【Other】動画配信者わたり4
スキルの取得を危惧する警察、他国の犯罪者の入国を予測する小説家、入国審査を厳しくすればと提案する自衛官。【隠密】でセンサーも掻い潜るのではと指摘が飛んで、ならば入国審査官に感知系スキルが必要ではと続く。
そこで堤は各マイクをオフにして話を止めさせた。
「ダンジョンに入った人による危惧は確かにございますが、まずダンジョンという物についての危険性について話し合えればと思います。ダンジョンを放置する訳にはいかない、その考えは共有されていると思いますがどうですか?」
堤の提言に警備会社の代表者が発言する。
「ダンジョンから溢れる獣、その対処について報告いたします。全国1000箇所近いダンジョンの出入口のうち、1割ほどで獣の討ち漏らしが発生しました」
一匹を倒し切る前に次が出現し、街へと逃がした獣がそれなりにあったらしい。確かに俺が見ていた出入口でも獣を逃がす寸前になっていた。
「今後、万全を期すなら、現状の倍の人員を配置していただきたいです」
「補正予算枠でこれ以上の支出は厳しいです。溢れ出すのが週に1回なら、毎日の警護は不要なのでは?」
警備会社の発言に財務省と肩書のある人が答える。決められた予算内で収まるように時間を絞れと提案してきた。
「ダンジョンから溢れる現象はまだ観測が始まったばかりです。今後も週1回のペースなのかは不明で、もし警備がいない間に街に出ることになったら、批難は免れませんよ」
「アメリカで先に溢れるなら、それを見てから人員を集めたらいい」
「数時間で集められる人数じゃないんです!」
いつ使うか分からない人員を予め確保しておくというのは民間企業である警備会社には難しい。勤務にあたる人員のスケジュールを管理する必要がある。
「今でも既存の業務に加えて、休日出勤や残業で人員をやりくりしてる状況なんです。こんな状況は長く続けられませんよ」
「しかし国にも予算というものがあり、新たに出費を捻出するのは難しいのです」
「災害支出という名目で予算があるのでは?」
「ダンジョンは全国規模なのです。局所地震に比較すると多大な費用が発生しており……」
感情的になり始めた警備会社と財務省のマイクがオフにされた。
「この様に現場の苦労とない袖は振れない財政とで歪が出始めています。自衛隊や警察でもダンジョンだけに人員を割かれる状況は良くないと思います」
全国の地下鉄に現れたダンジョンへの入口。その全てをフォローするのは当初諦められていた。それは圧倒的に人手が足りなかったから。
しかし、ダンジョンから獣が溢れ出す事が分かって人員を配さざるを得なくなった。それは自衛隊や警察、消防などを合わせても足りず、民間企業である警備会社にも要請しなければ達成できなかった。
民間企業である以上、報酬が必要でありそれは国庫を圧迫する。極力余計な出費を抑えようというのは、財務省として当然のこと。
しかし、警備会社としては不測の事態に対応するのが基本。期間は分からないが定期的に出現する獣と対するのは本来の業務からするとかなりのイレギュラーである。
それなりの報酬を貰わないとやっていられないという訳だ。特に基本業務から外れ、労働時間が伸びている現場は辛いだろう。
臨時だから何とか凌いでいる現状は、時間が経つにつれて厳しくなっていく。年末が迫る中、来年度予算に新たな出費を計上は厳しい。しかし予算がないと政府であっても物事を動かせない。リソース不足はあらゆる面で起こっていた。
「それを解消するには民間の参入を認めないと無理でしょう。既存の警備会社も手一杯となれば、新たな事業を起こしてもらい、ダンジョンに対して頂く必要があるかと」
マイクの制御を握る堤の発言は誰にも止められないし、異論を差し挟む事もできない。
「ダンジョン企業の設立。それをこの場で提案させて頂きたい」
新たな概念の提示に会議に参加した一同は目を見開いた。
堤の提案が参加者の脳裏に浸透するのを待って、堤は説明を続けた。
「現状、政府や公務員に余力はありません。しかし、ダンジョンを放置すれば、更なる獣の溢れ出しが続きます。世界破滅アプリの警告文によれば、獣が破滅へのトリガー、今のままであるとは思えません」
やがて獣の数が増え、周期が狭まり、より強い獣が溢れ出すという予測は説得力があった。その前に対抗できる手段を用意したい。それがダンジョン企業だと。
「ダンジョン企業の業務はダンジョン攻略と獣が溢れ出ないように警備、それとダンジョンから出土した物の換金です」
ダンジョンからは銅鉱石などの鉱石が見つかっているが、それらは容易には換金できない。今後、もっと希少な価値の宝石類も出る可能性があるので、それらを捌くルートの提供も業務に加えるようだ。
「他には武器などの手配も必要となるでしょう」
この発言には自衛官や警察が発言を求めるが、堤はそのまま続ける。
「ダンジョンの獣には銃器が通じにくくなるようなので、必要となるのは近接武器。動画配信者達は金属バットなどを使用されていますが、そのままでは不足も出てくるでしょう。なので刀匠などと交渉できるようにしたい。それに際して、警察が危惧するであろう管理方法については後ほど意見を伺います」
警察としては武装した人間を野放しにはできないのだろう。市民としても武器を持った人間がうろうろしてたら通報するだろう。
「ダンジョン企業としての収入は、動画配信や獣を倒した時の暗号資産の他、ダンジョンで収得した物の販売。後は政府からの補助金も考えています」
現在警備会社に支払っている警護費用を補助金として支払う算段らしい。ただ警備するだけよりも、他に収入源があれば政府から支払う額は抑えられると。
「業務内容にもありますが、この企業の中核には動画配信者を考えています」
ここで急に話題が振られたように感じた。
「現在、数十人の動画配信者がダンジョン攻略を行っています。これらの人々をサポートする形で起業、ダンジョン攻略を行う人をタレントとして、それをサポートする事務所を構える。芸能プロダクションに近い形での展開を考えています」
動画配信者は今まで通りに活動を行い、先程出ていたダンジョンから出た物を捌いたり、武具を準備したりというのを行う事務職でサポートする。
事務所に所属するタレントをスカウトで集めて事業拡大する形で、ダンジョン攻略に携わる人を増やしていく。そういう計画のようだ。
「ダンジョン企業に所属するタレントという形で、ダンジョンに潜る人を制限して、武具の類も管理しやすくします」
最初に出ていたスキル保持者を野放しにするのかという意見に対しての1つの答え。所属タレントとして身元をはっきりさせた人だけがダンジョンに潜れる様にする訳か。
ダンジョンの入口で持ち込む武器を管理すれば、町中で武器を持ち歩く人も出さなくて済む。
「そのモデルケースとなる会社を、動画配信者のわたりさんに起業してもらいます」
「ふぇ!?」
あの日、俺に会いに来た堤は既にこの計画を実行すると決めていたのだろう。動き始めた何かに俺は流され始めていた。




