第14話 そんなにおっぱいに顔をうずめられると、ちょっとくすぐったいです……!
「見事な連携ッ! 天晴れだッ! だが……これで、勝ったと思うな?」
すると、頭だけになったオルニクスが――喋り出した。
「ッ?! ま、まだ生きてるのか……?!」
俺はクロエを庇うように前に立ち、聖剣を再び構える。
すると、オルニクスは再び笑い出した。
「ふっはっは! そんなに警戒するな……オレに既に抵抗する力は残っていない」
確かに、この頭だけの状態から何か出来るようには思えないな……。
「なんだよ、驚かせるなよ……でも、なんで生きてるんだよ」
「ふっ……折角なら、最後にお前らへ質問させてやろうと思ったまでだ……それが、勝者の権利であろう?」
なるほど……?
確かに、疑問に思っていることは山ほどある。
質問させてくれるのは純粋にありがたいな。
「じゃあ、さっきの質問だ……どうしてお前はここ居るんだ? 死んだはずだろ?」
「なんだ、その質問か……そんなの、決まっているだろう? ……オレは生き返ったのだよ……理神様の慈悲によってな」
理神……?
この『黎明の竜剣』の世界には、3体の神々がいる。
まずは、全国各地で信仰されており、魔法やスキルなど様々ものを司る神――主神。
ちなみに、クロエが所属している教会が信仰しているのも、これだ。
次に、『黎明の竜剣』において、ラスボスであり、主神と対になる存在……邪神。
最後に、こいつが言っている理神だ。
理神は、物理法則や世界のルールを司る神。
『黎明の竜剣』内では、殆ど触れられて来なかった神でもある。
その理神は、何が目的でオルニクスを蘇らせたのだろうか?
「理神様は、1つの使命と共に、オレに仮初の命を与えてくれた」
「条件……?」
「ああ……シナリオ通りに世界を進めろ、邪魔になる存在は消せ、というな」
「ッ?!」
シナリオ……?!
つまり、オルニクスや理神はこの世界が『黎明の竜剣』の世界だと知っているのか……?!
じゃ、じゃあ……もしかして――
「俺が色々な手段を使っても破滅エンドを回避出来なかったり、原作をあまり知らないはずのフェルトが原作と同じ行動を取ったのは……お前らの仕業なのか?」
「ああ、そうだとも。理神様はこの世界をシナリオ通りに進めるために、お前らの思考を操作したり、人々の動きをコントロールしたりしていた」
「ッ?!」
そこで俺は一つの事実に気づいた。
俺が今まで、シナリオに異様な程に執着していたのは……理神の影響を受けていたからじゃないのか……?!
「ふっ……気づいたか」
「な、なら! お前が俺たちを襲ってきたのはどうしてだ? 同じように理神の力で操ってくればいいじゃないか」
「強い意志を持つ者や忌まわしき主神の手の者は、理神様の影響を受けづらいのだ。……そのせいで、最近の貴様や、そこに転がっている勇者の変な愛情……特に狂った程の愛を持っている聖女に関しては一切コントロールできない」
「ふぇ?! く、狂ったほどなんて……そんな……」
クロエは、褒められたと思ったのか、頬を赤く染める。
いや……これ、ただの嫌味だと思うぞ。
でも、これで少し謎が解けた。
俺は今まで理神による影響でシナリオに異様な程に執着していた。でも、理神の影響を受けないクロエのお陰で俺は目を覚ますことができたのだ。
……こう思うと、クロエには助けられてばかりだなぁ……。
「でも、理神はどうしてそこまで、シナリオを守ろうとするんだ? シナリオ通りじゃなくたって勇者が邪神を倒すことは可能だろ?」
「それはオレでもわからん。……もしかしたら、シナリオを守らなかった場合、何かとんでもないことが起こるのかもしれないな」
「とんでもないこと……」
うーん、検討がつかないな。
「さてと、少し口が滑りすぎたか……」
そう呟くオルニクスの方へ視線を向けると、徐々に体が光の粉になって消えていっていた。
「死ぬのか……」
「なぁに、元々居た場所に戻るだけだ……なんの問題もない」
オルニクスの頭が半分以上、光の粉になっていった時――
「死ぬべきはずの悪役貴族よ……精々、運命に抗ってみせろ。地獄でお前の話を楽しみにして待っているぞ」
最期にそう告げて、完全に消え去った。
……いや、俺も地獄に行くこと確定なのかよ!
「あ……れ?」
すると突然、全身の力が抜け、俺は膝から地面に崩れ落ちる。
〈極限強化〉のタイムリミットが来たのだ。
「ヴェ、ヴェインさん? 大丈夫ですかっ?!」
微睡む意識の中、クロエの心配する声が心地よく脳に響き渡った。
――――――――――――
「ヴェ、ヴェインさん……!!!」
私は、急いで突然倒れたヴェインさんの胸に耳を当てると……心臓はちゃんと動いていた。
「寝てるだけ?」
……そういえば、ヴェインさんが使っていた魔法は、一定時間が過ぎると意識を失ってしまうっていう効果だったっけ……?
「もう……無理をするんですから」
私は、ヴェインさんの頭を自分の膝の上に乗せる。
そして、右手で彼の髪をゆっくり撫でていき――
「……」
私は、ゆっくりと彼の頬に唇を落とした。
――――――――――――
「……ん、んん……」
意識が徐々にはっきりしていく中、俺は後頭部に柔らかい感触を感じていた。
なんだこの感触……凄く柔らかくて、暖かくて……。
ずーっとここで眠っていたい。
「……さん? ……ですか?」
「ん……」
すると、真上から女性の声のようなものが断片的に聞こえてきた。
あれ……? この声、聞き覚えがあるような……。
っていうか、真上……?
真上ッ?!
俺の意識は急速にはっきりしていく。
「どっ、どうなって……ッ!?」
俺は勢いよく飛び起きると、何か柔らかいものに顔が当たった。
「きゃっ……」
何……これ、暖かくて柔らかくていい匂いがして……。
「あ、あの……ヴェインさん? そんなにおっぱいに顔をうずめられると、ちょっとくすぐったいです……!」
「……へ? おっぱい……ッ?!」
へ? え? あ、あれ?