イベント開発模様
数ヶ月かけて施策を練るイベントを1週間で仕上げろというディレクターの無茶振りに対して、できませんでは済ませられないのが勤め人の立場だ。
マップなどは既存データの使いまわしで済ますとしても、敵の配置などは使い回すとユーザーからの指摘が辛くなってしまう。
今回はダンジョンの獣がコンセプトなので、夜をベースに暗がりから奇襲を受ける想定で配置を考えていく。
キャラの斜め上からの視点で進むゲームで、スマホの操作なので基本はオートアタック。移動やスキル使用タイミングをアイコンのタップで操作する。
カメラの視点操作などはないため、岩の影などは死角となっており、獣の奇襲を演出する事もできるだろう。
「でもその手の手法は既にやってんだよね」
物陰からの奇襲で不意をつくなんてのは早々に思いつく事だからもう何度か使ってる手。もっと新たな手法で意表をつかないと飽きられてしまう。
「不浄の獣らしさ……か」
地下一階の獣、ダンジョンの外に出てきたのもこの獣なので、一般的に知られている存在だ。既に動画などで動きも知られているだろうし、それっぽさを演出するとなると、敵としては弱くなってしまう。
苦戦したのは3匹同時での戦闘だった。一匹ずつの戦闘に持ち込んで戦うような戦闘に組み上げるか。
「トライアングルアタックで1点を先に落とさせて、2匹同時をどういなすか……」
敵の動きとしてはシンプルだが、パラメーターの設定で一撃を重くして、複数の攻撃を同時にダメージを受けるとヤバいみたいなバランスにしてみよう。
そんな感じで方針を決めて企画書を作成。ディレクターへと提出しつつ、サンプルとなる動作を組む。昔と違ってエディターでAIを組める様になると、敵の行動パターン作成なんかはプログラマーではなくプランナーの仕事になってしまったな。
「日の出ているうちに帰れよー」
方針が決まって作業が乗ってきた矢先に、いつの間にか夕方になっていて、早々の退社を促されてしまった。
「こういうのを持っとくと心構えが変わるかもよ」
「なんすか、それ」
帰り支度をしていると後輩がまた戦い方について質問してきたので、俺はホルスターに入っていた警棒を取り出すと、手首のスナップを効かせてシャキンと伸ばして見せた。
「うおっかっけー」
「家電量販店なんかでも防犯グッズの1つとして売ってたんだ。地下一階の獣相手ならこれで十分に戦えるぞ」
「でもお高いんでしょう?」
「いえいえ、これが今なら何と5000円でのご提供」
「やっすー……くはないっすね」
「社会人ならそれくらい出せるだろ」
「いやいや、そんな余裕ないっすよ」
「獣一匹で100円稼げるから、50匹で元は取れるぞ」
破滅アプリで暗号資産とリンクできるようになり、地下一階の獣一匹の値段を教えてやった。
「ひゃ、百円っすか」
「地下一階だからなぁ。もっと深く潜っていけば、単価は上がりそうだぞ」
「それで5000円は取り返せたんですか?」
「……2日で400円だな」
「全然ダメじゃないっすか」
病院で戦う前もカウントされてたら数千円は稼げてたんだ。ただ週末は色々と試行錯誤がメインで数を狩れなかっただけで……と言ったところで事実は変わらんな。
「木曜日の帰りに獣と戦った時は、折りたたみ傘だったんだが……一匹で壊れた」
「そりゃそうでしょうね」
「その時点で警棒があれば、3000円の傘が壊れる事はなかったんだ。備えあれば憂いはなかったんだよ」
身近な物で戦おうとしたらそれがすぐ壊れたり、怪我して治療費がかかったりするかもしれない。先行投資は大事なんだと訴えた。
「朝も言ったが、最後は気持ち、気合だ。それを奮い立たせるのに武装ってのは馬鹿にできないんだよ」
「そんなもんですかね?」
正直、言葉で説明するより1回の実戦だとは思うが、ダンジョンの入口が封鎖されたので経験するのは難しくなってしまったな。
これでいきなりダンジョンの外に出てきた獣と戦うとなると厳しいかもしれない。出てくるのは日没後だし、黒い獣とは間合いが図りにくくなる。
「ま、動画見てるだけでも変わるし、体を動かしとくのもいいだろうし、ダンジョンの事を考えとくだけでも咄嗟の行動が変わってくるかもな」
などと曖昧なアドバイスを送って俺は家路についた。
「明るいうちに帰ってくるって不思議な感覚だ」
家に帰ってノートPCをセットアップ。VPN接続で会社のPCと連携できることを確認したら、この日の作業としては終わりだが、中途半端に終わってた敵のセッティングを詰めてしまって思ったよりも時間が経過していた。
「おおう、晩飯を食べなきゃな」
周りに人がいない状況での作業は時間経過が曖昧になるな。以前にテレワークをしていた頃を思い出す。
俺は上着を取って近所の飯屋へと足を運んだ。
「閉まってるよなぁ」
ダンジョンから獣が溢れて外出自粛。飲食店の閉店時間も早くなっている。かろうじてコンビニは開いててくれたので、弁当を買うことができた。
日没後だけの自粛なのでコロナの頃に比べたらマシなんだろうが生活にも影響が出ているなと思う。
帰りにダンジョンの入口が見える道を通ったが、夜はちゃんと警備員が2人立っていた。いつ出てくるか分からないというのは一般の夜警に比べると緊張感はありそうだ。
「このまま攻略が進まないとどうなるのか」
ダンジョンが世界を破滅する為に生み出されたとすれば、出てくる獣もエスカレートしていくと予想される。
他国では積極的に攻略を進める方向で、軍の派遣が始まっていた。いずれは日本もそれに追随するのだろうが、地下鉄の駅が多くてダンジョンも多いので早く手を打たないとまずい気もする。
「ダンジョンに資源があれば、逆にチャンスなんだろうけど」
各種資源が乏しく輸入に頼る傾向の強い日本。ダンジョンから資源獲得ができるとなれば、新たな発展のチャンスなんだろう。
この辺は民間で動くほうが早いだろうが、どこが動くんだろうな。能力的には警備会社なんかだろうけど、資源を必要としているのは別の企業だ。化学系の企業が警備系企業に依頼する形で始まるのかね。
クールジャパンな展開を考えると、エンタメ系の職種が名乗りを上げる可能性はある。ダンジョンアイドルとか新ジャンルとして立ち上げて、探索配信をやるとか。農業アイドルも不祥事もあって下火傾向だし、某アイドル事務所の新機軸とかで動くと意外と早く進んだりしそうなのが、日本という国だったりしないかな。
「ゲーム業界が参入ってのはないだろうな」
破滅アプリがゲームっぽいので親和性がありそうに見えるが、どちらかというと外出自粛で需要が伸びる方に期待して、開発の方が活発になりそうだ。
ダンジョンの解明に見解を求められるとしても、ラノベ作家や雑誌編集者なんかの方が分析には向いているかもしれない。
意見を求められるとしても、弱小企業の人間よりは一部上場企業の開発者とか、独立した有名なゲームデザイナーとかが選ばれるので、俺らのような人間にはお鉢が回ってくる事はなかろう。
「ラノベ的に民間冒険者なんて職ができるのはまだまだ先だな」
お役所というのは民間人の被害者を恐れるというか、マスコミが叩くネタにされやすいだろうから、一般人がダンジョンに入れるような規制緩和は最後なんではなかろうか。
「俺みたいにこっそり入る人ってどれだけいるのか……」




