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第9話 〈威力増強〉



「本日は、魔法の授業です。ちなみに皆さん、前回の内容を覚えていますね?」


 お昼休みが終わった後の4限は魔法実技の授業だ。

 俺たち生徒は、沢山の的が並んでいる修練場に集まり、担当のマリナ先生の話を聞いていた。


 ……ちなみに、クロエはいない。

 この魔法実技の授業は神学との選択だからな。聖女であるクロエは神学を選択しているというわけだ。


「勿論、覚えてるっすよッ!」


 すると、赤髪の生徒がマリナ先生へ元気にそう言った。


 この荒々しい雰囲気にこの容姿……確か彼は……グレン。公爵家の次男にして、主人公の()()


「前回は、魔法をより魔力効率良く使う方法について学びましたァ!」


「ええ、正解です。魔力効率を良くすることは、魔力の消費量が激しくなってくる高位の魔法を使う上では必須の技術。前回の内容を思い出しながら頑張りましょう」


 マリナ先生は生徒皆に対してそう言うと、的に向かって魔法を打つことを指示してきた。

 どうやら、生徒の魔法をみて、個人個人でアドバイスをしていくようだ。


「では、誰か最初に挑戦したい方はいますか?」


「――よっしゃぁ! なら、俺が、最初にぶちかましてやるぜ」


 すると、グレンが勢いよく手を上げた。


 あれ? グレンが挑戦するということは――


「その次に、僕がやりたいです!」


 灰色の髪の男が、続くように手を上げた。

 ああ……やっぱりか。


 すると、グレンは興味深そうな声を出す。


「それなら勝負だ! どっちがマリナ先生からより高い点数を貰えるかでな! ()()()()!!!」


「望むところだよ、グレン……勝負しようか」


 灰色の髪の男……そう、彼はフェルト――『黎明の竜剣』における主人公。


 そして、俺と同じ()()()である可能性が高い人間。


「では、最初はグレンさん、その次にフェルトさんですね……! グレンさん、こちらに来て、一番得意な魔法を使ってください」


「うっす!」


 グレンは先生の隣に立つと、30mほど先にある的に向かって手を突き出し――


「〈炎雨(フレイムレイン)〉ッ!」


 そう詠唱する。


 次の瞬間、的の上空には何十本ものの大量の炎の矢が現れた。


 その矢たちは、的のある方へ向きを変えると――


「射出ッ!」


 全ての矢が的目掛けて飛んでいく。


 結局、1本たりとも的に外れることはなく、的は真っ黒に焦げた。


炎雨(フレイムレイン)〉は中級魔法であり、発動自体はそこまで難しくないが……1本も外さないのは流石として言いようがない。そんな芸当、中堅の魔法使いでも難しいんじゃないだろうか?

 流石は序盤では最強と言われていたグレンだ。


『――流石は公爵家の次男だな……』

『――かっこいいわ……! どうにかして、お付き合いできないかしら……』

『――未来は宮廷魔術師か……?』


 当然ながら、至る所で拍手や黄色い歓声が湧き起こった。


「じゃあ、次は僕だね」


 すると、グレンと入れ違うようにフェルトが前に出た。


「フェルト……しょぼい魔法はやめろよ?」


「言われなくとも」


 フェルトは同じように手を前に突き出すと――


「〈雷華ライトニング・ブルーム〉ッ!」


 刹那、彼の手から黄色い蕾が生まれた。

 例えや比喩ではなく、彼の手の先から、大人1人分くらいの直径の蕾が生まれたのだ。


「咲けッ!」


 次の瞬間、蕾は花開く。

 同時に花の中心から金色の閃光が走り、的に衝突。


 閃光が消えた時――的は跡形なく消え去っていた。


『――す、すげええええ!!!』

『――流石、()()()ね……!』

『――あれって、上級魔法じゃね……?!』


 ……え? 上級魔法……?


