めんどうくさがりの本気
壁を何十枚か突き抜け吹き飛ばされる。
そのまま勢いが減速し壁に激突して止まった。
防御魔術が意味を為していない。
まずい、早く体制を立て直さないといけない。
『おいおい最近の奴らはこんなもんか?』
吹き飛ばされた跡の壁から一人の男が現れる。
赤髪で猛獣のような殺気。
暴虐のバルゴ。聞いたことはあるがこれ程の化け物とは思いもよらなかった。
『強えやつと戦いたいのによぉ、、これじゃ意味ねえぜ』
おかしい、さっきまで魔術を放たれ続けた者とは思えないぐらいピンピンしている。
さっき現れたと言われても疑問も抱かないぐらい無傷。
『はぁ、、まあいい、さっさと殺すか』
まずい、体が動かない。殺される。
さっき腹にもらったのがだめだったのだろう。
体が言うことを聞かない。聞いてくれない。
こんな時にさえ動けないのか、自分は。これでは前と同じでは無いか。
魔術師と戦士、、相性が悪すぎる。
いや、相性以前の問題である。そもそも奴が強すぎるのだ
血反吐を吐く。そろそろ限界が来る。
だが、、少しぐらいは皆が逃げる時間稼ぎをする。
それぐらいが自分にできる最後の役目。
生きていて欲しい人達への贈り物。
ミルラはやられてしまった。私を庇って。
なら、これぐらいはするべきであろう。
『身体強化、、極!』
『スキル発動、女神の癒し!』
持続回復効果のある光が自分を包む。
体が軽くなる。今ならなんでも出来そうな感じがするが目の前の化け物がそれを真っ向から自分を否定する。
血反吐をまた吐く。体に負荷をかけているせいだ。
だができる力を振り絞って目の前に近づく。
『お?少しは面白そうなことをするじゃねぇか』
『だが、、遅ぇな!』
近づいてきた所で奴が私の分身を貫いた。
分身が腹を抉られる。
『あ?』
『影分身』
私が10体に増え奴の周りを囲む。
これで奴は私がどれか分からないだろう。
『雷撃掌底』
雷を手に纏って勢いよく殴る。
これで少しは動きずらくなるはず、、!
、、おかしい、体が動かない。身体強化の反動か?、、、違う。これは。
『おいおい、、こんなので俺を倒せるとでも思ったか?』
理由は明確だった。奴が私の手を掴んでいたのだ。
10体いる中の本物を、正確に当てて。
痛い。痛すぎて手が折れる。
泣きたくなるがそこはこらえた。
『弱いやつがでしゃばんな』
腹にもう一回蹴りを入れられる。
『ごはっ!?』
きりもみしながら吹き飛ばされて壁に激突する。
痛い。全身が痛い。もう少しも動けない。体が言うことを聞かない。
頭が真っ白になる。もう魔術も練れない。
『ハハッ生命力だけはあるんだな?』
やつが目の前にいる。きずけなかった。
髪を引っ張られて持ち上げられる。
『いだっ、、』
『弱いやつは死ぬのがお似合いだぜ?』
拳が目の前にでてくる。このままじゃ死ぬ。
何も出来ない。魔術も練れない。
泣きそうになる。涙が溢れそうになる。
皆は、、無事に逃げられただろうか?生きているだろうか
?
できるならこのまま自分を殺してもう飽きてどこかに行かないだろうか。
彼は、、グロウは、逃げれているだろうか?
逃げていて欲しい、そのまま生きていて欲しい。
彼が死んでいる姿など想像もしたくない。
だが、そんな彼に助けて欲しいとは思わずにはいられなかった。これは、、わがままなのだろうか?
しかし無理だ。ここから自分の家まで40分ほどはかかるのだ。
でも、、願わくば、彼の顔をもう一度見たい、、
『あばよ雑魚!!』
目を瞑る。痛みに備えて。
、、、だがいつまで経っても痛みは来なかった。
変わりにすぐ近くで耳が壊れそうなほどの爆発音のようなものが聞こえた。
自分が地面に投げ出され、、そうな所で誰かに受け止められた。
一体何が来たのだろうか。新手の刺客だろうか?
