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第16話 もしも、『嫌い』なんて言われたら……鎖で監禁するところでした




「お背中を……流しにきました……!」


 そこには、一糸纏わぬ姿のクロエが。


 くびれた細い腰、白磁のようにきめ細やかで綺麗な肌に、豊満な果実……その体は、まるで芸術品のようだ。


「く、クロエ?! ど、どどどどうして?!」


 すると、クロエは仄かに顔を赤く染め――


「言ったじゃないですか……お風呂も任せてくださいって……」


 恥ずかしそうにそう言った。


 い、いや……言ってたけど……!


「それに、私はヴェインさんの監視役です! ……お風呂の間も監視する義務がありますので!」


 監視役……なんて都合のいい言葉なんだ……!


「ッ……! で、でも、タオルくらいは巻いてくれないか? 流石に……色々困るというか……」


「ヴェインさんは……私の体、嫌いなのですか?」


「い、いや、それはない! 好きだ、凄い……良い!」


「良かった……ヴェインさんは、私の体は好きなんですね?」


「……なんか、それ、語弊が生まれないか……?」


 なんであれ、流石に心臓に悪すぎる……!


 俺は、クロエから目を逸らし、俯いた。


「とにかく、色々不味いっ! 俺だって男なんだぞ……?」


「……襲いたく、なっちゃいましたか?」


 すると、クロエが背後から小悪魔的な声で囁いてきた。


「く、クロエ……? 揶揄うのはそれくらいにしてくれ……! 頼むから……」


「ふふっ、ごめんなさい。ヴェインの可愛い反応を見たら、少しいじめたくなっちゃいましたっ」


 か、可愛い反応って……くっ……。


 でも、わかってくれたようで良かった。


「ですから、このまま背中を流すのはやめますね?」


「へ? どういうこと――ッ?!」


 すると、俺の視界は真っ黒に染まった。


 これってもしかして……目隠しされてる?


「こうすれば、大丈夫でしょう?」


「大丈夫……かもだけど、これはこれで不味くない……?! 間違いが起こる可能性だってあるんだけど……!」


「私は、間違いが起こっても大丈夫ですよ?」


 クロエはくすりと笑いながら、耳元で囁く。


 ――むにゅり


 次の瞬間、そんな柔らかな感触が、背中に感じられた。


「く、クロエ……ッ?! その……あの……色々当たっているというか……」


「ん……? 当ててるんですよ?」


「ッ?!」


 あ……やばい、理性が……。

 耐えろ、俺。耐えるんだ、ヴェイン!!!


 ここで負けたら、俺は性欲に負けたクソ野郎だぞ!!!


 しかし、俺の頭の中に悪魔の声が響く。


『こんなに誘ってもらってるんだから、乗るのが漢じゃないのか?』


 確かに……ってダメだ! 


 そういうのは、ちゃんと付き合ってからで……!


「じゃあ、洗っていきますね?」


 クロエは柔らかいタオルに石鹸をつけ、泡立てると俺の背中を優しく擦っていく。


「どうですか……? 痛くないですか?」


「大丈夫……というか、めっちゃ気持ちいい」


「それなら、良かったです……!」 


 あれ……これって、前は洗わないよね?


 というか……お風呂は一緒に入らない……よね?!


 俺がそう思っていると――


「では、前もやっていきますね?」


「へ? ……いやいやいや! 前はダメでしょ、というか絶対にダメだから!」


 俺は急いでクロエから後ずさる。


 流石にもうそろ限界だ。

 お風呂は後でクロエが寝ついた後で入ればいい!

 俺は、この場から逃げ出そうと立ち上がるが――


「〈聖鎖(セイントチェーン)〉」


 刹那、光の鎖が俺の四肢を地面に縛りつけた。


 俺は仰向けの状態で、浴室の床に拘束されてしまった。


「――逃しませんよ?」


 柔らかい何かが、俺の上に乗った。


 クロエだ。

 今、俺はクロエに……馬乗りされている。


「ちょ、ちょっと待った! クロエ、正気に戻ってくれ! 付き合ってもないのに、こんなのは――」


「ふふっ、何を想像してるんですか? 私は、ヴェインさんの体を洗おうとしてるだけですよ? ……それなのに、ヴェインさんが逃げ出そうとしたので拘束させてもらいましたっ!」


 拘束させてもらいましたっ! じゃないよ!


 急いで逃げ出さないと……そう思って、俺は腕に力を込めて鎖を引きちぎろうとするが――


「あ、あれ……?」


 どれだけ力を加えても、鎖が千切れる気配はなかった。


 そういえば、あのオルニクスでさえ拘束した魔法なんだっけこれ……?


「く、クロエ?! 話せばわかるから――」


「誘惑に応じないヴェインさんが悪いんですからね?」


「ちょっ……あああああァァァ!!!」


 後日、男子寮から野太い悲鳴が上がった、という噂が男子の中で広まったらしい。



 ――――――――――――


「ひ、酷い目にあった……」


 俺は、息を切らしながら地面に倒れ込む。


 目隠しをしていて良かった……あれが無かったら、確実にクロエのことを襲っていた。


 もしも、クロエが本気で俺の理性を破壊しようとしていたら……考えるだけで恐ろしい。

 クロエも、流石にそういうことは恋人になってからしたい、という感情があったのだろう。


 すると、後ろから足音が聞こえてきた。


「まさか、ヴェインさんには、色仕掛けも通じないなんて……」


 振り返ると、そこには、薄い生地で黒色のパジャマに身を包んだクロエがいた。


 か、可愛い……。

 って、そうじゃなくて……!


「やっぱり、色仕掛けだったのか!?」


「むぅ……仕方がないではないですか……一緒の部屋にいるのに、ヴェインさんが全然私になびいてくれそうに無かったので……」


 クロエは、頬を膨らませる。


「そう言われてもな……そういうのは、ちゃんとお互いが好きな恋人同士がすることだろ?」


「……ヴェインさんは、私のことが好きではないのですか?」


 そう訊いてくるクロエの表情は、とても不安そうだった。


「……ごめん、わからないとしか言えない……俺自身、『好き』が何なのかよくわかってないし……そもそもクロエと過ごした時間が短すぎて……」


「っ……!」


「――でも、これだけは言える。俺にとってクロエは――この世の誰よりも大切だ」


「ッ……?!」


 クロエは、驚愕で目を見開いていた。


 これは、間違いない。


 この世界の両親は俺のことなんて一切愛してくれなかった。

 勿論、優しくしてくれた人はいるけど……クロエのように自分の身を投げ打ってでも俺に無償の愛をくれた人は……誰もいなかったのだ。


 クロエは……そんな俺の心を埋めてくれた。


「だから、今はまだ好きかわからないけど……いずれ、自信を持って好きって言えるようになると思う……クロエ、それまで待ってくれるか?」


「勿論ですっ!」


 するとクロエは、ぱあっと顔を明るくさせると、俺の胸に飛び込んできた。


「ヴェインさんからのプロポーズ、待ってますからね……!」


 告白じゃなくて、プロポーズなんだね……。

 俺は苦笑いしながら、クロエを抱きしめ返すのであった。


 だから――


「……もしも、『嫌い』なんて言われたら……鎖で監禁するところでした……」


 そんな小声が聞こえたのは、気のせいだと思う。

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