新装備で挑む
段ボール製の盾を準備する。
ボンドで重ねていくと目方向にはかなり強くなるし、面方向は緩衝材となるし厚みがあれば爪や牙が通らなくなる。
これを向きを変えながら重ねる事でかなり壊れにくい盾とできるらしい。俺は前腕に装着するのを念頭に、長さ30cm、幅10cm、厚さ4cmの板を2枚用意して、内側は目方向を立てる形で外側は面を向けて重ねて縛る。外側は衝撃をへこむ事で受け止められる様にしつつ、交換可能な感じでスペアも作った。
腕への固定はひとまず幅広のバンドを手首と肘の辺りに付けておいた。
使用用途としては相手の攻撃を受け止めるというよりは、攻撃をいなす際に腕が怪我しないように保護する手甲としてだ。
「思ったより厚みが気になるな」
8cmは厚かったかもしれない。でも牙で噛みつかれたりと考えると4cmじゃ貫通しそうなんだよな。爪は表面を引っ掻く程度だから大丈夫だと信じよう。
リュックに入れるとやはりかさばる。スペアまでは持ち歩きたくないな。
「明日に備えて寝よう」
日曜日の朝、日の出まで獣が出てくる事はなかったようだ。ニュースはダンジョンの取り扱いについてコメンテーターが好き勝手に論争している。
海外では軍隊を軸に攻略を進める方針を打ち出しているらしい。特に兵士の数が多い中国や、徴兵制が敷かれている韓国などは先んじようという姿勢を見せていた。
情報は出てこないが北朝鮮なんかも人口の割に兵の数が多いはずだし、ダンジョン攻略を目指しても不思議はないか。獲得できるスキルは諜報活動に向いているしな。工作員を養成するのにも向いてそうだ。
そう考えると日本も早く動いた方が良いと思うんだが目立った報道はされていない。まあ自衛隊や特殊警察(SAT)、公安などが動いたとしても、秘密裏に行う任務であれば報道はされないだろうけど。
日本は世論を気にするから任務中の殉職とかがあると騒がれる危険もあるし、特に民間人に被害が出たらマスコミが勢いづくだろう。
発表されるとすればある程度道筋ができてからか、どこかがすっぱ抜くか……世の中の動きは読めなかった。
午前10時ごろにダンジョンへ到着。入口に人の姿はない。センサーは動いているかも知れないが、【隠密】で誤魔化せると信じて中へと入る。
左腕に作りたての段ボールの盾を装備、右手には警棒を伸ばして握った。
部屋を中心に探索を開始だ。会議室のような狭い部屋を4つほど確認して代わり映えしないなと思い始めた時、5つ目の部屋の扉を開くと空間が広がっていた。
10m四方ほどの開けた空間に、獣が3匹待っていた。コンクリートの飾り気の無い壁に、リノリウムっぽい床板、部屋の中央には大きめの箱が鎮座していて、その周囲を囲むように獣達がいた。
「複数同時……なのか?」
地下一階やダンジョンの外では律儀に1匹ずつ襲ってきていた獣が、この部屋では3匹同時に動き出していた。
1対3、かなり不利な状況である。こういう時こそ長柄の武器で距離を保てる方が戦いやすいだろうが、今日は鉄パイプは持ってきていない。複数の装備を持ち込むのは大事かもしれない。
部屋の入口は扉が開いているものの謎の抵抗があって外には出られない。逃走不可な戦闘って事だろうか。
少し慣れて不用意に部屋に入ってしまったのが失敗の根幹だな。基本に忠実に中を確認してから入れば良かった。後悔先に立たずとはまさにこの事。
部屋の障害物は中央の箱、1m四方の立方体というサイズが1つ。今までのように長机とか椅子もない広々とした空間だ。三方から狙われやすい、獣に有利な地形と。
「いきなり難易度上がりすぎじゃないか?」
