第12話 竜人族
俺が後ろを振り返ると、すぐ近くまで灼熱の熱線が迫ってきていた。
俺は咄嗟に横に飛び退き、攻撃を避ける。
な、なんなんだ……?!
誰なんだ一体……!
俺は攻撃が飛んできた方向を注目する。
「なんだ……こいつ」
そこにいたのは人だった。
しかし、全身が金属で作られたフルプレートアーマーで覆われていたのだ。
「誰なんだ……?」
『黎明の竜剣』にこんなフルプレートアーマー野郎はいなかったはず……。
その時、さっきこいつが言っていた『運命崩壊を検知』という言葉が脳裏をよぎる。
タブー……なんのことかはよくわからない。
しかし、一つの仮説が思い浮かんだ。
――もしかして、こいつがシナリオ通りになるようにフェルトを操っていた存在……?
『対象者の脳内から大量の運命崩壊ワードを検知。直ちに処分を開始してください』
「は、は?!」
化け物は、困惑する俺なんて気にせずに両手をこちらに突き出すと、またしても灼熱の熱線を放ってくる。
「っぶねえな……!」
今回は不意打ちではなかったため、簡単に避けることができた。
本当になんなんだよ、こいつ……!
しかし、いつまでも困惑してはいられない。
俺は持っていた剣を鞘から抜き、構えると――
「〈疾風迅雷〉〈膂力増強〉」
速度を30%バフする〈疾風迅雷〉に加え、物理攻撃力を30%バフする〈膂力増強〉も重ねがけする。
これによって、俺は速度と膂力が2.5倍になった。
『対象者の抵抗を確認、警戒レベル上昇』
化け物は弾幕のように次々と熱線を放ってくる。
俺ならば避けることも可能だが、下手すれば後ろにいるフェルトに当たってしまうかもしれない。
俺は剣で迫りくる熱線を切り裂きながら、突き進んでいく。
狙うはこいつの兜だ。
あれをひっぺがして、正体を明らかにしてやる。
俺は雷のような速度で奴に肉薄すると――
「さあ、お前は誰だッ!」
兜めがけてスイカ割りのように、正面から剣を振り下ろした。
ピキリ、という音と共に、兜は真っ二つに割れた。
そこから現れたのは――
「ふむ……少しはやるようだな」
白髪の男性だった。
しかし、ただの男性ではない。
頭から生える2本の赤い角。
竜のように鋭い赤い瞳。
そう、こいつは――人間じゃない。
「竜人族……?」
「ほう……それも知っていたか」
しかし、俺が竜人族について知っていることは少ない。
原作では、ほとんど彼らについて、触れないからである。
確か、竜人族はこの国の2つ隣のラルキア連合国の山岳地帯で生きる種族であった。
彼らは外界との接触を避ける閉鎖的な種族であるため、街中で見かけるのですら、珍しい。
そんな竜人族が俺を襲撃?
「急に襲ってきて、なんの用だ……?」
「ふんっ、訊かれて易々と言うと本当に思ってるのか?」
「言う気は無いんだな? ……じゃあ」
俺は再び剣をかまえ、体勢を低くすると――
「――ボッコボコにしてから、訊くしかねえな!」
俺は彼に一気に肉薄した。
狙うは相手の角だ。
あれを叩き折れば、竜人族は一時的に気絶するのだ。
俺は角めがけて、一閃した。
しかし、それは軽々と彼の剣で受け止められてしまった。
「甘いぞ、人間風情が」
次の瞬間、俺の腹に鈍い痛みが走った。
膝蹴りされたのだ。
「ぐっ……」
〈膂力増強〉で強化した攻撃をあんなに軽々と受け止めた……?
一体、どんな馬鹿力してるんだよ、こいつ……。
すると、俺と彼の距離が開いたからか、彼は何かを詠唱し始める。
「龍の権能、其ノ壱――〈煉獄灼火〉」
彼の手からは、半径3m程の巨大な火の玉が放たれた。
龍の権能?
……そういえば、竜人族だけの特殊能力として、そんなのがあったな……。
俺は一瞬だけ、後ろを一瞥する。
良かった、フェルトはちゃんと逃げたようだ。
これでアイツを気にする必要は無くなった。
「〈威力増強〉、〈氷華〉」
次の瞬間、俺の目の前には大きな氷の蕾が生まれた。
これは、さっきフェルトが使った魔法の氷魔法バージョン。
しかし、〈威力増強〉で強化されてるだけあって、大きさも、威力もあれとは段違いである。
「咲け」
刹那、氷の光線が炎の玉と衝突した。
吹き出る爆風は俺たちを襲う。
結果として――〈煉獄灼火〉と〈氷華〉は相殺された。
ならば、今度は別の手段――!
「〈纏風〉ッ!」
攻撃に風を纏わせる支援魔法――〈纏風〉を唱えると、俺は再び彼めがけて駆け出した。
「随分と多芸だな、面白いッ!」
俺は、彼めがけて袈裟斬りすると、彼も応じるように剣を受け止める。
――かかったな!
俺の攻撃から爆風が吹く。
「ぬっ?!」
彼は竜人族だからか、体幹がしっかりとしており、簡単には吹き飛ばされず、少しバランスを崩すだけだった。
でも――それだけでも、十分だ。
俺はこの隙を見逃さずに、何度も何度も剣を振る。
そんな時だった。
「っ……?!」
俺の怒涛の攻撃に耐えられなくなったのか、彼は大きく体勢を崩す。
これで、トドメだ……!
俺は剣を振りかぶり――
「龍の権能、其ノ零――〈解放〉」
「は……?」
刹那、彼の体から眩い光と爆風が吹き出した。
爆風は、トドメを刺そうとした俺の体を吹き飛ばし、地面に叩きつける。
「ぐっ……何が起こってるんだよ……」
一体、何が起こっているのだと、俺は彼に視線を移すと――
「龍帝の権能、其ノ壱――〈龍帝滅砕〉」
俺の目の前には、青白くなるほど熱くなった熱線が迫ってきていた。
この距離じゃあ回避はもう――間に合わない。
俺はなんとか急所は避けようと、身をよじらせる。
痛みに我慢するために歯を食いしばり、目を瞑った。
「〈聖英障壁〉ッ!」
しかし、俺を襲ったのは痛みでも熱線でもなく――聞き覚えのある可憐な声だった。