大きな箱の中身
リュックから包帯などを取り出して治療を行う。傷口を消毒液で洗い、ガーゼを当てて包帯を巻いていく。流血が激しければもっと心臓に近い上腕部を縛る必要があったが、幸いにして流血量は多くなかった。
血流を止めると色々と支障がでるからな。
ただ噛まれた周辺は青黒くなっていて、かなり圧迫されて内出血を伴っていた。ちゃんと病院に行った方がよいかな……でも日曜日だし開いてないか。
ジンジンと傷口は痛むが、骨折などもないので安静にしてれば治るかな。
「やっぱり、段ボールじゃだめだったな」
爪に裂かれ、牙で穴だらけにされた残骸が床に転がっていた。一撃を防ぐくらいなら何とかなるが、攻撃を受ける度に削られて薄くなっていっては戦えない。
別の何かを見つけないといけないだろう。
「それはさておき、箱には何が入ってるかな」
そう思って部屋の中央に鎮座した箱へ移動する。無造作に開けてミミックなんて事は避けたいので、警棒を使って慎重に開けていく。
石棺の様な石のフタを押してズラして隙間を開けて、警棒を挿し込んでえいやっとフタを落とす。前の石棺よりも大きい分、より力が必要だったな。鉄パイプなら柄も長いので、もっとテコの要領で軽く開けられたはずだ。
警棒があっても鉄パイプも必須だなと改めて感じる。
飛び出してくる何かもなかったので、箱の中を覗き込んでみる。すると人の手が入っていた。
「手ぇって、何だ、手袋か?」
肌色で思わず引いたが、人肌よりも艶があるので手袋だと分かった。ひとまず破滅アプリの簡易鑑定で撮影してみる。
名前:シールドグローブ
効果:小型の盾を生成する手袋
おおお、鑑定が仕事している。そしてタイムリーな防具が出てきたな……俺の状態を見て箱の中身が変わったとかか?
もし戦闘前に開けてたら中身が違っていたのだろうか。
破滅アプリがスマホの持ち主ではなく起動した人によって表示が変わるとか、謎のリンクをしているだけに宝箱の中身が人によって変わるとかはありそうだよな。
何はともあれ今の俺にとっては重宝なので、さっそく嵌めてみることにした。付けた感じはやや固めのレザーグローブといった感じだ。少し日に焼けた感じの肌色で、ぱっと見では素手と思うかもしれない。
手を動かしても違和感はなかった。
「で、どうやってシールドを出すんだ?」
破滅アプリの鑑定画面を見ると、『クリエイトシールド』と唱えるらしい。魔法を使えないからこうした技名みたいなのを叫ぶことはないかと思ったが、装備品を使う時にもコマンドワードがあるらしい。
いいおっさんが『マジックアロー!』とか叫びたくないと思ったのも斥候を選んだ理由だったが仕方ない。
ちなみに日本人の多くはコマンドワードが英語になっているが、逆に欧米などでは日本語が採用される事が多いらしい。あまり日常的に使わないけど、多少は意味が分かる言語が選ばれるようだ。
海外の動画で「まほうのやー」とか叫んでると中々に違和感がある。ジャパニメーションの影響で必殺技は日本語というのが浸透しているらしいので、配信者はノリノリで叫んでいる。
「クリエイトシールド」
普通に話すくらいの音量で言ってみると、左手が少し重くなり、前腕部に直径30cmほどの青い半透明の円盤がついていた。
プラスチックというよりはガラスに近い光沢のある円盤だ。割れたりしないのかなと石棺の縁にぶつけてみたが、ヒビが入る事もない。徐々に勢いを増していったが、噛まれた痛みがぶり返してきたので途中でやめた。
「いや、この強さまでは痛みを感じないくらい軽減されてたって事か」
獣の攻撃が傷に響くか微妙なラインだな。今日調べるのは止めておこう。そして出現した盾は3分で消えた。
ボクシングなんかの1Rと同じ長さだろうか。連続して格闘する限界がそれくらいって事かもしれない。
「しかし戦闘中にいつの間にか切れてると困りそうだな。発動と共にタイマーとか仕掛けられないだろうか……」
OK、G◯◯gle、タイマーを3分でセットしてとかで、アラームと連動させるとか。戦闘中に音声入力は厳しいか。キットンタイマーみたいな感じで2分50秒を記憶しといて、ボタン一つでスタートする様にするのがよいかな。
「まあ、何にせよ今日はここまでだな」
応急処置はしたけど腕は痛いし、止血もちゃんとできてるか怪しい。
「暗号資産が稼げるようになって、全然獣狩れてないな……」
今日も3匹しか倒してないので約300円の収入に終わった。傷薬代でも赤字っぽい。
ダンジョンを出てからシールドを起動してみたが、やはり魔法や必殺技と同じでダンジョンの外では発動しなかった。あの空間専用の機能という事だろう。
手袋として着け続けていても蒸れたりはせずに暖かく、厚みもそれほどではなく違和感はなかった。普段使いもできそうだが、残念ながら左手分しかない。
右手もそのうち見つかるだろうか。
とりあえず守りの懸念は払拭できたので今後の戦いは楽になりそうだ。
警棒は扱い易いが一撃がどうしても軽い感じになっている。鉄パイプは両手で振るって遠心力も大きいからな。間合いの広さもあって戦いの主導権を得やすい。
問題は持ち運びなんだよな。警棒が三段階に伸びるみたいに伸びる鉄パイプって何かないだろうか。
釣り竿とかのイメージだが竿は叩くには向かない。殴るもんじゃないから耐久性に難がある。
高枝切り鋏の柄とかも同様で、伸ばせるけど殴るのに向いてないだろう。
「高い所のものを叩く道具か」
さすがのAI検索でも俺が望むような物は出てこない。強度が欲しいから自作もできそうになかった。
180cmの棒を持ち運びしやすくする方法がないものか。
「知識不足のまま悩んでも仕方ないな」
ダンジョンの入口に置いておくとかできないかな。通路の端に転がしておけば俺以外に入る人がいても邪魔にならんだろう。
今後、ダンジョンが民間に解放されたとして、武器の管理は問題になりそうだな。刃物を持ち歩かれたら銃刀法違反だ。ダンジョンの入口に管理ロッカーを作って預ける形になるのかね。
獣が出ないかの監視も含め、全ての出入口に人員を配置しなければならないとなると、かなりの予算が必要になるだろう。
ダンジョンにそれだけの価値を見いだせるか。今のところ放置すれば被害が出るというマイナス方向なので、攻略する方向で価値が出ないと大きな予算は掛けられないだろう。
「期待するのは希少金属か」
金って今はグラム2万とかだっけ?
鉱石に金が出始めたら本腰を入れようとなるかもしれない。他のレアアースとかでも見つかれば、攻略も捗りそうだが。
暗号資産に相応の価値が出るのはどれくらいの強さになるのやら。ただこれも変動相場っぽいから、多くのUBCが稼げるようになったら、対日本円価値がさがったりもありえるんだよな。
「ダンジョンの脅威がどこまで上がってくるかにもよるか」
先週の獣出現は地下一階の獣。素人でも喧嘩慣れした人なら倒せるレベルだ。これがダンジョンからの警告だとすると、今後はより強力な獣が出てくる可能性もある。
俺もまだ2階には降りてないのでそこの獣の強さは分からないが、人型になるという。さらに階が進むと武器を持ち始めるらしい。
そこまでくると素人ではどうしようもなくなってくるだろう。時間敵猶予はいかほどか。
「日本政府はどこまで危機感を抱いているんだろうね」




