第17話 パンケーキ
「んん……」
俺は寝ぼけ眼を擦りながら起き上がる。
昨日は大変な目にあったなぁ……危うくクロエと関係を持ってしまうところだった……。
すると、俺は何か変な音がすることに気づいた。
――ジュゥゥゥ
「何この音……?」
まるで、何かが焼けているような……そんな音だ。
まさか!? 火事?!
そう思って急いでキッチンに向かうと――
「――不味いッ……って、クロエ?」
「ヴェインさん! おはようございます!」
料理をしながら、にこやかにおはようと告げてくるクロエの姿があった。
「クロエ……? もしかして、朝ごはん作ってくれてるのか?」
「はい! ……後ちょっとで出来るので、もう少し待っててくださいね」
晩御飯に続き、朝ごはんも作ってくれるなんて……。
流石にクロエに負担じゃないか、気になってくる。
俺が「手伝おうか?」と訊いてみたら――
「大丈夫です! ヴェインさんは食べてくれるだけで嬉しいので! ……それに、ヴェインさんって料理、できるんですか?」
と返されてしまった。
うっ……どうして俺が料理できないことを……。
クロエには敵わないなぁ……。
――――――――――――――
「ヴェインさんとデート……嬉しいです!」
隣を歩くクロエが喜びの言葉を漏らした。
ここは、王都のメインストリート。
様々な商店やレストラン、カフェが立ち並んでいた。
「で、デート……」
「違いましたかっ?」
すると、クロエは俺の腕に抱きついてきた。
そんなに抱きつかれると……色々当たっているというか……!
「ちょ、ちょっと?! ……あ、あの、色々不味いというか」
「なんのことですか?」
「……あ、あの……当たっているというか……」
「当ててるんですよ?」
「っ――?!」
小悪魔的な笑いを浮かべるクロエ。
――こ、こんなの反則だろっ!!!
メインヒロインなだけあってクロエは超絶超絶美少女だ。
一瞬、惚れかけてしまった。
「さっ、早く行きましょう? 近くに私が建てさせた――じゃなくて、最近、出来たパンケーキ屋さんがあるんです!」
「お、おう」
俺はクロエに手を引かれながらそのパンケーキ屋に向かうのであった。
――――――――――――
「それで、ヴェインさんは何にしますか?」
パンケーキ屋で、俺とクロエはメニューを見ていた。
「えっと……何があるんだ?」
メニュー表はなぜか1つしか無いため、クロエが持っていると俺は見れないのだが……。
「あっ……失礼しました! じゃあ……こうしましょうか」
クロエはメニュー表を俺たちの間に横向きに置く。
ま、待て……これって俺とクロエが同時にメニューを見るのか?!
「え……ちょっと待って、これって――」
「――このチョコレートとバナナのパンケーキなんて美味しそうですね! ……あっ、こっちも! ヴェインさんはどう思いますか?」
「っ……」
俺は仕方なく顔をメニュー表に近づける。
――や、ヤバい……クロエのまつ毛長っ! 髪の毛も絹みたいにつやつやしてるし……。
それになんと言っても素晴らしいのはクロエの顔だ。
超絶美少女なクロエだが、近くで見るとこんなにも綺麗な顔を――
「――ヴェインさん?」
「は、はい! なんでしょうか?!」
ついうっかり、クロエの顔に見惚れてしまっていた。
……メインヒロイン、恐るべし。
「私はこのイチゴとバニラアイスのパンケーキにしようと思うんですけど、ヴェインさんはどうします?」
「じゃ、じゃあ……このチョコレートとバナナのパンケーキにしようかな」
「これですね! ……店員さーん!」
しばらくすると、店員さんがやってきた。
クロエは淡々と注文をしていく。
……あれ? こういうのって普通、男側がするものじゃないの?
俺、エスコートするどころか、エスコートされてないか?
「く、クロエ……注文ありがとう。でも、次からこういうのは俺に任せてくれてもいいだよ?」
「え? ……いえ、大丈夫ですよ。だって今日は私から誘ったんじゃないですか。……それに私はヴェインさんの可愛い表情が見れただけで満足してますから」
そう言って蠱惑的に微笑むクロエ。
ば、バレてたぁぁぁ……。
「――そ、それよりも最近、クロエはどうなんだ? 俺に時間を使ってくれてるみたいだけど……聖女の務めとかは大丈夫なのか?」
「ええ、休暇を貰ってますからね?」
「休暇?」
「はい! ……聖女は世界に1人しかいないので、教会はすんなり受諾してくれました!」
「そ、そっか……」
「……それに私が教会に居たとしても、広告塔に使われるか、話すことのない会議に参加するだけですからね。大した支障はありません」
そう言うクロエの顔からは、何か闇のようなものを感じられた。
すると、パンケーキを持った店員がパンケーキを持って、こちらに近づいてきた。
「いちごとバニラアイスのパンケーキと、チョコレートとバナナのパンケーキになります」
「はい、ありがとうございます……さあ、ヴェインさん、食べましょうか」
「そう……だな」
うん、忘れよう。
クロエにだって色々あるのだ。
今は目の前のパンケーキとクロエとのデートを楽しもう。
「――んっ、このパンケーキふわふわで美味しいですね! いちごの甘酸っぱさがいい感じにマッチしていますし!」
俺もパンケーキを口に運ぶと――
「うん! 本当に美味しいなぁ、このパンケーキ!」
なんというか、日本のパンケーキ屋さんに匹敵するクオリティだった。本当に美味しい。
まさか、無法地帯とも言われたラティウスにこんな美味しいパンケーキ屋ができるなんて……!
すると、俺はクロエが俺のパンケーキに視線を向けていることに気づく。
……もしかして、クロエはこのパンケーキが食べてみたいのか?
「食べるか? 俺のやつ」
「え!?」
あっ、不味い。衝動的にそう言ってしまった。
ちょっとキモかったか……?
「いいんですか?! じゃあ……あーんしてください」
そう言って顔をこちらに近づけるクロエ。
……ん? これって俺が食べさせろってこと?!
「あ、あーん……」
俺はナイフでパンケーキを切ると、チョコとバナナを一緒にフォークで刺し、クロエの口に近づける。
「うんっ! 美味しいです! やっぱり甘酸っぱいものを食べた後に甘いものを食べると一層美味しく感じますね! ……それとも、ヴェインさんが食べさせてくれたからでしょうか?」
「っ……?!」
な、何これ……新手の羞恥プレイ?!
ああもう……何これ、本当に。
「じゃあ、ヴェインさんもあーん」
「へ?」
クロエは自分のパンケーキを一口サイズに切り分け、イチゴとバニラアイスを付け、フォークに刺すと、こちらに近づけてきた。
「い、いやいや! 俺はいいよ!」
「でも……ちゃんとお返ししなきゃ申し訳ないですよ……ですから、貰ってください!」
微笑みながら、さらにフォークを近づけてくるクロエ。
ああもう! 後はどうにでもなれ!
俺はヤケクソでクロエがあーんしてきたパンケーキを食べた。
「美味しい……!」
「ふふっ、なら良かったです!」
しかし、どうしてか、俺にはチョコレートとバナナのパンケーキよりも遥かに甘く感じた。




