週明けの月曜日(12日目)
月曜日となり出勤の準備を行う。獣に噛まれた左腕は痛むが流血は治まった。今日はテレワークに向けてスケジュールなどの見直しやら、機材の受け取りがメインだ。
「自転車買ったのに出勤少なかったな」
まあ、町中を移動するのにも使えるからいいけど。
自転車で会社へと向かっていると、道路を行く車も少し減っている様に感じる。獣が出るとしても日没後のはずだが、コロナなどのおかげで不要不急の外出を控えるように言われると、ちゃんと従う空気なのだろう。
会社につくと後輩も既に出社していた。どうやら俺を待っていたようだ。
「先輩、戦い方を教えて欲しいっす」
「いきなりだな」
「もうどこにいても安心なんて無さそうなんで」
「移動を日のあるうちにしとけばいいだろ」
「いつ家の中に入ってくるかも分からないじゃないっすか」
獣が溢れ出すようになり、このままだとエスカレートしていく雰囲気を感じているんだろう。
「正直な話、獣との戦闘は技術より根性というか、気合や覚悟の方が大事だぞ」
「でも基礎というか、基本みたいなのがあるでしょ?」
「通信教育ならぬ動画学習でいけるいける」
「ええーっ」
実際の所、低い階層の獣相手なら技術はそこまで必要じゃないだろう。それよりも躊躇うかどうかの方が大きい。生き物ではないと割り切れるかどうか。
「俺らみたいな人間って殴り合いの喧嘩とかもしてこなかっただろ。思いっきり殴る勇気が出せるかどうかなんだよ」
「先輩はなんで適応できてるんすか?」
「俺はリアルなVRだと割り切った」
「そ、それだけっすか……」
信じられないといった表情を浮かべる後輩。
「後は小学校の頃を思い出すとかか」
「その心は?」
「ごっこ遊びの延長とか。箒を振り回してチャンバラとかした記憶とかないか?」
「それくらいなら確かに……でもそれで戦えます?」
「それこそゲームと思えるかどうかとか、義務感とかじゃなく楽しもうと思えるかだな」
「……先輩って思っていたよりサイコパスだったんすね」
後輩が少し身を引いて顔を引きつらせる。
「ロールプレイって奴だよ。ネトゲでもなりきり勢だからな」
「なるほど」
後輩はネトゲだとFPSとかの対戦系みたいだからなりきりという概念は薄いんだろう。そういうスタイルがあるのは知っててもその心持ちまでは理解できてないようだ。
「FPSでも妙に勘が冴えて誰にも負けねぇとかゾーンに入る時があるだろ。それを意図的に起こせればやれるんじゃないか」
「あれは狙って入るんじゃなくて、結果で集中できる感じなんすよね」
「後はスポーツ選手のメンタルトレーニングとかか?」
「すぐには無理そうっすね」
「銃とかあれば変わりそうだけどな」
アメリカなんかの動画だと銃で攻略してるのもあるし。
「エアガンとかじゃダメっすよね」
「銃刀法に引っかかるクラスじゃないとダメだろうな」
改造エアガンとか今でもあるのかね。メタルBB弾とかじゃ獣には通じないだろう。最低でも圧を高めた違法エアガンは必須だろう。
「ま、覚悟を決めて戦うのが結局は近道だろう」
「やっぱ、先輩と一緒に潜ってみたいっすね」
「今となっては監視の目を潜り抜けられるかって問題もあるがな」
「先輩は?」
「【隠密】で」
「ずるいっす」
「先見の明といいたまへ」
ネトゲと一緒でスタートダッシュが大事だったのだよ。
「という事で最近は接続が下がり気味だったが、この週末は回復傾向にある」
ダンジョンから獣が溢れた事で外出自粛ムードがあり、外に出られない分ゲームをプレイする人口が増えていた。この辺はコロナの頃と傾向が似ている。とはいえ獣の出現は目に見える脅威なので、コロナの頃ほど長くは続かないであろう事も予測できた。
「うちのゲームは少し難易度高めだから腰を据えてプレイしたいって人が多いからな。それに合わせたアップデートを急ぐ」
スマホタイトルではあるが、ステージクリア型のアクションRPGでハック&スラッシュという繰り返して遊ぶことで、より良い装備を集めていく。変にガチャなどでの課金要素は少なく、体力回復などでサポートされる月額いくらの課金要素が軸。
継続してプレイしてもらうためにアップデートを繰り返していく必要があった。
「しかし、出勤が難しくなっているのでテレワークへの移行もしなければならん。ノートPCを貸し出すので、リモート接続で……」
メインPCは会社に置いたまま、ネットで遠隔操作して作業を行うスタイルのテレワークだ。作業の多くはステージに敵を配置したり、ドロップするアイテムのパラメーター設定、プレイヤー間のアイテム融通システムであるオークションの管理などだ。
一応、メインストーリーもあってそこで発生する会話シーンを作ったりというイベント会話作成といった業務もあるが、シナリオは依頼元で管理されているので下請けであるうちでは作れない。
今回のダンジョン特需に合わせて開催するミニイベントは、高難易度ステージを作って少しいいアイテムをドロップさせる形でリリースする予定だ。
「既存マップの敵調整で来週には開催できるように整える」
「そんな殺生な!」
「ダンジョン特需に乗るんだ、スピード重視だ」
本来なら数ヶ月かけて計画を立てるイベントを1週間で仕上げろとか無理がある。アクセスが減少傾向で先方からサービス停止の打診が始まってるという話にも信憑性が出るな。
スマホアプリ業界はゲームの乱立で駄目だと判断されたらすぐに切られるケースが増えている。しかし、この手のゲームは長く続ける事で下請け側の取り分が増えていく契約なので、早々に打ち切られると辛い。
ユーザーが操作しやすいかとか、プレイの楽しさとか、イベントの頻度とか、そうした部分は下請けに任されており、そこが継続に大きく関わる。
先方はメーカーのネームバリューと、既存タイトルとの連携などで販促を促してくれるので、それを活かして導入を誘導し、プレイしてもらって後は下請けの技術で継続を促す。そうした運営スタイルとなっている。
「せっかくだからこの雑魚、獣タイプを黒くして不浄の獣っぽくしましょうか」
「1週間じゃ無理っすよ」
「いけるいける」
ディレクターの要求は現場の作業量を度々無視してくる。しかし、客を集めるために必要だとなれば反対できる者もいなかった。
「資料写真を集めてくれ」
「動画からの切り抜きでいいですよね」
「できれば生の写真が欲しいな」
デザイナーがそんな事を言ってくる。そこまで忠実に再現する必要もないと思うんだが、デザイナーというのはそういうものらしい。
「先輩、何かないんすか?」
「鑑定用に撮影したのはあるはずだが……」
スマホを操作してみると、意外と撮ってあった。最初に行動記録するために撮っていたのを思い出す。
「おお、動画と違って解像度高いっすね。黒一色って訳でもなく……この辺とか模様もあるっすね」
「本当だな。キジトラに近い柄なのか」
縞模様のある猫を思わせる柄だが、黒と濃いめのグレーなので動いているとわかりにくい。
「サーバーに上げといてください」
「スマホからの画像アップってどうやるんだったか……」
会社のPCはセキュリティの観念からスマホの直つなぎとか、USBメモリとかを刺すとアラートが鳴りかねない。
「社内サーバーにWifiで繋いで……」
後輩に教わりながら何とか写真をアップしておいた。




