茅秋
『ちあきー!カラオケ行こーぜたまには!』
下駄箱に手をかけようとした俺に、
友人の咲人は肩を組んできてそう言った。
「ごめん、毎年恒例のあれだから」
『あー、お前毎年健気に通ってるよな。金木犀の木に気に入られてるだろうし、お願い事でもしたら叶えてくれるんじゃね?縁結びの木って言われてるらしいぞ』
「そんな事ある訳ないだろ。茶化すなよ。ただ好きで見に行ってんだからさ。」
『わかってるわかってる!しっかりお願いしてこいよ!彼女出来ますようにって!』
うるせーな、と咲人に手を振り金木犀のある
病院まで自転車を走らせた。
金木犀の前に着くと、昨日の小鳥が
木の根元で佇んでいた。
まるで俺を待っていたかのように。
「よっ!俺の事待っていたのか?」と声をかけ、
首元に目をやる。
まあそのまま帰ってきたんだろうなと思って
見てみると、
写真が変わっている事に気付いた。
俺は驚いてケースから写真を取り出す。
中にはこの小鳥の写真が入っていた。
「やっぱり飼い主居たんだな…」と言いながら
何か書いてあることを期待して裏面を見る。
すると手紙が書いてあった。
【最優秀賞、とても嬉しいです。ありがとう。写真を撮るのが趣味なの。誰かに見て欲しくてこの子に頼みました。まさか本当に届くなんて…手紙を届けてくれたこの子の名前はカスミです。 楓より】
俺は嬉しくて小鳥に向かって
「すげーなお前!」 と
しばらく叫んだ
「お前、カスミっていうんだな。ありがとうなカスミ」
何だかじーんと来てしまって手紙を眺めていた
「カメラが趣味とか一緒じゃん。運命かよ!しかも女の子…」
相手が女の子だとわかり、
趣味が同じなことに心が躍った。
ふと、さっき咲人に言われた事を思い出す。
「なんて恥ずかしいこと考えてるんだ…咲人に見られたら一生ネタにされるぞ…」
葛藤しながらも、もしかしたら
本当に願いを叶えてくれるかもなんて
考えてしまい、どきどきしながら
ゆっくり金木犀の木に手をあてた。
「この手紙の子…楓さんと仲良くなりたいんだ。いや、あわよくば…いやいやいや何でもない!楓さんと俺を友達にして下さい!!」
願いを告げると恥ずかし過ぎて
頭を抱えてしゃがみこんだ。
「少女漫画の読みすぎかよ、俺……」
冷たい風が吹いてきてはっと我に返り、
手紙の返事をしなければと
急いでリュックからポラロイドカメラを取り出す。
何を撮ろうか、カメラを構えながら辺りを見渡す。
空にはまっすぐ上に伸びる飛行機雲があった。
「これだ!」
少し日が落ちてきた空に飛行機雲が
綺麗に浮かんでいる。
写真を確認して頷くと、ひっくり返して
ノートを下敷きに手紙を書き始めた。
【楓さん、初めまして。カスミがまた写真を届けてくれました。返事ありがとう。俺も写真を撮ることが趣味なんだ。何か照れくさくて誰にも言ってなかったから嬉しいです。よかったら、友達になりませんか。高校1年の茅秋より】
俺は誤字がないかをよく見てからケースに入れ、カスミの首にかけた。
「俺、運命かもしれないんだ。この子と出会えたのは。カスミ、お前のおかげだよ。ありがとう。だからこれからも楓さんとの架け橋でいてくれ!頼む!」
手を合わせてカスミに頼み込むと、
カスミは一声鳴いてから空へ飛び立った。
合わせていた手を空にかざし、
指を組んでただひたすら願った。
あの子に、
楓さんに届きますように、と。




