ダンジョンの変化
日曜日、今日も朝からダンジョン。午前8時からダンジョンへと潜る。階段を降りて三叉路へと向かおうとして、昨日なかったはずの扉を見つけて立ち止まる。
「更衣室?」
ダンジョンが始まる直前の通路の左右に扉があり、『更衣室(男)』『更衣室(女)』というプレートがついていた。
更衣室(男)の扉を開けてみると、5m四方の部屋にロッカーが立ち並んでいた。フィットネスジムの更衣室を思わせる作りで、2段になったロッカーで仕切りがなされている。
向かい合わせのロッカーが奥まで10個ほど並んでいるので、合計で200個以上あるのか。鍵は破滅アプリと連動して開閉するようで、1日の使用なら無料らしい。1週間まで中の物を保持してくれて、1日辺り100UBCとなっていた。
「武器を置いて帰る事ができるのは大きいが、鍵を締めてから24時間なのか午前0時で1日なのか……」
まあ100UBCならその辺でダーティドックを狩って来れば問題ない。問題があるとすると1週間経ってしまった場合だな。中の物を没収されて取り戻せないとなると運用には注意が必要だ。
週末潜るつもりだったが、体調を崩すとかもありえるからな。急な出張とか、アクシデントは色々と起こりうる。
そう思って詳しく説明を読んでいくと、1週間放置されたら入口の回収箱に入れられるそうだ。誰でも持ち帰りOKという箱だな。誰も持っていかなかったら拾えるだろう。今なら俺くらいしか潜ってないので回収できるかもしれない。
いやそう思うのは早計か。警備員とかが昼間に潜ってる可能性はあるよな。ダンジョン溢れを体験して、前もって攻略を進めるとかスキルを獲得しようとか考えても不思議はない。
「1週間放置は避けるのが無難だな」
更衣室の奥へと入ってみると、上下が分かれずに2mほどのロッカーもあった。これなら鉄パイプもそのまま置いておけるな。
さらに突き当りの壁には横に広いロッカーもあった。中を開けてみると、変わった台座が置かれている。どこかで見たことがあるなと記憶を探ってみたら、具足を飾るための台座だと気づいた。
甲冑を置いておけるロッカーのようだ。キャッチャーのプロテクターとか、アメフトの防具、剣道の防具みたいなのも置けそうだ。そのうち石棺から甲冑も出そうだな。
それらを持ち運ぶのは面倒なので、預けられるのは便利だ。
「昨日ぼやいたロッカーが欲しいというのがすぐに反映されるとは……」
俺が考えていたのは駅のロッカーレベルだったので、こうして更衣室ができたというのは他にもこういうのが欲しいと願った人がいたという事だろう。
この辺の要望を叶えるシステムは、ダンジョン側なのか破滅アプリ側なのか……それとも両者が同じなのか。ネットの考察班の活躍に期待。
「やはりダンジョンとしては自分のテリトリーに人間を招く事に何らかのメリットがあるんだろうね」
ダンジョンが便利になって困る事はないが、安全になる事はありえない。油断を誘う孔明の罠という可能性も頭の片隅には置いておこう。
更衣室に上着を預けて次なる確認は、ネットにあった転移門だ。階段近くの小部屋にそれっぽいものがあるらしい。
以前に探索した時はそんなものはなかったと思ったが、更衣室の様に後からできたのか、まだ下の階まで進んでいなかったから解放されていなかったのか。
「あるね」
階段から少し進んだ通路の扉を開けると、会議室の様な部屋の奥に以前はなかった新たな扉があった。
その雰囲気はエレベーターだな。扉の脇にボタンがあって押すと扉が開く。中に入ると扉の脇に幾つものボタンが並んでいて、大半は黒く消えた状態。
数字が書かれているのは1と2だけで、選べるのは2だけとなっていた。
「利用料が100UBCと」
暗号資産がダンジョン内マネーとして使われるというのは理にかなってるのだろう。とはいえ有料となると1階降りるだけで獣一匹分を払うのはもったいない気がしてきた。
「上る時に利用してみよう」
貧乏性が顔を出してきたのでそれに従う事にした。
まっすぐ2階への階段へと進み、降りた先の小部屋にエレベーターの入口を発見。以前はなかったからどこかでトリガーを引いたという事なのだろう。1階でエレベーターに乗ったからか。
こちらも選べるのは1と2だけ。選べるのは1だけとなっている。実際は上下ではなく、転移するのでマップを見るとかなり離れた場所となっていた。
「じゃあ次は3階をアクティベートしておくか」
階段自体は見つけているが、昨日は降りなかったからエレベーターで選べないのだろう。実際に降りていけば、そこにエレベーターの入口がありそうだ。
昨日埋めた地図とは別のルートを通りながら3階への階段を目指す。獣人とも戦闘していくが、一匹なら問題はない。ただでさえ身長差があるのに、鉄パイプでリーチで更に差をつければワンサイドで封殺できる。
鍾乳石や石筍を利用されると面倒だろうが、獣人にはそんな素振りもない。やはりまだチュートリアルの延長みたいな難易度設定なのだろう。
「こっちは中央に続いてそうだから、こっちかな」
マップを確認した時に中央にある空間。攻略の本命だろうけど、まだ挑むには早いと判断して3階を優先。特にトラブルもなく階段へとたどり着いた。
「普通なら階段前にボス部屋なんだろうけど、このダンジョンは違うんだよな」
ボスを迂回して下へと降りてしまえる。区切りごとにフロアボスが配置されているタイプなのだろうか。海外の情報を見ても5階辺りで止まっている。何らかの障害がありそうだ。
「ま、先を見ても仕方ない。まずは自分の到達階数を増やそう」
階段を降りて3階。この階の敵は獣人が武器を持ち始めるらしい。といってまだリーチ的にはこちらが有利なので、あまり心配はしていない。不意打ちに注意だな。
「そろそろ気配察知系のスキルを覚えたいところだな」
俺の職業は斥候。敵を探るのがメインの職業なので、気配察知のスキルも存在した。修得するにはそれに応じた行動をしていく必要がある。
耳を澄ましたり目を凝らしたりで敵を発見する階数を重ねていけばいいはず。今後、意識してやっていこう。
3階も自然洞窟風だ。鍾乳洞っぽいものから水気のないゴツゴツとした岩肌の洞窟になっている。あまり詳しくはないが、地下水脈で削られた所が周囲から崩落して埋まった感じだろうか。
足元もデコボコしていて歩きにくい。階段から通路に出ると、少しえぐれる様に崩れた小部屋があり、そこに場違いなエレベーターの扉が見えた。
「まさに取って付けた感」
更に崩落しそうな怖さがあるが、実際に崩れる事はない……のか?
小部屋は少し大きめの石が外へと転がり出て、その石の形が残った雰囲気だ。石の表面のデコボコが写し取られたように部屋の壁や床もデコボコしている。表面は鋭利ではないので服を引っ掛けて破れたり、転んで怪我をしそうな感じはなかった。
「ただ本格的な登山靴とかあった方がいいか」
スニーカーだと少し不安だ。靴底が厚めでしっかりと踏ん張れる靴が良いだろう。
「装備を整える出費の方が大きいなぁ」
ダンジョンで稼げると言えるようになるのはいつの日か。ひとまずエレベーターにたどり着き、無事に3のボタンが選べる事を確認した。




