ダンジョンの部屋
警棒を使った戦闘は思いの外スムーズに終わった。今まで長柄の鉄パイプで戦っていたが、片手で振り回せるというのは思っていた以上に使いやすい。鉄パイプだとどうしても引いてから打つという感覚だったが、警棒はその場から振っても力が入る感触だ。
おかげで連続で叩く間隔が早くなったと思う。その上で必要な打撃回数も減っている。単なる鉄パイプと武器としての警棒の差だな。
【棒術】スキルがいきているかは不明。棒術ってやっぱり身長くらいの棒を使うイメージだし、警棒は片手棍とかになりそうだ。
使っていて新たなスキルが生えればそうなんだろうし、生えないようなら棒術で兼ねられるとなるだろう。このダンジョンのスキルはあくまで補助的な雰囲気だしな。
「さて、じゃあ部屋を開けていきますか」
前回までの探索では通路部分しか回らなかった。部屋には不意打ちだとか、モンスターハウスとかネガティブなイメージがあったからだ。
動画を見たらそんな悪どい事はないと思うが、本当に悪どい部屋があったとしても、生還者がいなければ伝わらないしな。
生身の体を使っている以上、楽観的より悲観的な方が生存率は上がるだろう。
「お宅訪問、お邪魔します」
1番近場の扉を開けて中を見る。3Dダンジョンって扉を開ける=中へ入るだが、普通は扉を開けて中を確認するよな。扉は開き戸で奥へと開いた。
その部屋は六畳ほどの広さか、3m四方ってところで、外の通路よりは狭い。
ダンジョンは地下街をベースにしているので、ここもどこかで見たような雰囲気となっていた。会議などで使われる小部屋という感じで、長机とパイプ椅子が3脚あった。獣はいないようだ。
「ドアストッパー」
某秘密道具を取り出すロボットの様に言葉にしながらリュックから家電量販店で買ってきたドアに挟んで閉まらなくするストッパーを取り出した。
扉の下の隙間へと押し込んで固定。手を放しても閉まらない事を確認してから中へ入る。
「この辺はTRPGの基本だよな」
コンピューターRPGだと扉を閉めるとか、開けっ放しにするとかプレイヤーが選ぶことはないが、会話で進めるテーブルトークゲームでは、扉に仕掛けがある場合もある。
閉まったら開かなくなるというのは基本だな。
部屋へと踏み込み、まずは死角となっている扉の影を確認。何もいない。
次に長机、足が折り畳めるよく見るタイプだな。天板の下を覗くと、物が置ける台もある。が、何もない。
パイプ椅子はちゃんと畳んで平たくなった。錆などもなさそうで壊れていない。
床に埃も落ちておらず、掃除が行き届いているようだ。
「廃墟というより、突然人が消えた街って雰囲気だな」
臭いも特に感じない。化学薬品とか洗剤っぽい臭いもないな。壁も打ちっぱなしのコンクリートのといった感じで壁紙も貼られておらず、ひんやりとした印象を与えてくる。
「でも寒くはない……か」
10月下旬の外に比べると少し温かい気がする。20度前後だろうか。天井を見てもエアコンの吹き出し口みたいなのはないんだが、空調は万全だな。
「テレワークに最適かもしれん……通信できないけど」
いつ獣が出るかも分からないので居住性が最適でも仕事には向かないな。
部屋の中を一通り調べたが特にこれといった物もなく部屋を出た。
「よくよく考えたら【空間把握】で分かるのか」
スキルを取得した時、足元の石が“使える”という感覚があった。それを考えたら部屋の中に何かがあれば、【空間把握】のスキルに訴えるものがありそうだ。
このペースで探索していたら調べられる部屋はかなり少ない。スキル頼りでざっくりと調べてみよう。
スキルで調べ始めて3つ目の部屋。いるなと感じてすぐに構える。不意打ちはなかった。六畳の部屋の奥に獣がいた。
すぐに襲ってくる気配がないので、まずは扉にドアストッパーを噛ませて固定。両足が部屋に入った時、獣が動き始めた。
背後に扉はないが、何かがある気がする。これ以上は下がれないという壁というほどしっかりとしていないが重い空気の様な感触。
それを振り返って確認できないのがもどかしいが、獣から目を逸らすわけにはいかない。警棒を構えて迎え討つ。
狭い空間での戦闘。獣も飛びかかるのではなく、前足を振るって猫パンチか犬パンチな動きで攻撃してくる。それを警棒で払って、払って、最後に突く。
後ろ足で立つ形の獣は避けられずに胸を突かれてトトっと後方へ下がる。そこを前に出ながら更に突く。前足を払う、前蹴りを使う、噛みつこうとするので顔も払う。バランスを崩したところを回し蹴りで壁へと飛ばす。
追って踏もうとしたら避けられた。頭からの突進を腹に受ける。
「ぐふっ」
初めてまともな攻撃を受けた気がする。呼吸が詰まった。これが警棒の間合いのリスクか。そんな考えがフラッシュバックする中、獣の背中へと警棒を振り下ろす。2発、3発と叩いて外し、蹴飛ばして距離を稼ぐ。
腹を撫でて噛まれてない事に安堵する。獣の方はかなり弱っていそうだ。もう何撃かで倒せるだろう。痛みを無視して一気に畳み掛けて倒した。
戦闘が終わってどさっと座り込む。腹が痛い。雑誌を腹に入れるとか、腹巻をつけるとかしとくべきだったか。夜の病院でフラフラになった時でも、刺股の間合いなら怪我する気配はなかった。
室内という距離、警棒の間合いだと、相手の攻撃が届く危険がある。それを実感した。
「戦い方を勉強しないとな」
棒術の動画の様に、警棒の間合いの動画ってあるだろうか。護身術とか探してみよう。
それはさておき俺の【空間把握】はそこにある物を捉えていた。今までの机や椅子ではない石造りの棺桶の様な物。
「宝箱って感じじゃないんだよなぁ」
動画で見ていたので知ってはいたが、あまりワクワクする外観ではない。厚さ3cmほどの石板がフタとして置かれた箱。人が入るには狭そうな長さ1m、幅50cm、高さ50cmの大きさで、側面も石っぽい材質だ。
「人骨とか入っていそうなんだよなぁ」
そう思いながらも開けない選択肢はない。罠を調べるとかできないんだけど。動画では特に罠らしき物はなかったが、さてどうなのか。
俺は石板の隅を警棒で押してスライドさせる。思ったよりは抵抗が少ない。裏面はツルツルに加工されてるのかもしれないな。
石板がズレて棺の中が覗ける隙間が開く。そこに警棒を差し込み、中をぐるっとかき回すと何かに当たった感触があった。
警棒を止めてしばし待つ。いつでも下がれる様に構えたまま30秒ほどの静止。罠が発動する気配はない。
なので警棒の先端を棺の床へと押し当て、隙間を広げるように警棒の柄を動かしていく。この時、隙間に体が晒されないように位置を工夫する。
隙間から矢が飛んでくるとかもあるからな。毒針とかは最悪だ。
しかし何事も起きないままに石板はスライドしていき、一定以上開いたところで自ら滑り落ちて石棺が開いた。
少し待ってから棺の中を確認する。
中にあったのはこぶしほどの大きさの鉱物の塊が3つ。それと金槌だった。
破滅アプリの鑑定機能で鉱物が銅鉱石だと分かる。3つとも一緒だった。どれくらいの価値だろうか。最近は銅線が盗まれるとか言うけど、精錬前でキロも無さそうなサイズだと金銭価値は期待できない。
そして金槌を鑑定してみると……
名前:金槌
効果:不明
役立たずか、この鑑定機能!