恐る恐る目を開ける。
そこには逃げたと思っていたはずの彼、、グロウがいた。
その隣にはデカすぎる横穴が外まで続いている。
彼は一言も話さずただ自分を見つめていた。
その顔は今にも泣きそうだ。
なんで彼がここにいるのだろうか、逃げたのではなかったのか?
他のみんなはどうなっているのだろうか?
奴は、、バルゴはどうなったのだろうか?
そんなことを考えているとぎゅっと彼が抱き締めてくれた。彼の体は暖かくて心地よくて、、少し震えていた。
『よかった、、本当に、、』
そんな声がかすかに聞こえるものだから自分も出来るだけ抱きしめ返す。
彼はそんな自分に驚いて、、優しく頭を撫でてくれた。
嬉しい気持ちが自分の頭を埋め尽くす。我ながら単純である。
だがそんな時間も終わり、自分をそっと降ろしてくれる。
その時見えた顔は、、いつものめんどくさそうな顔でもなく、自信に満ちた顔をしていた。
『行ってくる』
どこに行くのだろうか、まさかバルゴがいる所だろうか。
そんなところ行って欲しくない。
行って欲しくない。死んで欲しくない。
このまま一緒に逃げたい。
でも、、彼が行きたいと言うのなら、、それを応援しないなんてそんなことはしない。
『うん』
彼にキスをする。できるだけ優しく。
彼は驚いて少し恥ずかしそうだった。
自分も恥ずかしい。顔が真っ赤になってそうだ。
『帰ってきてね』
彼は少し呆けたあと柔らかく笑ってくれた。
『わかった』
それが聞けただけで満足である。
立ち上がって戦いに行くその姿はすごく、すごくかっこよかった。
☆
外まで歩いてきた。
もうあいつを倒すことに妥協はしない。
めんどうなことを適当に排除するのはもうやめだ。
隠してた威圧も全開にする。
まだ吹っ飛ばした煙の跡があって見えずらいがもうどうせ起き上がっているだろう。
『来いよ』
そういった途端奴が煙の中から一直線に俺の方に向かってくる。
『ウオオオオオオアアアアアア!!』
奴が蹴りを喰らわせようとして自分も蹴りでそれを防ぐ。
足と足が交差する。
衝撃波が凄まじく木々がなぎ倒されているがもうどうでもいい。
『がっ!?』
奴の懐に回し蹴りを食らわせ吹き飛ばす。
だが大地を踏み締めて俺のところに一直線にまた飛んできた。
何千、何万と俺に拳や蹴りを喰らわせようとして来るがそれを俺は全部避ける。
『クソっなんで当たんねぇんだよ!!』
『狙いどころが悪いからじゃないか?』
『うるせぇ!!』
『うるせえのは』
懐に蹴りを入れ上に持ち上げる。
『お前だ』
そのまま回し蹴りを腹に打ち込んで山に激突する。
『ゴハァ!?』
もうさっさと殺したいために奥の手を使う。
名前がアレだしこんなとこで使いたくないのだがもう出し惜しみはしない。
『破滅』
剣の名を呼ぶ。
その途端俺の手元の空間がギシギシと嫌な音を立てて歪み始める。
まるでこの世界が現れるのを拒否するかのように。
こんなものは存在してはならないとでも言うように。
だがそんな世界の意思に反して1本の剣が顕現した。
剣の全身は赤黒く染っていて鍔の部分にはひとつの目玉が蠢いている。
刀身は酷く曲がっていて切れるのかすら怪しいほど。
名を破滅。司る属性は『死』と『運命』
最悪の剣が牙を剥く。
『死ね』
剣を山に向かって軽く振りかざす。
すると赤い本流が大蛇の如く流れて山を真っ二つに切った。なんの比喩もなく。
これでもうあいつも死んだだろう。
『ハッハッ!ほんとに山切るたぁおとぎ話だけだと思ってたが実物みたのは初めてだぜ!!』
チッ、、横に飛び上がって避けていたか。
『さっさと死ねよ』
『ハッ!やだね!!』
うるさい奴だ。
『死骸月』
何十もの紅い刃が空を舞う。
『おっとあっぶねぇなー!!』
、、全部躱したか。運の良い奴だ。
『お前がそうするなら俺にも考えがあるぜ!』
そう言うと奴は王城の壁に手をかけ、、おいあいつまさか王城そのものを引っこ抜くつもりか?
