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第7話 ヴェインさんに食べてもらうために深夜に1人で練習した甲斐がありました……!

 

 


「じゃあ、この問題を……ヴェイン! 応えてみろ」


 俺が授業を受けていると、先生が俺を指してきた。

 これでこの授業で指されるのは5回目だ。


 どうやら、この先生は伯爵家の3男であり、平民を見下している。

 そのため、平民をよく指して嫌がらせをするのだという。


 だから、貴族から平民になった俺が標的になっているというわけだ。


 俺は問題を再び確認する。


『この国――ヴァルニア王国が誕生した年は大陸歴120年と大陸歴122年であるという2つの説があるが、それはどうしてか』……という問題だ。


 かなりの応用問題。その道を専門とする者でなければ、答えられないだろう。


 しかし――俺には原作の知識があった。


 確か、『黎明の竜剣』の設定集には――

 

「今、ヴェルニア王国がある場所は元々は不毛な土地でした。しかし、大陸歴120年に初代聖女による奇跡の力によって肥沃な国土へと生まれ変わりました。そんな奇跡を引き起こした初代聖女を信仰する人々が集まり……それが自然とヴァルニア王国となった。そのため、大陸歴120年をヴァルニア王国が誕生した年と考えるのが通説です。――しかし、実は初代聖女の力では土地は肥沃になりましたが、凶悪なモンスターが多くてとても暮らせる状態ではありませんでした。人々がちゃんと暮らせるようになったのは大陸歴122年に現れた『星の巫女』によってモンスターの力が弱められたからだと考えられています。そのため、大陸歴122年をヴァルニア王国誕生の年と考える説が存在しています」


「なッ……?! こ、この問題を……コホン。座りたまえ」


 これで5回目の正解だ。


 こちとら『黎明の竜剣』をとことんやりこんだ廃ゲーマなんだわ。


 他の人には難しかろうが、応用であろうが、関係ない。


 ――キーンコーンカーンコーン


「きょ、今日の授業はこれにて終わりだ!」


 先生はそれだけ言うと、逃げるように教室から出ていった。


 どうやら、俺に全部正解されたのが、そこそこ堪えたらしい。


「ふぅ……」


 俺は黒板の内容を板書したノートをパタリと閉じる。

 あの先生には少し、嫌がらせをされたが……イルヤのように俺を揶揄ってくる人間は、3限が終わった今になっても、もう現れてなかった。


 クロエの影響が大きいんだろうな、感謝しないと……。


 さてと、次はお昼休憩か。


 俺は席を立ち上がると食堂へ向かう。


 前までは授業が終わるや否や、下級貴族や平民が近づいてきて面倒だったが......今となっては、嘘のように誰も俺に話しかけてこない。


 ――1人を除いて。


「――ヴェインさん! お昼一緒に食べませんか?」


「クロエ……」


 クロエはにこりと微笑しながら近づいてくる。


「いいのか? いつもは友達と食べてただろ?」


「いいんです! ……友達にはすでに、これからはヴェインさんとお昼を食べると言ってありますから!」


「じゃあ、一緒に食堂行くか」


「……? いえ、その必要はありませんよ? ……ほらっ!」


 クロエは鞄を後ろに持っていた二つの箱を俺に見せつける。


 これは……お弁当箱!?


「実は、ヴェインさんの分も作ってきたんですよ!」


 クロエはそう言いながら、片方のお弁当箱を俺に手渡してきた。


 今朝、なぜか起きたら姿がないと思っていたら......お弁当を作ってくれていたのか?!


「い、いいのか……?! これ、結構大変だったんじゃ……」


「いいんですよ! ……というか、ヴェインさんに食べてもらうために作ったんですから!」


「あ、ありがとう……!」


「いえいえ!」


 クロエは太陽のような満天の笑みを浮かべると――


「さっ、中庭にでも行って食べましょう?」


「お、おう!」


 俺はクロエに手を引かれ、中庭に行く。


 中庭には、友達同士や恋人同士でご飯を食べる者たちで溢れかえっていた。


 俺たちは誰も座っていないベンチに腰をかける。


「じゃあ、食べましょうか……!」


「そうだな」


 俺はクロエから貰ったお弁当を開けると、そこには卵焼きや唐揚げ、焼き魚などまさに日本のお弁当といったおかずが入っていた。


 何よりも驚いたのは、お弁当の中に白米が入っていることである。


 パンなどが主食であるこの世界において、白米……?!


