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世界破滅アプリ〜おっさんが現代にできたダンジョンに挑む  作者: 結城明日嘩


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8/25

週明けの出勤

 まだ地下鉄は閉鎖されたままなので、レンタルサイクルで出社。そこでふと気付いたが、体が軽く感じられた。ダンジョンでステータスが上がった影響だろうか。

 2日の探索で敏捷(AGI)と器用(DEX)、知力(INT)あたりの数値が伸びている。体幹が鍛えられた感じで自転車を漕ぐのが楽な気がする。

 金曜日よりも早くついてしまったので、コンビニでコーヒーを買って時間を潰す。ダンジョンのまとめサイトを見てるだけで時間は過ぎていく。


「ついに金目のものが出たか」


 地下4階を探索する者が銀鉱石を見つけたという報告が上がっていた。そこまでの価値はなさそうだが、貴金属の一種ではある。もっと深くなっていけば、金なども出そうだと予測されるだろう。他のレアアースだとか、今までにない金属、ミスリルやらオリハルコンなどのファンタジーな鉱物も出てくるかもしれない。まあ現代社会で使える物かはわからないけど。堅くて軽いとかだと乗り物に使える可能性はあるか。


 問題は負傷はまだしも死者がどうなっているか。ダンジョン内は通信できないので、生配信はできない。危地に陥ったとしても助けは呼べない。

 死者が出ていたとしても発見する者がいないと不明なままだ。配信者の更新がなくなれば……という判明の仕方になるのかもしれない。


「日本じゃ立入禁止にして、勝手に入った者の自己責任……といいつつ、レスキュー隊が動かなければならない感じになるか」


 冬に閉鎖された山に勝手に入ってレスキュー隊を呼ぶニュースは年に何件も報道されるからな。連絡さえつけられればダンジョン内でも救助は試みられるのだろう。

 そういう意味では通信できないというのは政府にとって助かるのか?


 パーティーで入って、仲間が襲われていると助けを呼ぶケースは考えられるが、見捨てて逃げてきた人が通報するかは分からんな。元々立入禁止な訳だし。


「不法なうちはソロが無難……」



 俺の仕事はゲームのプランナーという割り振りになる。といって企画として新たな物を作り上げるような仕事はそんなにない。マップに敵を配置したり、パラメーターの設定をしたりという物量を増やす作業が大半だ。

 他にもオンラインのプレイヤーデータを確認して、不正行為を行っているプレイヤーがいないかを探すなどの作業もある。明らかにチート行為をやっていてもすぐにアカウント停止はできず、こういう怪しいデータがありますよと上に挙げて了承されたら停止となる。


 他にもリアルマネートレードなどの監視もある。ゲーム内のお金を集めて販売する行為だ。規約に禁止と書いていても、ネットで検索すると普通に引っかかる。

 序盤の簡単な部分を進めてお金を送金し、キャラを放置するとか、オートで周回させて金を作って送金するとかで集められる。受け取る側は明らかに適当に作られた複数のキャラから送金されているので怪しいのだが、これも簡単にはアカウント停止にはならない。

