日常的な月曜日
フレックスタイム制。仕事の時間を前後させることのできるシステムらしい。
打ち合わせなどもあるので13時から17時は外せないが残る4時間は任意で動かす事ができるそうな。10時出社19時終わりを続けていた俺は、そんな制度があるとは知らなかった。コロナで通勤時間をずらせるようにしたらしいが、元々の10時出社も一般的に見ると遅い時間なので満員電車とは無縁だったが。
とは言え、この制度を使えば午前中はダンジョンな生活もできるのではないか?
何にせよ、申請して受理されて、月勤の集計が切り替わるタイミングまではどうしようもないけど。13時から21時勤務か、通勤時間がないテレワークならではの勤務時間だな。
8時から12時まで4時間ほどあれば、日々の攻略を進める事はできそうだ。変に早起きする必要もないし、仕事中に眠くなるとか避けられると信じたい。
それはさておき仕事の方はイベントに向けた最終調整。難易度も報酬も確定Okが出たので後はバグがないかの確認だな。AIが変な行動しないかを確認だ。基本的にはQAがチェックしてくれるが丸投げで放置も良くない。午前中は挙動確認に費やそう。
昼休み、動画を見ながら昼食。動画配信者って凄いよな、毎日のようにアップしてる。ダンジョン潜るだけでも体力使ってるだろうに、家に帰って編集してアップしてとを繰り返す訳だろ。
毎日同じ事をしてたらクレーム来そうだし、何か新しい事を求めて活動している。ダンジョンだと命懸けのはずなんだがな。
魔術師の動画を見ると、魔法の可能性を模索するのに励んでいるみたいだ。MPが見えないので限界点を見極めるのが難しいらしい。
強敵に挑んでMP切れとかで戦えなくなったら大変だもんな。魔術師でも近接戦はできないとダメなのかもしれん。
戦士系は必殺技の開発が活発になっている。
一番有名なのは【ソニックエッジ】という攻撃が10mほど飛ぶ技だ。習得方法としては、得物を空気を裂く音を意識しながら振る事で覚えられるらしい。
バットをブオンブオンと言わせながら素振りしていると覚えたというのが一番楽な習得方法だった。
それに倣って特定の動作が必殺技に繋がるかもと袈裟斬りから逆袈裟を繰り返して燕返しを狙ったり、刺突を繰り返して連続突きを狙ったりという新技開発動画がそれなりに上がっている。
結果はあまりかんばしくないようだが。
その他、戦士系だと【身体強化】がほぼ自動習得で便利らしい。戦闘していたら勝手に生えていたという報告が多い。その効果は筋肉アップらしいが、脚力も上がるので攻撃力も回避能力も上がるようだ。
ステータスの能力値が上がっても、体の使い方が上手くなる感じで、身体能力としては向上しないのに対して、【身体強化】は筋肉が強化されるので握力などが一気に上がる。
その分、ダンジョンを出ると効果がなくなるらしい。
斥候系は感知と身体操作系が覚えやすい。高い所から落ちた時の受け身などが上手くなる【軽業】とか、ロッククライミングが上手くなる【登攀】、敵の場所を感じやすくなる【察知】なんかだな。
後は気づかれていない状況で攻撃するとダメージ量が増える【不意打ち】は、他の職業に比べてダメージリソースの少ない斥候には必須スキルなのだろう。
昨日の獣人狩りで【察知】と【不意打ち】は経験値を稼いでそうなんだが、習得には至っていない。【持久走】よりも重視していたのになぜか。
「何かトリガーになる行動でもあるのかなぁ」
スキル習得に何が足りないのかと考えながら、午後の作業へと入っていった。
午後の作業はイベント後のアップデートに向けた作業だ。今朝、新たな会話シーンの台本が届いたので、それを元にキャラの動きを組んでいく作業。
会話に合わせて立ち絵を表示、表情や仕草を設定していく。ローコストタイトルで、全てのセリフを声優が喋ってくれる訳ではないので、以前に収録した音声から流用できそうなセリフを見つけてくる作業が地味にしんどい。
そろそろ生成AIで喋らせてくれまいか……いや、声優から総スカンを食らうだろうな。
まあチート探しとかに比べるとゲームを作ってる感のある作業なので嫌いではない。黙々と過去の音声を聞きながら会話シーンを作っていく。
セリフを喋ってくれないので、プレイヤーは基本文字を読むターン。そのため、キャラの動きは少なめにして読むのを邪魔しない程度に組まなければならない。
そうしたお約束を満たしながら、それでいて自分なりのオリジナリティを詰め込むのが醍醐味だ。
一連の流れができたら先方の脚本家にデータを渡して確認してもらって、チェックバックを修正。2、3度繰り返してシーンの完成となる。
先方に提出してもすぐには確認してもらえないので、待ち時間でチートやらRMTやらを確認していく。無敵系はHPが減らないので分かりやすいので即BAN判定。問題はDPS強化系だな。実際にその武装でそのDPSが出るかをシミュレートしておかしかったら検証ツールに掛ける。不正なデータを使ってたらBAN候補に入れていく。
というか結構な課金プレイヤーがチートしてると即BANは売上にも響くから悩ましい所らしい。こっちはとにかく報告するだけだがな。
最終決定は先方次第。直接PvPがある訳じゃないが、タイムアタック系に響くんだよね。それで称号とかあるから、違法ツールに手を出しちゃうかぁ。でもダメ、絶対。これもBAN候補っと。
そんな感じで午後の業務も終了した。
夕食を食べながら今日の動画を確認していると、わたりからの重大発表とやらがアクセス数を稼いでいた。
今までのダンジョン動画ではなく、今後の方針を発表する奴だな。
「えー、この度、俺はサポートしてくれる人の助けもあって、ダンジョンを攻略するための会社を立ち上げる事にしました」
な、何だってー!?
と言うほど驚く事でもないか。ダンジョン動画の配信を再開し始めたのに警察とかから横槍が入らず配信を続けられてるもんな。そしてアクセス数の伸びも悪くない。それに便乗して稼ごうと言う奴が出てきてもおかしくはない。表に出るのはわたりだし、手助けしている裏方まで手が伸びるとは思えない。
いわゆるセミナー講習なんかで稼ぐ輩も講演している者は小物で、金管理している裏方の方が主導権を持っててヤバくなったら講演者を尻尾切りにして逃げ出し、次の講演者を仕立てて似たような手口で稼ぐとか。
ダンジョン動画がブームとして稼ぎやすいと思った詐欺グループが出ても不思議はないな。
「これまで通り動画配信を軸に活動していきますが、今後の展開も考えて一緒に攻略してくれるメンバーを募集したいと思います」
わたりの動画を見ていると3階の獣は武器を使い始め手強さを見せていた。1人で進んでいくには限界があると実感しているのかもしれない。
それなら他の動画配信者に呼びかけるので良さそうなのに、会社を作ると言うには論理が飛躍している様に思える。裏で糸引く者がいそうだ。
「支援頂く方に弁護士の人もいて、ダンジョン内は日本の領土とは言い切れず、行動を妨げる権利は国にはないとの見解を頂いています」
これまた思い切った解釈だ。異空間とも言えるダンジョンは電波も届かない場所。歩いて入れているが、実際にどことは言えない。下手すりゃ外国へ飛ばされている可能性もある。
だからと言って日本の法に従う必要もないというのは暴論だ。そこに弁護士が〜と言われれば問題ないかと刷り込まれるだろう。
「ここまで大々的に政府に喧嘩を売って大丈夫なのかねぇ?」