「どうですか? なるべくヴェインさんの好きな物を詰めてみたのですが……」


 ごくりと俺は唾を飲み込む。

 クロエの言う通り……これら全ては俺の大好物だった。


「く、クロエ……!? このお弁当はどうやって、用意したんだ?」


 白米は当然ながら、唐揚げや卵焼きなんて料理はこの世界にはないはず。


 俺は侯爵令息の権力を使って遠方から稲に似た植物を取り寄せたり、レシピを教えてシェフに作らせたりしていたが……逆にそれくらいしないとこれらの物はこの世界では食べることができない。


「ふふっ……実はヴェインさんをストーカー……じゃなくて調べてみたんです。その結果、こういうものが好きだってわかったので、頑張って食材を手に入れて作ってみました……!」


「す、すげえ……クロエ、食べてもいいか?」


「勿論です!」


 俺は箸で唐揚げをつかむと、口に運ぶ。


 揚げたてのようなサクサクとした食感に、ジュワッと溢れる鶏肉の肉汁……ああ、美味え……!


「美味しい……クロエ、これ、めちゃくちゃ美味しい!」


「本当ですかっ?! 気合い入れて作ったので、そう言ってもらえて嬉しいです!」


 クロエは嬉しそうな表情をする。


 俺は次にご飯を口に運ぶと、……うん、これも美味しい! 流石に日本のお米には劣るが、全然美味しい!


「クロエって……こんなに料理得意だったんだな……」


「意外でした?」


「意外というか……聖女としての務めがあるのに凄いなあって思って」


 あれ……?

 でも、原作ではクロエが料理得意なんてこと、書かれてなかったはず……。

 それどころか、少し料理には疎いという設定があったような……?


 俺の記憶違いだろうか?


「……ヴェインさんに食べてもらうために深夜に1人で練習した甲斐がありました……!」


「……ん? 何か言ったか?」


「いえ、なんでもありませんよ!」


 クロエはニコニコとしながら、そう返事する。

 それならいいが……。


 俺は卵焼きも食べてみると……。


 おお……! 俺の好きなしょっぱい卵焼きだ!

 偶々だろうが、ここまで好物が入っているとテンションが上がる。


「クロエ……こんな美味しいお弁当作ってくれてありがとうな」


「いえいえ! 喜んでもらえたなら何よりです。……あんな宣言をさせてしまった罪滅ぼしになったのなれば良いのですが……」


 あんな宣言……?

 ああ、クラスメイトに対してクロエと俺に文句がある奴は俺に決闘してこいって言ったあれか……。


「いやいや! クロエが申し訳なく思う必要なんてないだろ……! あの宣言は俺のためでもあったわけだし……寧ろ、守ってくれてありがとうな」


「いえいえ……私は自分に出来ることをしただけですよ……でも、私がもっとちゃんとしていたら、ヴェインさんの手を煩わせる必要は生まれなかったでしょう?」


「……もしも、クロエがもっと完璧に俺を庇ったとしても俺はああ言ってたと思うぞ」


「え……?」


 思っていた返答とは違ったのか、クロエは驚愕で目を見開く。


「漢として……あそこで守られ続けるなんて、俺は嫌だった。守ってくれた人を――クロエをこれ以上、好き勝手言われるのは嫌だったんだ……つまり、クロエが何を言っていても俺はああしたと思う。だから、クロエが気に止む必要なんてどこにもないよ」


「そ、そうなんですか……」


 クロエが消えそうな声でそう言う。

 どうしたのかと思って、顔を覗くと……クロエの顔はりんごのように真っ赤に染まっていた。


 あれ……? 

 もしかして、俺――クッッッソ恥ずかしいセリフ言っちゃった……?!


 し、失敗したぁぁぁ……!!!


 俺は自分でも顔が熱くなっていくのを感じた。


 そして、しばらくの間、俺たちに沈黙が走る。


「――ヴェ、ヴェインさん……あ、あーんとかしてみたくありませんか?」


 その沈黙を破ったのは、クロエのそんな言葉だった。


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