11時25分を差したのを

確認してからあの金木犀の元へと歩いた。






木に一歩一歩近づくたび、

あの香りの強さが増していく。


人を惑わせるかのように魅了してしまう香りは、まるで私を

ドレスに着替えさせるように身に纏ってくる。




金木犀の前に着き、上を見上げた。






実はヘアカット中に美容師さんから




「金木犀咲いたねー!楓ちゃん知ってる?金木犀って、縁結びの木って話があるらしいの。私気になってネットで調べたらね、あのいい匂いが遠くまで飛ぶことから、[離れている人との縁を結ぶ]って言われてるんだって!素敵よね。」





という話を聞いた。




以前の私なら迷信だろうと聞き流していたが



退院のタイミングでこの話を聞けたことが

偶然とは思えなかった。



直感的に試さなければと言う気持ちになり、


カットが終わるまで、金木犀を見つめていた。






実物を目の当たりにし、


想像以上の大きさに驚きながら、

木の幹にそっと手を置いた。




楓「今日を迎えられるまで私、頑張ったんです。花が散っても見ていてくれたでしょう?だからお願い、茅秋くんとカスミに会わせてください。」






と、誰にも聞かれないように小さく囁いた。














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