第18話 お? あんちゃん……そいつに目をつけたのか?
「よし、じゃあ、剣を買いに行くか」
俺はパンケーキ屋さんを出ると、そう呟いた。
「ヴェインさんは……何か、行きつけの武器屋があるんですか?」
「いや――別にそういうのはないけど……」
俺は、大抵は使用人に武器の手配は任せてたからなぁ……。
「では、私にオススメの武器屋があるので、そこに行ってみてはどうでしょうか?」
「おお! じゃあ、そうしてみるか」
聖女であるクロエがオススメする武器屋であれば、品質も保証されてるだろうしな……。
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王都のメインストリートから逸れた、少し薄暗い道の先に、クロエの言う武器屋はあった。
どうやら、鍛冶屋と併設されているようで煙突からは黒煙が吹き出ていた。
「ごめんくださーい!」
クロエはそう言いながら、扉をノックすると――
「――あぁん……? 誰だァ?」
扉越しに、少し気だるげな男の声がきこえてきた。
「私です! 聖女のクロエです!」
「なんだとっ?! ――ちょっと待ってろ!」
すると、ドタバタと物音がし……扉は開いた。
「クロエの嬢ちゃん、久しぶりだなぁ! ……って、男?」
扉の先から現れた男は、眼帯を付けた赤髪赤目のイケおじだった。
彼は俺を見るや否や、表情を曇らせる。
「ヘレンさん! お久しぶりです!」
「おう! 久しぶりだなぁ……前に護身用の短剣と鎖と手錠を作ってやった時以来か?」
短剣……は、ともかく鎖や手錠?
え……? な、何に使うつもりだったの……?
「そうですね……! ……幸い、作って貰った物を使う機会はまだ来ていないんですけど」
「ははっ、武器なんて使う機会が来ないのが1番だからなぁ! ……それで、さっきから気になってたんだが……その男は誰だ?」
「っ……」
ヘレンさんの鋭い目線が俺に襲いかかる。
まるで、何かを見極められているような……そんな雰囲気だった。
「……チッ、お前……幾つだ? その筋肉の付き方に、魔力量……何よりも、イカれた程のオーラ……どんな人生送ってきたらそうなんだよ」
「へ? オーラ?」
「ああ……これでも長いこと鍛冶師してるだけあってな、相手がどんな奴なのか、どれだけ強いのか、なんてことはオーラでなんとなくわかるんだよ」
「ふふっ、ヘレンさんにも気に入ってもらえたのなら良かったです……なんと言ったって、今日はヴェインさんの――彼の武器を作って貰うために来たのですから!」
「ほう……! ヴェイン……じゃあ、こいつがあれか! 前に嬢ちゃんが言ってた救世主様か!」
「ッ〜〜〜?!」
クロエは、顔をリンゴのように真っ赤に染めた。
きゅ、救世主様……?!
俺、クロエにそう言われてたの……?
「と、とにかく! ヴェインさんの剣をお願いします!」
「はいよはいよ……じゃあ、店に入ってくれや」
俺は、ヘイルさんに手招きされるままに武器屋に入る。
すると、中には剣や槍、盾などの様々な武器が置いてあった。
「これは……」
俺は、ふと目に付いた1本のロングソードに近づく。
これは火竜の牙剣……A級武器であり、レアドロップ品からしか作れないレア武器である。
俺は他の武器にも視線を向けてみると、どれもA級武器やB級武器ばかりだった。
流石はクロエ御用達のお店……レア武器がポンポン置いてあるなんて……。
「おお、火竜の牙剣に目を付けたか。良い目をしてるなぁ」
「ミスリルインゴットに火竜の牙……そして少量の火袋を練り込んで作ったロングソードですよね」
確か攻撃に火属性が付与される、という特殊効果があったはず。
「お、おお! ……鍛冶師でもないのに、よくそんなの知ってるなぁ……」
「え? ま、まあ……」
俺は目を逸らした。
やっべ、ついゲーム知識をひけらかしてしまった。
ええっと……値段は……
5000万ゴル?!
1ゴルがほぼ1円と同じ価値だから、実質5000万円だ。
モンスターを狩ったりして蓄えたお金があるため、払えないことは無いが……流石に躊躇われる。
それに、攻撃に火属性を付与するのは、支援魔法で出来ちゃうからな……。
「他には……」
俺は他の武器に視線を移す。どれも悪くは無いのだが、逆にこれといった特徴がない。
「うーん……ん?」
すると、1本の剣が目に付いた。
なぜなら、その剣は煌びやかな装飾が施された他の剣と違って一切の装飾がされてなかったからだ。
少し焦げた跡がある木の柄に、濁った色をした剣身。
恐らく、 相当昔に製造され、使い古されてきたのだろう。
俺は剣を手に取ってみると、まじまじと見つめた。
「――お? あんちゃん……そいつに目をつけたのか?」
「まあ……随分とシンプルな作りの剣だなぁって思いまして」
「そいつは昔、変な旅人が売り払ったヘンテコな剣だからな……気に入ったんなら、タダでやろうか?」
「いや、流石にそれは遠慮しておきますよ」
流石に、呪いの剣のようなこの剣を近くに置いておきたくはない。
縁起悪いしな。
俺は剣を元の場所に戻そうとすると――
――ドクン
心臓が突然、高鳴った。
刹那、剣から魔力が流れてきた。
「な、なんだこれ……」
俺は急いで剣を手放そうとしたが……どうしてか、俺の手は剣を離してはくれなかった。
剣から流れ込んできた魔力は、腕を伝っていき……心臓に到達した。
次の瞬間、心臓を針で刺されたような鋭い痛みが俺を襲った。
「ぐっ……ぁ……」
「――ヴェ、ヴェインさん!? 大丈夫ですか?! もしかしてこの剣……呪いの剣……? なら……〈浄化〉!」
クロエは剣に向かって一回。俺に向かってもう一回〈浄化〉を使う。
しかし、浄化が効いている様子はなく、剣は一向に手から離れない。
「ぐ……あああッ!」
すると、心臓を襲う痛みが瞬間的に増した。
その後、魔力が剣から流れてこなくなった。
同時に、痛みもおさまった。
「なんだったんだ……?」
このまま、呪い殺されるかと思ったのだが……。
「ヴェインさん! 剣の様子が……!」
「え……?」
俺は自分の持っている剣に視線を向けると――
「なんだ……これ」
そこには、さっきとはまるで様子の違う剣があった。
赤を基調とした煌びやかな装飾が施された柄、うっすらと赤みがかっている剣身……何より、ただものではない雰囲気を纏っているところだ。
まるで、魔剣のように見える。
……ん? 魔剣?
「……こ、こここれって魔剣……じゃね?」
魔剣……それは、様々な強大な力を秘めている強力な剣だ。
恐らく、モノによってはその性能は聖剣にもは匹敵……いや、凌駕するかもしれない。
俺はこの剣に見覚えがあった。
これは確か、ラスボス討伐後にしか手に入らない魔剣――
「魔剣ガリア……」
「魔剣……ガリア? こ、この剣、魔剣だったんか……?!」
ヘイルさんは目を見開いて、魔剣をまじまじと見つめる。
「待ってください……魔剣ガリアって……神話で出てくる呪いの武器ですよね……?」
「ああ」
魔剣ガリア……設定集には、かつて魔神が生きていた時に魔神が愛用していた剣、と書かれていたはず。
使用者を選び、剣が気に入る者が現れるまで普通の剣に擬態する。
そんなことも書かれていた。
俺は……この魔剣に気に入られたのか……?