 ある程度の不正はキャラ作成数やダウンロード数、ゲーム内マネーの活性化などを伴うため許容されているのが現状だ。


「ゲームの世界も世知辛い」

「どうしたっすか?」

「不正アカの監視って、雑草抜きに近いなぁと」

「除草剤でばばっとやっちゃうとペンペン草も生えなくなりますからねぇ」


 自動で検知してアカウント停止までやっちゃう事も技術的には可能だが、そうなるとアクティブユーザーも減ってしまうというエビデンスがあるらしい。

 庭の剪定のように全体を見ながらやれというのが上からのお達しだ。

 ただただ徒労感は否めないが。



「で、ダンジョンはどうなんです?」


 昼休み、近場の牛丼店で昼食をとろうとすると、後輩もついてきた。ダンジョンの話をしたいらしい。


「どうと言われてもな……」


 妙な確信があるらしい後輩を誤魔化したところであまり意味はないか。こいつが通報しに行くというのも考えにくいし。


「まとめに上がってるのが大半だな。後はやっぱ、ゲームっぽい」

「ほうほう。獣って強いです?」

「強くはないな。今のところ怪我1つないし。生き物っぽくもないから罪悪感もわきにくいし、VRゲームみたいだな」


 まあまだVRにフィードバックはそれほどないから手応えという点ではよりリアルか。


「強くなりました?」

「肉体的にはあんまり感じないぞ。ただ自転車は上手く漕げるようになった」

「なんすか、それ」

「何か体幹が鍛えられたんじゃないかっていう……」

「地味っすね」

「現時点じゃ超人になる気配はないな。体の使い方が上手くなってく感じ?」

「思ってたのと違う……」

「普通に疲れるし、眠気にも負けそうになる」

「役に立たないじゃないっすか」

「その辺もゲームに近いか?」


 フィットネス系のゲームやっても本当に辛いとこまでは続かないので鍛えられる人は少ないとか。


「ただスキルは役立つかもだな」

「何のスキルっすか?」

「【空間把握】は距離感が正確になるから人とぶつかる事はなくなりそう」

「び、微妙」

「逆に【隠密】は現実で使うとぶつかられる」

「使ってみてください」

「相手に認識されてる状態じゃ意味ないみたいだ」

「やっぱ微妙っすね」

「今のところ恩恵っぽいのはないな」

「お宝は?」

「見つけてない。それに1階だと大した物もないだろうしな」


 そういえばまだ部屋に入ったこともないな。あの駅のダンジョン、他に人が入ってないなら宝箱を取っとくべきか?


「夢がないっすね」

「VRゲームよりリアルなゲームを体感できるだけで価値はあると思うがな」

「先輩、ゲーマーっすねぇ」

「ある意味、子供の頃の漫画だからな」


 ゲームの世界に入って対戦するとかはファミコン初期から漫画になってて、いつかはゲームに入れるようになると夢想したものだ。


「デスゲームですよね。敵にも殺されそうだし、そのうちPKも出そうじゃないっすか」

「PK出るようになったら、俺は諦める」


 ダンジョン内は電話も通じない無法地帯だから人を襲い始めるバカも出てくる危険はあるな。そうなったら体感ゲームとか言ってられなくなる。俺が楽しめるのは今のうちなんだろう。


「うちの近所にはないんすよね、地下鉄」

「地上の駅なんかだとダンジョンにならないみたいだな」

「会社の近くだと入りづらいっすし」


 会社の近くは夜でも人通りが多いからな。終電過ぎても人気ひとけがなくなる事はないだろうから、見つからずに入るのは難しそうだ。

 俺みたいに【隠密】取ってれば別だろうが、装備なしで入るのも気が引ける。


「今週末、先輩の近所に連れてってくださいよ」

「やだよ。俺んちより近くにあるだろ」

「1人じゃ怖いんですって。経験者が一緒がいいっす」

「あのなぁ……」


 これが可愛い女の子とかなら俺も多少は下心がでるかも知れんが、20代半ばの男に泣きつかれても面倒なだけだ。


「学生時代の友達とかいるだろ」

「どうっすかねぇ。オレらの世代でリスクしょってバカやる奴いるかなぁ」

「お前が俺をどう思ってるか、良く分かったわ」

「わわっ、ちょっとした冗談じゃないっすか」

「まあ、真面目な話。人にまで責任持てないから無理」

「……そうっすか」


 単なるアトラクションとは違って、怪我する可能性もあるからな。他人の命を背負って案内とかはできない。その辺は後輩にも伝わったようだ。


「でも思ったより、世の中変わりませんねぇ」

「ま、日本が変わるのは海外で何か発見があってからだろうな」


 昼食を終えた俺達は、会社に戻って仕事の続き。それが現実だった。

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