こそこそ活動
昨日考えていると一般人が入れるようになるのはまだまだ先になりそうという自己分析になったので、こっそり入って活動した方が良いのではないかという結論に至った。
週末だけだと間隔が空きすぎて感覚も狂いそうだしね。何より自分が探索したいという気持ちが一番だが。
という事で日の出の後、始業までの3時間くらいで探索をしようと思う。
前回の教訓をいかして180cmの鉄パイプも持ち込んでおくことにした。狭い部屋での戦闘には向かないが、広い部屋や通路では長柄の得物の方が戦いやすい。
勝手知ったるダンジョンの入口。センサー類に引っかからないように【隠密】を使って中へと入る。
「部屋を回るか数を倒すか」
部屋の中には宝箱がある事もあるが、戦闘のレベルが高い気がする。狭い部屋での戦闘や同時に3匹というのは、難易度が高く怪我をしやすい。
せっかく、暗号資産が稼げるようになったのに、数を倒せないと金にならないんだよな。
そして宝箱から得られる銅鉱石は売るのが難しく、現金化できていない。どう考えても都会の一般人が置物にもならない銅鉱石を売るというのはおかしいもんな。
フリマアプリとかで出品すると買い手がつく可能性もあるが、手間の割に数百円で終わりそうだ。
「シールドの使い勝手も見たいし、戦闘メインでいってみるかな」
そう考えて俺は通路の獣を倒しつつ、新たなエリアを探索する事にした。
「シールドがあると安心感が違うな」
通路に出る獣程度なら攻撃を受けることもないのたが、慣れるためにクリエイトシールドを使いながら戦闘した。
先日手に入れた手袋で作れる盾は重さもなく、前腕部に付くために手自体は空いており、鉄パイプを振るうのに邪魔にならなかった。
シールドで殴るシールドバッシュの様な使い方もできるし、戦いのバリエーションが広がった感がある。
これはもう2階へ進んでもいいのかもしれない。
そんな事を考える程度には調子が良かった。
地下街を思わせる通路を獣を倒しながら進む。すると前方に下り階段が姿を現した。地下街によくある非常口といった雰囲気で、踊り場で折り返しながら降りる感じの階段だ。
「少し降りてみるか」
始業まではまだ少し時間がある。様子を見るだけの余裕はあった。階段を降りてみると、動画で見たようにいきなり自然洞窟といった雰囲気に変わる。
壁はデコボコしていて天井からは鍾乳洞の鍾乳石を思わせる氷柱状の石が下がっていた。
「落ちてこないよな?」
天井までは3mほどで、そこから1mほどの鍾乳石が下がっている。手を伸ばせば触れられる高さだ。ひんやりとした空気は湿気を感じ、まさに鍾乳洞といった様相をしている。
「足元も湿ってるか。滑りそうで怖いな」
靴底で床を擦ってみると、思ったよりも抵抗があって滑る感じはしない。そして床面は左右の壁と違って割と平らにならされていた。
「歩きやすいのは助かるけど、人工物みたいだな」
ここは作られたダンジョンという事なんだろう。なんちゃって自然窟ということらしい。道幅も1階と同じ5mほど。天井からは淡い光が差し込んでいて、眩しくはないが暗くもない。
まさに探索をやりやすい明るさに調整されていた。
「ダンジョンは世界を破滅させたいのか、攻略されたいのか分からん作りだな」
探索を楽しむアトラクションかという印象を受けるのだ。1階の敵は弱くてチュートリアルっぽいしな。まるで攻略にくる人間を鍛えたいかの様に思える。
「ラノベなんかだと、ダンジョンが人間の進化を促しているとか、宇宙人からのコンタクトとか色々な説もあるが……」
悪魔が世界を破滅させる為に作ったのならば、もっと難攻不落で入ったら即死。みたいなモノでも不思議はないはずなんだが、どうにも入ってくる人を歓待している様な雰囲気なのだ。
「悩んでも仕方ないのか、攻略にはそうした事も大事なのか……何にせよ、今日はここまでだな」
あと1時間ほどで始業時間なので俺はダンジョンを出る。今日の稼ぎは、16匹撃破で1600UBCだった。
自宅で作業をしていると、集中力が低下する事も多い。ちらほらとダンジョン動画を見ながらテストマップを作っていく。
「2階の獣は獣人タイプってだけでそこまで脅威じゃないか」
二足歩行になってはいるが、両手の爪や噛みつき攻撃だけなので、1階の四足歩行時に比べて格段に強いという雰囲気はない。
身長は130cmほどと小柄でリーチも短い。頭の位置が高くなった分、殴りやすいかもしれなかった。
「ああ、左手でブロックしつつ攻撃とかはあるのか」
金属バットによる攻撃を防ぎつつカウンターを仕掛けるシーンがあった。それでもリーチが短いので浅く服を裂かれた程度の被害だったが。
「やっぱり順番にステップアップさせようとしている気がするな」
ダンジョンを攻略させようとしていると感じた。その狙いはなんだろうか。ダンジョンを攻略させる事で人類を進化させようとしているのか、魔法を教えて強化させようと?
ピラミッドは宇宙人が建築技術を伝えるために作らせたとかトンデモ説はあるもんなぁ。同じ様な感じで、人類に新たな技術を教える手段としてダンジョンを使っている……トンデモ論の域を出ないな。
魔法技術を教えたいなら職業を絞る意味もないしな。
「ダンジョンメイカー論の方がそれっぽいか」
ラノベのジャンルにダンジョンマスターという作る側になって冒険者を引き込むことでパワーを貯めてダンジョンを成長させるストーリーなんかがある。
ダンジョンに挑む人が増えたら、何らかの手段でパワーを貯められる。より強い人間を引き込む事で貯まるパワーが増える……とか?
戦闘力5の農夫を百人倒すより、戦闘力5000の戦士を1人倒した方が効率がいいとかあるだろうか。
「悪魔なら魂を集めるとかありそうだけど」
そこに強さによる価値の増加があるなら敢えて鍛えてから倒す……みたいな事もアリ得るかもしれない。
雑魚モンスターを倒しまくっても中々レベルが上がらないので、より強い敵を倒さないといけなくなるというのはゲームでよくある。
強い人間をダンジョンで倒す事で多くの経験値が稼げるのだろうか。
「ダンジョンで成長すると悪魔にとっても都合が良くなる?」
かといってダンジョンを攻略しないと獣が溢れてくるから放置もできない訳だが。
「ダンジョンを攻略していくとその辺の情報も集まってくるのだろうか」
ストーリーが進むにつれて重要な情報が手に入るというのはよくある。といって悪魔に渡される情報だと、悪魔に都合がいいものである可能性も高い。
「となると鍵は破滅アプリの方になるか」
破滅アプリも悪魔が用意したものである可能性もあるので、全幅の信頼を寄せる訳にはいかないが、ダンジョンを攻略するのに各能力値が見れたり、スキルの使用法が分かったり、鑑定が使えたりというのは便利だ。
破滅アプリを作った者が悪魔と敵対する存在なら、そうやって情報を与える事で人類に味方をしてくれているのかもしれない。
だとすれば人類が核心の情報を理解できるとなれば、悪魔の目的や倒す方法なんかをアプリで教えてくれる様になるかもしれない。
「いかんな、推論に推論を重ねてしまうと、都合の良い解釈にしかなりそうにない」
俺が今できるのはダンジョン攻略を地道に進める事だけ。相手の思惑など気にせずに、やれることをやっていけばいいだろう。
「人類を救うのは勇者に任せて、俺は楽しめてゲーム作りの参考にできたらいいや」