あの中にはまだレナが居るんだが?
そんな俺の考えなど知ってか知らずか半壊した王城を奴は半ば無理やりに引っこ抜いた。
『ハハハッ!!』
そう言って俺に王城を凄まじい速度で投げつけてきた。
☆
ふん、俺も強い奴は望んでいたがまさかこれほどとはな。
『やっと死んだか、、』
『面白かったが、ここで死んだらそれまでだ』
さーてと、そろそろ別のやつでも殺しに行くか。
ピンッ
『あ?なんの音だ?』
ピンッピンッピンッ
継続的に聞こえるこの音、、投げた王城からか?
おかしい、あいつはもう死んだはずだ。あれで重症ならまだしも、、まさか!
『おい、、さすがに冗談だろ、?』
『嘘だろ?あいつは死んだはずだろ!』
そういった途端に王城がバラバラと砂のように細かく崩れていった。
あまりにも呆気なく、音もしなかった。
『それは俺の事か?』
後ろから声がする。
後ろを振り返ると、、嘘かのように無傷のあいつがいた。
『ハハハッ!!まさかこれ程とはな!!』
『舐められてるな』
おかしい。先程より殺気が強い。強すぎる。
まるで死神にでも会ったみてぇな気分になる。
先程とは別人だ。
『さっさと終わらせるか』
その瞬間俺の視界が空を向く。
何が起こった?なぜ視界が空を、、そうか!吹き飛ばされたのか!
天より高くあいつがすっ飛んで俺の元へ急降下してくる。
『ガァッ!?』
大規模な土煙が巻き起こる。
あいつは剣を俺に突き立てようとして、、俺が手を掴んで止めている。
やべぇ、こいつの剣だけは触ったらやべぇと本能が最大級の警報を鳴らしてる!!
『アアアアアア!!』
『おっと』
あいつを引き剥がす。
その隙に全部位に蹴りや拳を振ろうとするが全部避けられる。
何をしても避けられる。まるで心でも読まれてるみたいに
、、!
なら技を使ってやる!!
『爆心豪流!!爆牙豪烈!!』
踏みしめた大地が割れ始め拳が灼熱になる。
『オオオオオオオオオアアアアアアア!!!』
音さえも置き去りにして最大速度の拳があいつに迫る。
だがあいつは、、それすらも遅そうにあくびしていた。
『よっ』
受け止められた衝撃波が大地を、森を襲う。
木々はなぎ倒され大地は割れまくっている。
、、は?、、俺の拳が、受け止められた、?
あんな、、ただ手を出したような受け止め方も知らなそうな奴に、、?
『ほい』
その俺の腹部に蹴りを入れられる。
なんだこいつの蹴り、!3000トンハンマーで殴られてる気分だ、、!!
音速を超えて山に俺の体が突っ込む。
『いっでぇぇぇぁぁぁ!!』
『そろそろ死んでくれよ』
あいつが俺の目の前にいつの間にか移動している。
あぁ、こんなに追い詰められたのはいつぶりだろう。
久しくなかった死という恐怖。
誰でもねじ伏せられるという自身の傲慢。
上には上がいる事実。
その感情が、事実が、、人生が面白いとバルゴが思う物だった。
スタミナが尽きない無尽蔵体質。
そして、、破壊の限りを尽くすスキル、ベルセルク。
暴虐と言われる所以。
こいつなら、俺を殺せるのだろうか?
それとも俺はこいつを越えられるのか?
試したい。こんな機会滅多にない。
バルゴが人生の中で、今が最も感情が昂っている時だった
『スキル発動!!ベルセルク!!』
紅いオーラが俺を包む。
額には角が生え、筋肉が膨れ上がる。
それは地獄の鬼を連想させた。
『ハハッ楽しもうや!!!』
『やだね』
最悪の戦いが始まった。