そう思うが逃げられない以上、やるしかないのだろう。俺は警棒と盾を構え直した。
同時に掛かってこられるのが一番対処が難しい。さっと避けて獣同士がぶつかって隙が出来るとかは漫画の世界だけだろう。
3匹がつくる三角形の頂点の1つを正面に、こちらから近づいていって戦いを仕掛ける。獣の動きとしては単体の時と変わりない。一定距離に近づいたら噛みつきが引っ掻きによる攻撃だ。室内では走っての突進はしてこない。
今回は噛みつきをチョイスしたようで、首を伸ばして口を開く。そこに段ボールの盾を押し込み口を閉じられなくさせておいて、横面を警棒で殴りつける。絵面としてはかなりえげつない事になっているが、身の安全の為には最初の一匹を早く確実に仕留める必要がある。
段ボールの盾を左腕ごと咥え込んだ獣は、仰け反る事もできずにモロに打撃を受けていた。ただ一撃で倒せるほど弱くもない。こちらも片手を封じた状態なので、全身を使った一撃ではないので威力が落ちているのもある。
「このっこのっ」
近づいてくる残り2匹との距離を見つつ、獣の頭部へと警棒を叩きつけ続ける。回数を数える余裕もなく、何度も振り下ろしているうちに手応えがなくなり、警棒がすり抜けた。まだ姿は残っているが、倒した扱いになったのだろう、徐々に姿が薄れていく。
左腕も自由になり、段ボールの盾を確認すると何箇所かに穴が開いていたが、全体としてはまだ使えそうだ。
そこへ2匹が襲いかかってくるので、左腕を振りながら下がる。前足による攻撃が当たり、表面が削られるが、何とか防げた。表面の方はもう防御性能は期待できないだろうけど。
右の獣の更に右に回り込む事で左の獣と時間差を作ろうとしたが、左の獣も回り込んできて上手くいかない。またタイミングを合わせてかかってきた。
左の獣の噛みつきを左の盾で止めつつ、右の獣の引っ掻きを警棒で払う。左がガジガジと盾を噛むうちに、右の獣へ意識を集中。前足の攻撃を警棒で払って、払って、突きを放つが下がって避けられた。
「いだっ」
左腕に痛みが走って、思わずそちらを見ると、獣の牙が盾を越えて前腕部に食い込み始めていた。その喉元へと警棒を叩きつけるが、しっかりと咥えられてて放さない。引っかかって離れられないのかもしれない。
ならばと警棒で頭を乱打していく。その衝撃で腕に牙が食い込むが、早く倒さないと右の獣が攻撃を再開するはずだ。
鼻面や目の付近を集中的に殴って何とか撃破。ただその時にはすでに右の獣が飛びかかってきていた。尻もちをつかされた所に覆いかぶさるように噛みつこうとしてくる。その口は警棒を横にして咥えさせる事で凌ぐ。
この距離でもよだれが垂れたり、口臭に悩まされたりはなかった。生き物っぽさは感じない。
胸の上に置かれた前足の爪が服に食い込む。かなり痛いぞ。土を掘るみたいに引っ掻くな、服が破れるだろうが。
体ごと横にひねって脱出を試みる。爪が引っかかってシャツが破れたじゃないか。咥えられた警棒を放さないようにしっかりと握り込みつつ体勢を整える。膝立ちの状態でも何とか力は拮抗。中型犬サイズだが油断するとまた押し倒されそうだ。
口を抑えつつ前足を伸ばしてきたタイミングで左右に捻る。横倒しになった所を逆にマウントを取って、左腕で口を抑え込む。
「いだだってもう、盾ないじゃん!」
申し訳程度に残っていた段ボールは防具の意味をなしておらず、ほぼ直接的に噛みつかれる状態だった。そんな腕を口に押し込む事で顔の位置を固定して、横面を警棒で殴る、殴る、殴る。
殴る度に左腕の骨に響くが止めるわけにもいかず、叩き続けて何とか倒しきった。左腕にはくっきりと歯型がついて血が流れ落ちていた。