 あ、あれ……? 今ってゲーム開始からまだ1年だよな……? ある程度、主人公は成長しているとはいえ、この時期はいわば序盤の終わり頃。

 上級魔法をフェルトが使えるようになるのは、もう1年先なんじゃ……?


「ふっ……」


 困惑する俺の横を、フェルトは鼻を鳴らして通り去っていく。

 まるで、『どうだ』と言うように。


「どうだ、グレン……これは僕の勝ちじゃないか?」


 フェルトはグレンの元に向かうと自信ありげにそう言った。


「くっそ……フェルト、いつの間にかに上級魔法を……! 絶対にいつか抜かしてやるからな!」


 グレンは地団駄を踏んだ。


「で、では次にやりたい方いますか?」


 先生がそう呼びかけるも、誰も手を挙げる者はいなかった。


 そりゃあそうだ。あんなに凄い魔法でハードルが上がりに上がりまくっているのだから。

 皆が、誰かがやらないかと視線を巡らせる中――


「――俺がやります」


 俺は手をあげた。


 あんな目線をフェルトから向けられて、黙っているのは少し癪だったのだ。

 それに――ここで実力を見せつければ、クロエや俺に突っかかってくる奴への抑止力にもなるだろう。


「ヴェ、ヴェインさん……わかりました、では前に出てください」


 先生は、俺の自信ありげな態度に少し困惑した様子だった。


 そりゃあそうか、俺は今まで実力を隠して普通の中級魔法しか使ってこなかったからな。


 俺は前に出ると、両手を前に突き出す。

 折角なら、なるべく派手なのがいいな。

 もっと派手に、もっと綺麗な――


「支援魔法――〈威力増強(マギア・ブラスト)〉」


 俺の体に赤いオーラが纏われる。

 準備は完了。次は――


「〈絶氷絶剣(ゼロ・ブレイド)〉ッ!」


 刹那、空に一本の剣が現れた。

 ――空を覆うほど大きな氷の剣が。


 もはや、見上げても剣の柄なんて見えないほどだ。


 ゆっくりと剣先が的へ向くと――


「――落ちろ」


 次の瞬間、まるで、糸で吊るされていた物の糸が切られたかのように剣は落下する。


 轟音が学園中を襲う。

 冷気が爆風と共に押し寄せる。


 爆風がおさまった頃、皆が目を開けると――


「馬鹿な……!」


 的があった場所には巨大な氷の剣が刺さっており、剣は深々と地面を抉っていた。


絶氷絶剣(アイス・エイジ)〉は普通の上級氷魔法――本来であれば、こんなに大きな剣が生まれることはない。


 全ては俺が使った支援魔法の〈威力増強(マギア・ブラスト)〉のおかげだ。


 これによって魔法の威力が30%上昇。この効果に〈唯我独尊(オール・フォア・ミー)〉の効果5倍がつくので……。


 俺の〈絶氷絶剣(アイス・エイジ)〉の威力は150%上昇したってわけだ。


『――う、嘘だろ……』

『――ヴェインってあんなに強かったっけ……?』

『――いや……あいつは中級魔法がギリギリ使えるくらいのカスだったはずじゃ……』

『――というか、上級魔法でもあの威力はおかしくないか? 一体、何をしたんだ……ッ?!』


 クラス中がザワザワと騒ぎ始める。


 そりゃあそうだ、もはやこれの威力は上級魔法を超して超級魔法レベル。

 超級魔法は、上級よりも一段階高い魔法であり――これが使えれば、宮廷魔法使いになれると言われている。


「ふう……」


 俺は一瞬、フェルトに視線を向ける。


 彼は、呆然とこちらを見ていた。

 まるで、僕が負けるはずがない……といった様子で。


 まあ、お前には今まで散々苦渋を舐めさせられてきたからなぁ……。

 これくらい、許してくれよ。


 俺は元の位置へ戻るために歩いていくと――


「――お前ッ! ふざけんな」


 そんな怒号と共に俺の肩が掴まれた。


 振り向くとそこにいたのは――


 グレンだった。

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